第523話 記念の一枚
奥の方でなにやら話していた二人を見つけた。
何かあったのだろうかと様子を見るために近寄っていく。
「アズ様……やっぱりこんな奇麗なドレスは私には似合わないです! 私は旦那様の従者なのですから、隅にひかえるだけでいいのですし着飾る必要は」
「またアズ様って言ってる。それにちゃんと似合ってて可愛いから大丈夫だよ。ほら、ちょうどご主人様が来たから見てもらおう?」
「えぅ」
オルレアンがさっとアズの後ろに隠れてしまい、ドレスが見えないように縮こまってしまった。
二人とも着替え終わっているようだ。
「二人とも気に入ったドレスはあったみたいだな」
「はい。手伝ってもらって着てみたんですが……どうですか?」
まずアズのドレス姿を見る。
エルザやアレクシアが着ていた露出のあるものとは違い、子供向けの可愛らしさを追求したドレスだった。
アズの瞳と同じ藍色を基調としており、胸元のリボンが良い感じだ。
「うん。とっても似合ってて可愛いじゃないか」
「えへへ。褒められると嬉しいです」
頭を撫でると嬉しそうにしていた。
それで気付いたのだが、髪に見覚えがある髪留めが身に着けていた。
「これって」
「はい。ご主人様に最初に買ってもらった髪留めです。大切に保管してて使うのはもったいなかったんですが、せっかくですので付けてみました」
「大切にしてくれるのは嬉しいが、身に着けてくれる方が嬉しいよ」
「それは分かってはいるんですが、もし失くしたらと考えてしまって」
「また買ってやるさ」
ひとしきりアズの頭を撫でた後、見て下さいと言われて色々とポーズをとるので眺める。
……最初にうちに来た時は死んだ目をしており、栄養失調で少し瘦せていたのが嘘みたいだ。
今では生命力に溢れ、人生を謳歌しているのが伝わってくる。
少女から女性へと成長する境目にあるからか、可愛さの中に美しさも感じてドキッとすることがあった。
少しアズを眺めた後、恥ずかしそうに両手でドレスを握りしめているオルレアンを見た。
「み、見ないでください旦那様。ドレスが似合わないのは分かってます。すぐに着替えますから」
「アズ。オルレアンが動かないように抑えてあげなさい」
「はーい、分かりましたー」
アズが笑顔で指示を実行する。
「アズ様!?」
「言ったでしょ。大丈夫だってば」
笑顔でオルレアンの後ろに回り、ぐいっとこっちに押し出す。
オルレアンは翡翠色のドレスを着ており、アズと並ぶとまるで姉妹のように見える。
顔は真っ赤になっていたが、視線だけは反応を気にするようにこっちを何度も行き来していた。
ここで何を求められているか分からないほど野暮ではない。
それに他人が欲しがるものを用意するのが商人だ。
「オルレアン」
「は、はいぃ」
声が上擦ってしまっていた。
「ドレスが似合ってて可愛いよ。人形みたいだ」
「ふぇ」
オルレアンは両手で顔を覆ってしまった。
普段感情を表に出さず、起伏が乏しいとすら思うことが多いだけにこの反応は新鮮だ。
やはり女の子なんだなと思った。
「良かったね。オルレアンちゃん」
「はい。嬉しいです……」
「ほら、後ろも。そーれっと」
アズは笑顔でオルレアンの肩を掴み、反転させる。
ひらりとオルレアンの髪とドレスの裾が少し宙に舞う。
そっと添える手がよりいじらしい。
もう一度回転させて正面が見えるようになると、オルレアンは髪留めではなくネックレスをしていた。
あまり主張しない控えめな彼女にはピッタリだ。
「……ありがとうございます、旦那様」
オルレアンはそっとドレスの裾を両手で摘んで広げると、膝を落としてお辞儀をする。
絵になる姿だった。
これだけのためにドレスを買っても惜しくはないと思えるほど。
「それじゃあ全員集まって確認し合うか。俺だけの意見よりもそっちの方が良いだろう」
「そうですね。そうしましょう」
「皆様にも見せるんですか!?」
「……オルレアンちゃん、式典に出るドレスなんだからもっと沢山の人が見るよ?
」
「やっぱりいつもの服装でいいです」
「諦めなさい」
全員で一ヵ所に集まる。
エルザとアレクシアは最初より少し露出を落としたおとなしめのデザインのドレスにしていた。
それでもスタイルがいいから見栄えがするし、色気もある。
フィンは黒のドレスでアズとオルレアンは先ほどのままだ。
五人が並んだ姿はまさに華があるの一言だろう。
これは目立ってしまうかもしれない。そう思うと男として誇らしい。
普段とは違う新鮮な姿に新たな魅力を感じる。
……はずだ。
「アレクシアだけいつもとそう変わらない気がするな」
「それは! ご主人様が趣味で私にだけバトルドレスを着せるからでしょう! もう、けっこう恥ずかしいんですからね、あれ」
アレクシアは最初に出会った頃から生意気なのとよく似合うという理由で、ドレスに武具を合わせたバトルドレスを着せていた。
だからドレスで着飾った姿はいつも見ており新鮮味はないというわけだ。
しかし、そんなことは些細な問題だ。
「悪い悪い。でもやっぱりお前にはドレスがよく似合う。とっても奇麗で好きだぞ」
本心だった。
「褒めたって誤魔化されないんだから……」
「ふふ、良かったですね。ちゃんと褒めてもらえて」
「うるさいわねっ」
アレクシアはからかわれた仕返しにとエルザの両頬を掴んで引っ張っていく。
「なにやってんだか。年長組なんだからもう少しお淑やかにできないわけ?」
「フィンちゃん。そんな言い方すると私がおばさんみたいに聞こえるから、やめてね?」
エルザはアレクシアを押し退けてフィンの肩を掴むと、顔を近づけて警告するように言った。
そんな様子に面白くてつい笑ってしまった。
「お客様。よろしければ一枚写真でもいかがですか?」
「写真か。せっかくだし頼もうかな」
「はい、かしこまりました。お並びください」
スタッフの指示に従い六人で横に並ぶ。
アズとエルザがすっと隣に移動してきた。
「では写真を撮らせていただきます。はい、チーズ」
カシャリ、という音と共に写真が保存された。
魔石を利用して紙に転写される。
なかなか良くできた一枚になった。
家に飾るのもいいかもしれない。
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