第459話 塔の名は
公爵の提案はとても断れる雰囲気でもなく、頷くしかなかった。
同行するだけなら報酬は知れている。
活躍する機会があるかも分からないのでその代わりに、あの塔らしき場所で得たアイテムなどは買い取らせてもらえるようにしてもらった。
公爵が許可を出した物に限られるが、中には掘り出し物もあるかもしれない。
それくらいの旨味がないとやってられないというものだ。
呼び出された要件はそれだったようで、そこで話は終わった。
後日出発するということで宿がないことを理由に一度断ろうとしたが、公爵の屋敷に一泊することになる。
そのまま一緒に戻ることになり、あれよあれよという間にフィンたちと合流した。
フィンは横になりながら柔軟をしており、オルレアンは本を読んでいる。
「断りなさいよ。どう考えても不吉な予感しかしないでしょうが」
「あの空気の中でお断りしますなんて言えるわけないだろ」
「そんなんだから苦労するんだってば」
経緯を伝えるとフィンからはそう言われてしまった。
言いたいことは分かるが、無理なものは無理だ。
あ、こら。ため息をつくんじゃない。
周囲は公爵の護衛やお抱えの魔導士で囲まれている上に、じっとこっちを見ていた。
公爵家の護衛に悪い感情は持たれていないと思うので、あれはきっと一緒に来るよな? という同調圧力に違いない。
「どうぞ。お疲れさまでした」
オルレアンが温めた濡れタオルとお茶を人数分用意してくれたので、ありがたく受け取る。
気持ちいい、生き返るようだ。
「まぁ、公爵の軍と一緒に迷宮探索をすると思えばそれほどリスクもないと思う」
「どうかしらね」
アレクシアは武器を立て掛けて椅子に座る。
帰り際も何か考え込んでいたようだし、思うところがあるようだ。
「ご主人様は迷宮に関しては書いてあることしか知らないでしょ」
「それはそうだが……」
「なにがあるかわからないのが迷宮なの。ましてやあれは迷宮かどうかも分からない得体のしれない場所よ。貴族相手だと脇が甘いというかなんというか」
以前牢屋にぶち込まれた時のことを未だに覚えているようだ。
そう言われるとなにも言えない。
「だ、大丈夫です。私たちがちゃんと守りますから」
しょぼくれたように見えたのだろう。
アズが精一杯カバーするように、こっちに来て励ましてくれた。
「本当は置いていった方が安全なんだけど……あんたが誘われたんじゃ一緒に行かないわけにはいかないわよね」
「すまんな」
うーん、安請け合いだったか。
しかし誰も行ったことがない未知の場所というのは男心をくすぐられる。
今回のことがなかったとしても一度行ってみたい気持ちはあった。
「何事もなければいいんですけど……」
呟くように言ったエルザの言葉がやけに耳に残った。
公爵家の晩餐を部屋で頂く。
普段は口にできないような高い肉に高級フルーツをごちそうになった。
「おいしい。でもこれが最後の晩餐にならないでしょうね」
「フィン。それはいくらなんでも不吉すぎるからやめなさい」
「あはは……」
「いいから食え。ただ飯だ」
次の日、指定された場所ではすでに行軍の準備が終わった公爵の軍隊が待機していた。
聞かされていた時間より早く到着したのだが、勤勉な軍隊だ。
公爵も全身武装しており、一緒に行くらしい。
……ただ耐魔のオーブが見当たらないな。
もしかして今もってないのだろうか。
時間になり、進軍を開始する。
一応客人扱いということで公爵の馬車に乗せてもらった。
しかしアナティア嬢ならともかく、バロバ公爵と和気藹々と話すというわけにもいかず少しばかり重い空気だった。
護衛の人は外に出ているので尚更だ。
ちなみにあれを塔だと言った神学者も一緒に乗っており、公爵に色々と説明していた。
静まり返るよりはマシだし、知らないことばかりなので話としては面白いのだが具体的なことは何も分からない。
なにが起きるかは実際に行ってみないと分からないようだ。
「ああいった巨大な塔はコンステレーション、と呼ばれたようですな」
「どういう意味だ?」
「分かりやすく言えば星座……でしょうか。天上の神に最も近いという塔という意味が込められているとこの書にはあります」
星座、か。
天上の星を線で結ぶと絵になり、それを星座と呼んだ。
季節によって見える星座が変わる。
それで季節を確認することが長い間続いていた。
今でも多くの場所ではそうしているだろう。
星に祈るという言葉があるように、居ない神より見える星に祈りを捧げる方が御利益があるような気がする。
だがどうやらその星座と神にもなにか関係があるようだ。
「星座の塔、か。なんに使うかは分からんのか?」
「対応する神によって様々らしいですなぁ。詳しく書かれた本は失われておりますが……例えば創世王の塔であれば最上層まで登ったものに武器を与えるとあります」
「かの有名な創世王の武具か」
「ええ。一度使えばあらゆる敵を打ち倒すという伝説のアイテムです。一度切りの使い切りですが、山より巨大な魔物を跡形もなく吹き飛ばしたとか」
「王冠を探す最中に噂くらいは聞いたことがある。結局手に入ることはなかったが」
創世王、という言葉が聞こえた瞬間エルザが聞き耳を立てたのが見えた。
やはり司祭だけに気になるようだ。
話を聞いた感じ、試練を受けるだけのようだ。
もしそうなら比較的安全で助かるのだが。
やがて塔に到着する。
地面に近いほど狭く、上に行くほど広がっているように見えた。
これは昇るのが大変だろう。
入り口にはなにか文字らしきものが掘られていた。
「読めるか?」
「試してみましょう。古代神学文字に近いようです」
神学者が眼鏡をかけて解読しようと試みる。
だが、知っているどの文字とも違う様で難儀していた。
「オスカー。オスカーの塔です」
エルザがそう告げた。
「バルバロイと共にこの世界に訪れて、太陽神と最初に戦った戦士の神の塔ですよ」
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