第376話 アレクシアが使うと
「アズ、その剣はまだ使える?」
「体はまだ動きますけど、剣は無理です。魔力切れで普通の剣としてしか使えません」
「あっそ。なら囮で頑張りなさい」
「分かってます」
魔力は使い果たしてしまったが、創世王の使徒の力はまだ残っている。
これが切れると、過去の経験から考えて動けなくなってしまう。
なのでそれまでにこの蛇の魔物を倒さなければならない。
蛇の顔はアズの大きさくらいある。体は非常に長い。
普通の蛇なら頭を落とせばしばらく動くものの出血で倒せる。
しかし水晶化した魔物は完全に破壊するまで動くため、この蛇の魔物も例に漏れず破壊するまで動くだろう。
アズとフィンは同時に走り出す。
蛇はいくら大きくても頭は一つだ。
二人同時に動けば判断に迷う。
フィンと左右に分かれて挟み込むようにして距離を詰める。
試しに力を込めて剣を胴体に斬りつけたが、表面を削っただけで終わってしまった。
(使徒の力もあんまり残ってないかな)
剣の能力を抜きにしても、万全な時に全力で斬りつければもっとダメージを与えられたはずだ。
尻尾が迫ってきたので、目の前の胴体を蹴りつけて跳んで回避した。
すぐ近くを尻尾が通り過ぎていき、風切音が聞こえてきた。
直撃すればアズの体重では壁まで叩きつけられる威力がありそうだ。
「楽させてくれませんわね」
「そういうものだよー」
エルザが全員に祝福を掛け直しながらメイスを持って駆け出す。
アレクシアもそれに続く。手には戦斧を持っていた。
蛇はその巨体をいかした攻撃と、牙をへし折ってそれを放出する二つの行動を不規則にしてくる。
魔法を使ったりはしてこないが、それだけでもサイズ差のせいで大変だった。
フィンかアズが常に蛇の視界に入り標的になる。
その間にエルザとアレクシアが攻撃を繰り返して蛇の体を削り取っていく。
メイスが振るわれる度に水晶の欠片が豪快に散らばっていった。
エルザが削った場所にアレクシアが戦斧を打ち付けることで傷を広げる。
そこで蛇がアレクシア達を見ようとしたらフィンが口の中に黒い球をけり入れて爆発させて改めてこっちに気を引かせた。
口から煙を吐き出しながらも、蛇の魔物の勢いは衰えない。
丸のみしようとしてきた攻撃をアズは回避する。
大きく回避し、アレクシアの近くまで来た。
「これを使いなさい。飛ばしてあげるから」
頷いてアレクシアから槍を預かる。
剣を鞘に仕舞い、右手で槍を掴む。
蛇は引き続きアズを追ってきた。
そこへアレクシアが戦斧を傾けてアズの足元に添える。
アズは靴の裏が戦斧に載るように調整し、上へ跳ぶ。
アレクシアは戦斧でアズの体を引き上げて全力で振った。
「せいっ!」
掛け声と共にアズが戦斧から放出される。
蛇もアズへ向けて飛び込んできたため、急速に距離が縮まった。
アズはギリギリまで蛇を直視しタイミングを見極め、蛇の目へと槍を投げ入れてすぐに身を捩る。
槍は吸い込まれるようにして蛇の片目を貫いた。
身を捩ったアズは蛇の外皮に触れて弾かれたものの、ダメージは少なかった。
「よいしょっと」
突き出た槍へと向けてエルザがメイスを打ち下ろす。
杭を打ち込むように槍がより奥へと突き進み、先が蛇の腹を突き破る。
その衝撃で蛇の顔の半分がひび割れていく。
「ここが人気ないのも当然でしょ。生き物だったら今ので終わってるわよ。労力がかかりすぎ」
「得られるもの次第じゃないですか?」
「疲れるって言ってんの」
文句を言いながらも次々と黒い球を使って蛇の体を削っていく。
口以上に手が動くのはさすがだなと思った。
フィンが反対するだろうから多分もうここには来ないだろう。
奴隷であるアズ達の意見はともかく、協力者であるフィンの意見は反映されるはずだ。
剣を鞘から抜き、更に削ろうと動こうとしたら一気に体から力が抜けていく。
創世王の使徒の力を使い果たしてしまったようだ。
水の精霊に魔力を提供し、その後不思議な球体を全力で斬ったにしてはよく持ったと思う。
しかしまだ決着はついていない。
無理に動こうとしたらアレクシアに首根っこを掴まれてしまった。
「下がって休んでなさい。もう限界でしょ」
「でも……」
「でも、じゃありませんわよ。ああでも、これは借りていくわね」
アレクシアは封剣グルンガウスを握ると、戦斧を手放す。
そうしてアレクシアの手から離れた戦斧が音を立てて転がった。
普段は武器にこのような扱いをしない。
そうしたのは蛇が弱ったアズに向かってにじり寄ってきたからだ。
急いでいる時であれば優先することは別にある。
「一度これを実戦で使って見たかったの」
アレクシアはそう言うと魔力を剣に注ぎ込む。
魔導士としてはトップクラスの膨大な魔力が剣に集約していく。
剣身に魔力が満ちていき、輝く。
フィンとエルザがそれを見て慌ててアレクシアの正面から離れた。
「シッ」
息を吐く音と共に、アレクシアは剣を振った。
蛇との距離はまだ遠く、剣は空振りする。
そして剣の能力である追撃の斬撃が発動した。
アズのものよりも巨大な斬撃は蛇の身体を打ち砕いて吹き飛ばした。
それだけに留まらず、分厚い水晶の壁に大穴を開けた。
「調整が難しいわね。いくらでも吸われるからつい魔力を込めすぎちゃう」
「私よりずっと威力がありますよ……」
アズはそう言いながら後ろへと倒れ込んだ。
いくらなんでもあの威力なら倒せたに違いない。
フィンとエルザが様子を確認しに行っていたのも遠目で見た。
先ほどのアレクシアの一撃は凄い威力だった。
魔力に依存することは知っていたが、これほどとは。
……それでもキヨが封剣グルンガウスを振った時に比べるとまだ及ばない。
あの骸骨の人はどれだけ膨大な魔力を持っていたのだろうか。
そう考えながら目を瞑ると、自然と意識が遠のいていった。
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