第600話 篝火の男
果たして、あれは生きていると言えるのだろうか?
焼死体のような見た目の兵士たちが次々と襲い掛かってくる。
そして人数はこっちの三倍近い。
ティアニス女王の一撃でかなりの相手を倒したにもかかわらず、だ。
驚いているヨハネに近づいてきた兵士の一人をアズが蹴り飛ばし、首を落とす。
首を落とされた兵士は再び起き上がることなく、そのまま倒れ伏していた。
「首を落とせば倒せます!」
「その辺はアンデッドと同じなのね」
アレクシアが燃え盛る戦斧を振り回し、数体の兵士を薙ぎ払った。
火が敵の兵士に燃え移るものの、気にする様子はない。
起き上がろうとしてきたので、マニが連れてきた王国の兵士が倒れた敵の兵士の首を落とす。
「燃やされた後だからか、火の魔法の通りが悪いわね。風か岩の魔法で直接破壊した方がよさそう」
「アレクシアちゃん、私が守るから魔法をお願い。あんな姿で使役されるのはあんまりにも可哀想だよ」
「司祭じゃなくても同じ気持ちよ。敵を近づけさせないで」
エルザが無防備になったアレクシアの守りに入る。
振り抜くメイスが容赦なく相手の頭を砕いていた。
エルザの顔色はかなり悪い。
相手の動きは鈍く、しかも直線的だ。
ヨハネやオルレアンのような非戦闘員はともかく、訓練を積んだ兵士ならば十分対応できる。
だが人数の差が問題だ。
囲まれれば相手の動きが鈍くても脅威となり得る。
アズはヨハネの護衛に集中しており、フィンは相性の悪さから処理速度が遅い。
「普通の兵士なら腱か首の血管を斬れば無効化できるってのに!」
「フィン、無茶するなよ!」
「チッ」
何度も斬られた敵の兵士がフィンに掴みかかろうとする。
だが、フィンは相手の膝を蹴って体勢を崩して相手の肩に飛び乗り危機を脱した。
フィンが負けることはなさそうだ。
「マニ千騎長! そっちの被害は!」
「数人やられた! これ以上囲まれるとまずいぞ」
こっちは被害はないが、マニの方は被害が出るほど苦戦している。
相手の増援がないとも限らない。
捕虜も捕れそうにないし、ここはできるだけ早く倒して戻らねば。
そうこうしているうちにアレクシアの魔法の詠唱が完了した。
「一気にいくわ。全員伏せなさい!」
慌ててこっち側の人間は相手から距離を取って全員伏せた。
アレクシアは頭上に展開した風の魔法を放つ。
カマイタチが複数発生し、敵の兵士へと飛んでいく。
するとカマイタチを受けた敵の兵士たちは次々と切断されていき、全て倒すことができた。
「やっぱり風の魔法は制御が難しいわね。相手がノロマで本能だけで動いてるからよかったけど、魔物なんかには使えないわ」
「だが今回は十分だろう。助かったよ」
「別に。私の仕事をしただけよ。こんな風に利用されてるのもちょっとどうかと思ったし」
マニたちはやられた兵士の手当てをしている。
エルザが治療を手伝っているのですぐ動けるようになるだろう。
だが最初に襲われた兵士と、それとは別に二人の兵士が犠牲になってしまった。
「協力に感謝します。我々だけでは少し危険だったかもしれません」
「ティアニス女王陛下の命令ですから。それにマニ千騎長が出向くんだからこれくらいはしませんとね」
「将軍の立場なのに迂闊でした。早くこういう仕事を任せる人間の選出を急がないと」
課題は多いようだ。
ここの後始末は後続の軍に任せるとしよう。
そう考え背を向けた瞬間、大きな音がする。
振り返ると、敵の馬車の荷台が壊れていた。
内側から強引に破壊されたようだ。
アズたちが警戒して武器を構える。
「なんっだぁ? 寝てたらこんな所で止まってるじゃないか」
馬車の中から大男が這い出してきた。
他の兵士とは違い、特に火傷を負った様子はない。
「抜け殻は本当に役に立たねぇなぁ。薪になるしか能がないから仕方ねぇか」
大男は動かない敵兵を躊躇せず踏み潰す。
そこに生命に対する敬意は感じられなかった。
敵であっても不快になる振る舞いだ。
「お前は誰だ。なんの目的で王国に侵入してきた!」
「女がいるじゃないか。それも数人。戴冠式を台無しにしてこいって退屈な仕事だと思ったが、楽しめそうだ。クリスプスの手抜き仕事の後始末で萎えてたが、少しやる気を出すかぁ」
マニの言葉を無視し、大男はこっちを見る。
下卑た視線を隠そうともしない。
「気持ち悪い視線向けんじゃないわよ」
フィンが動く。
瞬きする間に大男の後ろへと回り、膝の裏を斬る。
カクンと大男を支えていた膝が崩れ、片膝を付いた。
「おお?」
フィンはそのまま耳に向かって両手の短剣を刺しえぐろうとする。
だが大男は俊敏な動きで頭を下げて回避する。
追撃に移ろうとしたフィンは、しかし咄嗟に後ろへと飛んだ。
「なんだぁ、もう少しで捕まえられそうだったのに」
いつの間にかフィンがさっきまで立っていた場所に、大男にふさわしい槍が突き刺さっていた。
大男は再び立ち上がり槍を握る。
フィンが付けた傷はそのままだが、気にする様子はない。
「こいつ、普通の人間じゃないわ。腱を斬ったのに平然としてる」
「お前たちは俺が人間に見えるのか? 信心が足らないんじゃないのかぁ?」
「何をわけのわからないことを……」
アレクシアが戦斧を構える。
「俺を人間と一緒にするなよぉ。俺は太陽神教の使徒候補の一人。篝火のボンファム。お前たちを太陽神教の敵として燃やして我らが神への供物にする」
ボンファムの身体が一斉に燃えて火達磨と化す。
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