第378話 強欲な主人の為に

 主人に渡した時に分かりやすいように種類で分けた後、道具袋に入れていく。

 こうしておけば手を煩わせなくても済む。


 四人でやるとあっという間だ。

 フィンが手伝ってくれるのは意外だったが、これも仕事のうちだと判断してくれたらしい。


 空の道具袋を使用したが水晶郷で手に入れたアイテムで一杯になってしまった。

 普段使いの方にはまだ入る。


 水晶郷に三回目の突入をするかどうかを決めなければならないが、それよりも先に片づける問題がある。


「排水はそこの溝に流して」

「分かりました」


 大きめの桶を宿から借りて、洗濯物を入れる。


 そう、迷宮に行くにしても帰るにしてもこれは片付けておかねばならない。

 乙女として。


 石鹸と洗濯板を使って全て洗い、キレイにすすぐ。


 水も別料金なのだが魔導士であるアレクシアもいるし、水の精霊の助けもあるのでそこはタダだ。


 預かった大事なお金は大事に使わなければ。


 最初はアズだけだったが、手伝いに来てくれたアレクシアと二人で四人分の洗濯物を片付けていく。

 他の二人は食事を買いに行った。


「これで全部?」

「ですね」

「やっぱり四人もいると量が多いわね」


 アレクシアはそう言うと、桶の水を魔法で動かして水流を発生させる。

 そこに石鹸を少しだけ混ぜるとみるみるうちに泡立ち汚れが落ちていった。


「最初から手伝って貰えばよかったです。早くて楽ですね」

「手も荒れないからね」


 アズの手は冷えて赤くなっており、それをアレクシアが握って温める。

 奇麗な水に換えてすすぎ、ようやく洗い終わった。


 水を絞って部屋へと戻る。

 一応宿の庭も貸してくれるようだが、下着もあるので見られるのは恥ずかしい。


 見せるのは主人ただ一人だけで十分だ。


 部屋に戻った後は洗濯物を広げて、紐を通して干す。

 そして紐を柱に結ぶ。


 遠征に行く時などにこの方法は重宝する。


 これだけでは乾かないのでアレクシアが温風を魔法で吹かせる。

 こうすると寒かったり、雨の日でもすぐに乾くのだ。


 ベッドに座り、たなびく洗濯物を見つめる。


 こうして落ち着く時間は好きだ。

 のんびりするのが性に合ってるのかもしれない。


 仕事を達成し、つかの間の静寂を楽しむ。

 多分それが今の幸福なのだろう。


 温風で部屋も温まったせいか、少し眠い。

 今眠ると夜眠れなくなるので頬をつねっているとアレクシアに笑われてしまった。


「ほら、もう終わるからシャンとして」

「分かってますよ!」


 声を掛けられたことで少し目が覚める。

 乾いた洗濯物を畳み、選り分けてそれぞれのベッドの上に置いた。

 着替えは一応三日分はあるのだが、何が起きるか分からない。


 それに何日も置いておきたくないのもあって、こうするように決めていた。


 食事を買ってきたフィンとエルザも戻り、食べながらこれからのことを相談する。


「もういいんじゃない? ボスも倒したんだし、帰りに宝石とか金も買うなら結構な荷物になるんじゃないの」

「それはそう……ですね。確かにあの時も結構嵩張りました」

「あの人買える限界まで買ってたよねー」

「直接見てないけど想像できるわ」

「呆れるほどの強欲さでしたわねぇ……」


 アレクシアは遠い目をしている。

 貴族として人を見てきた中でも、主人であるヨハネの強欲さはダントツだったようだ。

 いいところもありますけどね、と一応のフォローも入った。


 アズはしばらく悩んでいたものの、最後にはいかないことを選択した。

 そうした方が早く帰れるからだ。


 何日も離れているとどうしても寂しく感じてしまう。


「あっそ。なら後は宝石とかを買って帰るだけよね」

「そうですね。その予定になります」


 宝石の真贋などは分からないが、スパルティアはその辺の取り締まりが厳しいし以前買った店なら大丈夫だろう。


 宿を引き払い、まずは魔石の一部を換金する。

 魔石の使用用途は多く、流通の多いスパルティアでも思ったより価格が落ちてはいなかった。

 話を聞いてみるとダブつくと輸出に回されるので価格は安定しているらしい。

 そうしないと冒険者が来なくなるからとも聞いた。


 色々と考えられているようだ。


 そこで得たお金を持って早速宝石を買う。

 ここはカソッドと比べると信じられないような安さで買える。

 それも本物が。


 買える量を規制されるのも当然だと今なら分かる。

 希少だから価値があるのだ。

 どこでも取れる石に値段をつけることはしないのと同じ。


 四人分の限度一杯の宝石を買い集める。

 スパルティアを出る前に以前お世話になった戦士長に挨拶をしたいと思ったが、どこにいるのかも分からない。


 忙しい人なので無理に会うこともないかと考え、帰路についた。


「国ごとにポータルがあれば楽なのに」

「そんなことになったら侵略し放題になるから」

「ああ、それは困るわ」

「便利と危険はイコールだからねー。それにこうして旅をするのも悪いものじゃないよ?」

「私は面倒なだけだけどね」

「まあまあ……途中でポータルが使えますから」


 フィンを宥めつつ徒歩で移動する。

 途中で水晶郷を見掛けたが、穴が塞がっていた。


 迷宮は生きているという話を聞いたことがある。

 時には形を変え、冒険者を惑わす。

 以前風の迷宮に行った際は地形が変化し、その結果キヨや創世王の使徒であるユースティティアと遭遇した。


 今キヨはなにをしているのだろうか?

 灰王ともしかしたら合流しているかもしれない。


 以前会った時は実力の差が天と地ほどあったが、今ではどれくらい追いついたのだろうか。

 それともまだ遠いままなのだろうか。


 強くなりたい。それが一番主人の役に立てるから。

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