第430話 怪しい二人
地下通路を歩く。
……長い通路だ。
所々に仕掛けがあるようで、その度にフィンが合図をするのでそれに従う。
一本道の通路で、横に逸れる道はなさそうだ。
通った後に塞がれた場合はどうやら分かるらしい。
長く掃除も換気もしていないような、こもった空気に辟易しながらしばらく経つと明らかに風の流れを感じられるようになった。
出口が近い。
他の皆は武器に手を掛けつつ、緊張しながら向かう。
「ここを昇ったら出口よ。気を引き締めて」
無言で頷く。
石の階段はやけに音が響く。
天井らしき場所からは薄っすらと光が漏れていた。
あそこから出られる。
フィンは左手に短剣を構えて、右腕で天上を押し上げる。
だが動かない。
「これ、なにか重しがあるわね」
「代わって」
エルザがフィンと位置を交換した。
メイスを両手で握りしめる。
そして距離をとるようにジェスチャーをしたのでそれに従って大きく下がった。
「せーの」
下から上へ。
メイスが狭い通路の壁に当たらないように小さく弧を描き、天井に衝突する。
大きな衝撃と共に天井が開いた。
どうやら板の上に重石を置いて蓋にしていたようだ。
アズくらいはある大きさの石なんだが、それを板越しに吹き飛ばすとは。
「司祭様は怪力でいらっしゃる」
「そんなことないですよ。ふふ」
アオギリがそう褒めると、エルザは口元に右手を持っていき謙遜する。
……そう言われて信じる者はいないと思う。
なんにせよ通れるようになった。再びフィンに先頭に立ってもらい、地下から抜け出す。
出た場所はどうやら浅い洞窟のようだ。
入り口から差してくる光がさきほど見た天井の明かりなのだろう。
フィンは少し呆れていた。
「こんな洞窟の中に出口を作ったのか。そりゃあ誰も気付かないわけね」
「国の一都市にそんな手間をかける方が異常よ。これが王都ならまだしも」
「確かにそうだな。もしかしたらこの洞窟もそのために用意したのかもしれないし」
アレクシアの意見に同意する。いくらなんでも手間がかかり過ぎていた。
ちょうどいい場所に洞窟があるとは限らない。
土の魔法を使えば不可能ではないだろう。
これは計画的な犯行だ。
この通路を使えば、いくらでも悪さができる。
洞窟にはなにもなかった。
数歩も歩けば奥に当たる小さな洞窟だ。
出入口以上の価値はないだろう。
洞窟の外に出ると平原が広がっていた。
ここは……カソッドの西にあるフェルビナ平原だろう。
目印になる一本の大きなフェルビナの樹がここから見える。
「周囲に誰かいないか? 遮るものはないからもし誰か居たらここから見えるはずだ」
全員で周囲を見渡す。
すると、西を見ていたアオギリが声を上げた。
「あれじゃないか? こっちに背を向けている二人組がいる」
言われた方を見ると、確かに二人の背中らしき姿が見える。
だが違和感があった。
二人組のうち、片方の身体が異様に大きいような気がする。
「とりあえず追いかけよう。違うなら違うで構わない」
「分かりました」
向こうは歩いているので、距離はあるものの走れば追いつきそうだ。
フィンとアオギリが先頭に立って走る。
他の皆がそれに続いた。
……本気で走られたら追いつけない。
走ると相手に音が伝わるのではと思ったが、そこは消音の魔法を使うことで解決した。
便利だな。本当になんでもできる。魔導士は一生食うに困ることはなさそうだ。
魔石に魔力を注ぐだけでも金になるし、魔法の才能が欲しかった。
次第に後ろ姿が近づいてくる。
「なぁ、あれって」
「やっぱりご主人様もそう思います?」
「普通じゃないわね」
近づくほど相手の姿が大きくなるのは当然のことだ。
そして明らかに相手が巨大に見えるとしたら、それはおかしいのは相手の大きさそのものだということになる。
「そこの人たち。止まって」
声が届くほどの距離になり、制止の声をかける。
魔法のおかげで相手はこっちのことを今知ったはずだ。
声を掛けたのと同時に相手の動きが止まる。
後姿から相手のことを推測した。
……二人組のうち、片方はピンク色の髪をした女性に見える。
もう片方は、成人男性二人分の背の高さはあるだろうか。
まるで巨人だ。
「オーエン。上手く逃げてきたと言ったではないですか」
「おかしいなぁ。あの通路は見つかってなかったはずなんだけど」
しぶしぶ、といった感じでこっちに振り向く。
ボブカットのピンク色の髪の女性がどうやら探していたオーエンのようだ。
……女だったのか。
もう一人は恐らくオーエンを迎えに来たのだろう。
こんな大きさであの通路を渡れるはずがない。
いやそもそもどう考えても目立ちすぎる。
「面倒ですね。ですが、いいでしょう。試運転もしたかったところです」
「見つかったからにはね。ネフィリムの力を見るにはちょうど良さそうみたいだし」
シャラン、という音が聞こえた。
巨人はローブから錫杖を取り出す。
腕は異様に細い。触ったら折れてしまいそうだ。
「我らが神の火を灯す薪になってしまえ」
その錫杖を地面に突き立てた瞬間、周囲が結界に覆われる。
――体の奥底が燃えるように熱い気がした。
「創世王の名において」
エルザがロザリオを千切る様に外し、右手に掲げる。
「我らが敵を退けたまえ」
ロザリオが輝いた瞬間、熱が消えていく。
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