第460話 塔を登るべし
「オスカー……。ああ、知ってますよ」
エルザの言葉に神学者はしばし考えこんでいたが、聞き覚えがあったようで反応した。
「しかしよく読めましたね。私が見たどの文献にも載っていなかった文字なのに」
「私が育った修道院に保管されていた書物に載っていましたから」
「……なるほど。各地の修道院にならそう言った本が残っていてもおかしくないか」
神学者はそう言って塔の文字を書き記す。
「オスカーは戦士といいつつ、あらゆる秘儀に秀でていたと言われております。バルバロイが純粋な戦闘力の高い神なら、オスカーは応用力に優れた神と言えるでしょう」
「その塔がこれというわけか。司祭というのも物知りなのだな」
「いえ、そんな。たまたまです」
公爵に視線を向けられたエルザはそう言って返した。
創世王教の司祭ということは公爵には教えていないが、何故そんなことを知っているのかと思われただろう。
「神の塔か。迷宮として現れることは稀にあると聞いたことがあるが……、このように突然出現するとは思わなかったな」
「普通の迷宮なら兆候が確認されるものですが、この辺りはなにもない平野だったはず」
「問題はこれが危険かどうかだ。太陽神教がなにか仕掛けたと思って見に来たのだが……」
塔の前でそうやって話していると、入口がひとりでに開く。
「入ってこい、と。神直々の招待であれば行かないわけにはいくまい。どのみち危険があるかどうか調べる必要がある」
「公爵様までなにか入るのはさすがに危険では……」
「いざとなればアナティアが後を引き継ぐだけだ。その為に安全な王都に避難させているのだから」
公爵様はてっきり外で待機するのかと思っていたら中に突入する様だ。
戦力にもならないから入らないとは言い出せそうにない。
それにエルザのことも気になる。
役に立たないとはいえ、バッグには色々と物資がある。荷運び屋として働くとしよう。
「そこの司祭。エルザだったか? 他になにか分かることはあるか」
「いえ、なにも。ただ私たちが登らなければ太陽神教が攻略しようとするでしょう。そうするとあまりいい結果にはならないと思います」
「それはそうだ。神の遺物を奴らが放置するとは思えん。手に入れるか破壊するかは分からんが……」
「しかしなぜ今この塔が姿を現したのか分かりませんね」
「神が居れば聞けばいいだろう。居るならな」
公爵は軍を指揮し、内部に突入していく。
馬は入れないので軍の一部を帰還させて一緒に連れて行った。
ここに残していくと魔物に狙われてしまう。
塔の中に入ると、中は広間になっており見た目以上に広い空間が繋がっていた。
入り口を見た時は軍隊が入りきらないと思ったのに、余裕が感じられるほどだ。
「この塔の内部は空間が歪んでるわ。収納魔法の応用かしら」
「大層な塔だけに仕掛けも大掛かりってわけ」
アレクシアの言葉に頷いた。
普通の空間でないことが感じられる。
広間の奥は階段になっており、上へと繋がっているはずなのだが。
「あれって、壁ですか? 階段の奥が閉じているように見えるんですが」
アズの言う通り、階段の奥には壁があって先に進めないようになっていた。
どういうことだろうと思っていると、広間の中心に突如光の柱が出現する。
そこには一人の人間が居た。
中性的な顔立ちで性別が判断できない。
髪は青色で肩まである。左側だけ一部を三つ編みのようにしている。
服装も少しゆったりとしたローブの下に、タキシードを改造したような服を着ているので体格が分かりにくい。
ただ一つ言えるのは、神秘的なほどに美しいということだけ。
訓練された騎士や軍人ですら呆気にとられて何も言えない中、公爵がその人物に向かって進む。
「貴公は何者か」
すると問われた人物は右手の人差し指を自らの唇の前に持っていった。
静かに、というジェスチャーだ。
エルザの方を見るとウィンクした。
そしてそのまま右手の人差し指を階段に向ける。
「お会いできるのを楽しみにしてますよ」
そう言って消えてしまった。
次の瞬間、突如魔物が足元から出現する。
一瞬騒ぎになりつつも、現れた魔物が最弱と呼ばれるような種類ばかりだったことと訓練された者たちで構成されているためすぐに収まり、魔物を退治していった。
うちのメンバーもそれに参加する。
広い空間に出現した魔物を全て倒すと、中心に小さな宝箱が出現し階段を塞いでいた壁が消えていった。
一緒に魔物も消えていく。どうやら迷宮と似たようなシステムらしい。
しかも素材も残らないようだ。
「これは……なるほど。神の試練というわけか」
「こういうことだったのか。記録に残しておかねば」
公爵が宝箱を開けると、そこには少量の財貨が入っていた。
宝箱の大きさからすると少ない。
そして中身を取り出すと消えていった。
「なんというか、思っていたのと違うな。もっとなにか劇的なものかと」
「ここは低層ですから。登って行くうちに分かりますよ」
「おいエルザ、やっぱり何か知ってるんじゃないのか? さっきもエルザの方を見ていた気がするんだが」
「気のせいですよ、きっと」
聞いても答えははぐらかされた。いつも通りというところか。
公爵の軍と共に塔を登っていくことになった。
最初の方はどれも弱い魔物で、一般人でも武器を持てば簡単に倒せるような相手ばかりだ。
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