第429話 怪しい階段

 アズが連れてきた憲兵隊が、床に伸びている連中を連行していく。

 言い分を認められた形だ。こういう時に日頃の信用が大事だなと実感した。

 まぁ、王女のひも付きかつ公爵令嬢との関わりも関係しているのかもしれないが。


「口が軽いと思ったが、金で雇われただけの連中だったね」

「悪人の考えそうなことだ。すぐに切り捨てられるようにってことなんだろう」

「違いない」


 ククっとアオギリは笑った。

 どうやら彼女も色々と経験があるらしい。


 憲兵が来るまでに情報は搾り取ったが、下っ端だったのかあまり収穫はなかった。

 まず首謀者の名前が判明した。


 オーエン。そう呼ばれている人物がこの一件を主導しているらしい。

 男たちを雇った時も人伝で行い、直接姿を見せておらず男か女かも分からないそうだ。


「善は急げだ。逃げられる前にカチコミと行こうじゃないか。あんた商人なら土地勘もあるんだろ」


 いくつかの拠点の場所も聞き出すことができた。

 捕まったという情報が向こうに渡ると証拠や繋がりを処分される可能性が高い。


「分かった。治安が悪化するとうちも影響を受けるし、早めに片をつけるのは良いアイデアだ」

「だろう。私一人で行ってもいいんだが、一応おたくに従えって言われてるんでね」


 アオギリの言葉に頷く。

 戦えるメンバーは全員連れていこう。

 後はここに残るカズサに任せればいい。


「カズサ、ここは任せるぞ。今日はもう大丈夫だと思うが、もし心配なら軽食の方は閉めてもいいからな」

「了解、オーナー。お客さんや皆もちょっと怯えてたけどあっという間に退治したから大丈夫になったみたい。ちゃんと売り切れまで店は開けるよ」

「そうか」


 逞しい返事が返ってきた。

 さすがは魔物を相手に生き抜いてきたポーターだ。

 根性がある。


 アズたちにアオギリを加えたメンバーを連れて移動する。

 都市の隅々まで把握しているのはこの中ではヨハネだけだ。

 アズやアレクシアもカソッドにだいぶ慣れてきたとはいえ、聞きだした拠点の場所を案内無しに向かうのは難しい。


 駆け足気味で移動し、次々に拠点を襲撃していく。

 聞いた場所は四つだが、半数は普段使われていないのかただの物置小屋のような場所だった。空き家になったところを無断で利用しているのだろう。

 こうなるのが分かっているので、ジェイコブも最近は移住状況の確認などに力を入れていたはず。

 まだその調査が及ばない外周部を狙っていたと思われる。


 特に得られる情報もない。

 残り二つのうち、一つは呑気にポーカーをやっている四人組がいた。

 突然ドアを蹴破ってきた我々に唖然としていたところを捕縛する。


 こいつらは後で憲兵に突き出そう。

 これは不法侵入じゃない。不法占拠者に襲われたのでその反撃だ。

 正直かなり苦しい言い分だが、犯罪者相手なら通せるだろう。


 最後の拠点に到着する。

 他とは違い、少し大きめの倉庫だった。

 人の気配はないが、フィンの目は欺けない。


 あっという間に一階の地下の隠し階段を発見する。

 不自然な床板を外すと姿を現した。

 恐らくオーエンはどこからか情報を聞きつけ、この通路を使って逃亡したのだろう。


 もしくは別の都市の人間なのかもしれない。

 遠回しにだがカソッドにダメージを与えるために色々としていたのかも。


 もしこの通路が都市の外に繋がっていれば、死刑もあり得るかなり重い犯罪だ。

 都市の中は安全でなくてはならない。

 これは都市を治めるうえで絶対に必要なことだ。

 城壁は外部の危険から中を守るためにある。

 城門は安全だと確認されているものしか入れないという決まり。


 これが無意味になってしまう。


 以前太陽神の銅像が暴れた際は非常に危険だった。

 連日動物が襲われ、次は人間かと噂が広がり都市機能が崩壊寸前に陥っていた。

 ……まあ、あれはろくでもない領主の息子のせいでもあるが。


「おやおや、とんでもないのが出てきたねぇ。どうしようか? これを報告して塞いでもらうだけでも十分効果はあるだろうけど」

「そうだな……」


 内密に掘ったであろうこの地下階段。

 周囲に悟られずに実行したなら相当に手間暇がかかったはず。

 それを台無しにすれば向こうも諦める可能性は高い。


 だが、それは可能性だ。

 もしこれが金銭目的ではなくなんらかの信条によってやったことなら、またやるだろう。

 それはやるかやらないかの決定が損得ではないからだ。

 平然と命を捨てた太陽神教の連中がまともではなかったように。


「ちゃんと確認しよう。もしかしたら追いつけるかもしれないし、通報するにしてもどこに繋がっているのか確認する必要がある」

「あいよ。先導はそこの黒いお嬢ちゃんに任せたいもんだね」

「私の名前はフィンよ。お嬢ちゃんなんて呼ばないでちょうだい」

「覚えとくよ」

「ふん。まあトラップがあるでしょうし、待ち伏せも警戒しないといけないから私しかいないか」


 フィンはそう言うと、アレクシアから明かりの魔法を受け取る。

 真っ暗な地下へと続く階段が照らされた。


「私が通った場所以外は絶対に通るな。壁にも手をつかないこと。守れないならついてこないで。いいわね?」


 警告に頷き、フィンの後ろへと続く。

 こういう時は本当に頼りになる。

 地下階段は苔が生えていてすこし滑りやすいが、どんどんとフィンは進んでいく。

 置いていかれないように注意しながら進んでいくのは骨が折れた。


「風がある。どこかと繋がってるわね。それが外かは分からないけど」


 フィンには風が感じられるようだ。

 正直さっぱり分からないが、アレクシアやアオギリは頷いていた。

 鋭い感覚があれば感じ取れるようだ。


 しばらく階段が続き、降りた後は通路になっていた。

 空の燭台が等間隔にとりつけられている。


「思ったより本格的ね。もしこの都市を落とそうと思ったら、ここを使えば一日で可能なんじゃないかしら」

「怖いことを言うなよ」


 戦争を知るアレクシアが言うと洒落にならない。

 だが事実だろう。

 最初に比べて緊張が張り詰める。


 こうなると性産業を認可なくやろうとするチンピラ、というだけでは済まなくなってきた。


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