第404話 門の攻防戦
火柱を見て相手が怯んでいる間に弓を打ち怪我人を増やしていく。
夜目が利くフィンはもとより、エルザも弓の扱いが上手い。
少しでも前に出てきた兵士の鎧の隙間を見事に射貫く。
アズの投石も当たれば相手の鎧が凹むほどの威力だ。
目が良いだけにどこかには当たっている。
「けが人は引っ張って後ろに下げろ! ……ぬう」
相手の指揮官は最初に比べて威勢が落ちてきている。
最初は門を取り囲むほどの兵士がいたのだが、明らかに減ってきているのがこたえているのだろう。
本来はこっちが少数であることがすぐ露見しそうなものなのだが、フィンが弓矢を一矢打つ毎にすばやく移動して場所を変えている。
それがうまくかく乱に繋がっているようで、いまだに相手はこっちにそれなりの人数がいると思って突撃を躊躇していた。
戦いのことはよく分からないが、リスクとリターンに関してはよく分かる。
明らかに損をする。つまり兵士がやられると予想できる状態では、いくら血気盛んでも慎重になる。
その状態を変えようと迂闊に前に出れば弓矢が飛んでくる。
アレクシアはその状況を長引かせることで戦況をコントロールしているのだ。
相手もただ手をこまねいているわけではなく、弓を打ち返したりもしてくる。
しかし火柱の熱気が矢の軌道を反らして外させる。
魔法は全て目立っているアレクシアに向けてくるので、それらを全て相殺して無効化してしまう。
改めてアレクシアの魔導士としての技量の高さと魔力量は並外れているのだと感じた。
このまま朝を迎えれば相手は撤退するに違いない。
中央の戦況次第ではもっと早いかもしれない。
負けた時のことは考えたくはないが、この様子ならいざとなれば強引に逃げられる気もする。
オルレアンと二人で詰所の中で身を寄せ合って座る。
気温はそう低くはないのだが、緊張からか冷や汗で体が冷える。
すると、オルレアンが両手でこっちの右手を包む。
「大丈夫です。他の皆様がいない今、私が旦那様をお守りします」
「……頼りにしてるよ。ありがとう」
「当然のことです。旦那様には大変恩義がありますので」
人の温もりに触れたからか、少し緊張が和らいだ気がする。
アレクシアは相変わらず門の上で相手の攻撃を弾き、仁王立ちして威圧している。
次第に相手はこっちの戦力というよりもアレクシアに恐れをなしてきたようだ。
……そういえばアレクシアが王国に捕まった時も、味方を逃がすために一人でしんがりになって大暴れしたんだった。
当時は今よりも弱かったはずだが、それでも相当な暴れっぷりなのだから今だと一人で百人位を相手にできるかもしれない。
そんなことを考えていると、ガサガサと草木が揺れる音がした。
あまりに不自然な音にオルレアンと共にそっちへ視線を向けると、二人の兵士が身を屈めて潜入してきていた。
瞬時にどうやって、と考えた。
来た方向から察するに、大きく迂回して壁をよじ登ってきたのか。
アレクシアは門の前の敵に専念しており、兵士が現れた場所はフィンやエルザからは死角になっている。
アズがとっさに気付いて、投石器を手から離して剣を持ってそっちへと向かう。
しかし兵士はすでに弓を大きく引いており、体勢を整えていた。
「アレクシア!」
せめて注意をしようと名前を呼ぶ。
いよいよ弓から矢が放たれようとしたとき、オルレアンが弓を持つ兵士に視線を向けた。
「弓だけ狙って」
小さくそう呟くのが聞こえた。
次の瞬間、兵士の持つ弓が燃えあがり服へ燃え移る。
悲鳴と共に地面に転がって鎮火させたが、火が消えた頃にはアズが駆け寄り鞘のまま兵士二人を殴打した。
恐らく剣を抜く暇も惜しいと考えたのだろう。
アレクシアは一瞬だけ視線を向けたが、対処済みだと判断したのか視線を戻す。
本当に肝が太い女だ。
今は信頼関係があるからいいが、であった頃にアレクシアが奴隷という立場でなければとても御せなかっただろう。
殴打された兵士は二人とも気絶しており、何もできないように縛った。
骨くらいは折れているだろうが、命に別状はない。
しばらくは大人しくしてもらう。
「ネズミが入ってきたようだけど、その程度じゃ話にならないわよ」
「チッ」
相手は舌打ちで返事をした。
「まだ破城槌はこんのか!」
「いま到着しました!」
兵士たちが道を開けると、そこには巨大な木の幹で作られた杭のようなものが姿を現した。
「準備がよろしいこと」
アレクシアは呆れたように皮肉を言い、破城槌を見下ろす。
周囲には盾を持つ兵士たちが護衛に入り、魔導士も守りを固めていた。
「突撃しろ! 門を破ればこっちのものだ。あの生意気な女も好きにしていいぞ!」
巨大な兵器の登場で活気づいたのか士気が盛り返す。
そして勢いよく門へと破城槌を叩きつけた。
アレクシアは小さくため息をつくと、門に衝撃が伝わる前に後ろへと飛び降りる。
土の魔法で補強された門は、その一撃に耐えたが衝撃でパラパラと破片が落ちていく。
「少しじれったかったから丁度いいですわね」
あまり良い状況とは思えなかったが、アレクシアはそう言って舌なめずりして笑った。
次の瞬間、アレクシアの足元から熱風が沸き上がりドレスの裾を揺らし、奇麗な太ももが露わになる。
戦斧を門へと向け、口元で何かを呟いている。
呪文の詠唱だ。
周囲から熱が奪われていく。
温かいのはオルレアンの周りだけだ。
奪われた熱は全てアレクシアの戦斧に集まり、凝縮されていく。
ドンと二度目の大きな音がする。
それにも門は耐えたが、しかし明らかに崩壊の兆しがあった。
次は耐えられないだろう。
戦斧の先に火の玉が浮かぶ。
小さいながらも周囲を昼間のように明るく照らした。
これはたしかアレクシアの一番強い魔法だ。
ただ、以前よりもずっと輝きが強い気がする。
火の精霊が宿ったブローチと共鳴し、まるで小さな太陽のようだ。
三度目の衝撃と共に門が破られた。
それと同時にアレクシアが破城槌へとその魔法を撃ちだす。
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