第514話 騎士は死を恐れない
盾を持つ騎士が前に出て襲いくる魔法を受け止める。
その合間を縫って弓兵が矢を放って反撃した。
矢の殆どは風の魔法で弾かれたものの、一本が腕を貫く。
血が出ることはなく、当たった場所が霞のように揺らいで元に戻った。
物理攻撃は効果がないのかと思ったが、それならば矢を弾かずに攻撃に余力を割くはずだ。
魔法と矢の打ち合いが展開される中で、ジルが世界の主に接近を試みる。
巻き添えを食らわないように左へと走り、壁に辿り着いたら今度は跳んで壁に対して垂直に走る。
大剣を抱えているにもかかわらず曲芸師のような身軽さだ。
魔法の標的がジルに切り替わるが、それらを大剣で薙ぎ払い一気に距離をつめて大剣を振るう。
あと少しで当たると思いきや、空気の壁が阻む。
空中で推進力を失ったジルはそのまま後ろへと押し戻された。
攻撃は失敗に終わったが、魔法の弾幕が薄れたのを見計らって騎士たちが数歩前進している。
数の利はイザード王にある。
相手はそれを補うかのように手数で対処しているが、それにも限界があるようだ。
ジルの接近を嫌がったことといい、無敵ではなさそうに見える。
戦場でも魔物討伐でも魔法と弓、どっちが強いかは度々話題になってきた。
純粋な火力は魔法に分がある。ただし魔力が尽きれば何もできなくなる。
弓は矢がある限り矢を放つことができ、熟練した者ならば急所に当てることも可能だ。
死角から放てば弓は不意打ちできるが、魔法は魔力の関係で必ず探知されてしまう。
その代わり応用力が魔法にはある。
結局のところ運用次第という話になり、この議論に決着がつくことはない。
この場においては弓を扱うイザード王たちが有利に見える。
世界の主の魔法はかなり強力なのだが、騎士の堅牢な盾を突破するには至らない。
「小癪な連中だ」
相手は魔法の発動を一旦止め、両手を合わせて魔力を溜めている。
矢が降りそそぎ、何本かは空気の壁を突破して当たる。
その度に霧散するが、やはりすぐに元に戻った。
「あれは強引な実体化をこれまで搾取してきた魔力で支えてるようだな。だから矢に当たると実体化が一瞬解けちまうんだ」
「だからそこだけ霧みたいになるのか……霊体だから物理攻撃が利かないわけじゃないよな?」
「霊体なら祝福を受けた攻撃でなおさらダメージを負うだろうよ。魔力が切れたら向こうは終わりだ」
イエフーダの見解にヨハネは頷く。
あの体そのものが魔力を蓄えるタンクのようなものなのだろう。
普通の肉体とは違い、ダメージを受けても血が出たりせずすぐに回復する。
しかしその代償として魔力が消費されるようだ。
魔法による攻撃もそうだが、全て魔力を基に行動している。
それを使い切らせるのにはどれだけ時間がかかるのだろうか。
ゲートが出現し、そこから大きなミノタウロスが二体出現する。
鎧と兜を装着しており身の丈くらいはある両刃斧を両手で抱えていた。
ミノタウロスたちは雄叫びを響かせて一気に突っ込んできた。
一体はジルが対処し、もう一体がイザード王の方へと攻撃してくる。
盾を持つ騎士が両刃斧を受け止めるが、凄まじい力にたじろぐ。
そこへ魔法が撃ちこまれ、イザード王を庇って騎士の一人が撃ち抜かれる。
騎士の身体は霧散していった。
「すまぬ」
イザード王が庇った騎士にそう告げると、次の攻撃のために両刃斧を振りかぶったミノタウロスの前に立つ。
「ぬん!」
掛け声と共に、タイミングを合わせるようにしてイザード王の黄金の剣とミノタウロスの両刃斧が衝突した。
その結果は……イザード王の剣が武器ごとミノタウロスの首を斬り落とした。
首を失ったミノタウロスはそれでも動こうとするが、盾を持つ騎士がシールドバッシュで押し倒すと形を保てず霧散していった。
もう一体のミノタウロスはジルに向けて両刃斧を振るう。
いかに膂力のあるジルでもイザード王のように正面からは打ち合えないようで、回避に専念している。
隙を見て両刃斧の上に乗り攻撃してはダメージを与えていた。
それを援護するようにしてミノタウロスの身体に矢が撃ち込まれている。
鎧の隙間へと針山のように見えるほど刺さると、その動きは鈍っていった。
右目を矢で射貫かれてよろめくと、ジルが大剣の側面で矢尻を叩いて押し込んだ。
それがトドメとなり二体目のミノタウロスも退治する。
「ならばこれならどうだ」
世界の主は両手を広げて左右に黒い球体を生み出す。
その球体は魔法を放ってきた。
単純に三倍の数の魔法が降りそそいでくる。
ゆっくりと距離を縮めていたイザード王たちの進軍がついに止まる。
防御も分厚くなっているようで、矢も通らなくなっていた。
このままではじり貧になってしまう。そう思った時、長槍と小さな盾を持った二人の騎士が盾の庇護から抜け出し駆け出す。
二人の騎士は魔法による弾幕を小さな盾で弾きながら走る。
弾幕に耐え切れず小さな盾は砕けたが、それを捨てて走りながら槍を投げる体勢になった。
火の槍や風の刃などの多種多様な魔法に晒されながらも、騎士は一歩も引かず見事に槍を投げ抜いた。
それと引き換えに二人の騎士はダメージを受け消失する。
槍は少し弧を描くようにして見事に黒い球体へとたどり着く。
空気の壁による防御も勢いを得た長槍を止めることはできず、貫いた。
その影響で球体から魔法が放たれなくなり、イザード王がその隙を見逃すはずはない。
一気に走り寄る。
迫りくる魔法は黄金の剣で弾いていた。
そして黄金の剣が世界の主の胸に突き刺さる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます