第352話 都市カソッド防衛線
冒険者組合による緊急依頼。
普段行う依頼とは別物で、今みたいな都市の危機なんかに発行される。
依頼料は後から決まる、高い額にはならないがその分何らかの形で評価に加算されるようになっていた。
冒険者証を通じて都市内に通知される仕組みだ。
依頼を受けるかどうかはともかく、無視すると評価が下がる。
そのため今冒険者組合にはカソッドの冒険者が勢ぞろいしている。
「わっ、こんなにいたんですね……」
「魔物駆除とちょっとした依頼をすれば食べていけるから、こんなもんでしょう」
キョロキョロしてるアズにアレクシアがそう言う。
帝国も冒険者事情はそう変わらないのだろう。
流民のスラム化防止と魔物の間引きに、ていのいい労働力。
中級までの冒険者はそういう存在だ。
「魔導士はこれで全員か!?」
組合長の声が響く。
集まった魔導士は十五人。しかも数人は装備からして初級とおぼしき様子だ。
見た限り、アレクシアが一番格が高い。
カソッドはそれなりの規模の都市だが、冒険者的には旨味が少なく手練れや上級冒険者は他所に移動してしまう。
中継地点としても特別優れている訳ではない。
その結果冒険者のボリュームゾーンは中級下位が最も多く、次いで下級や初級となっている。
そのランク帯では魔導士は少ない。
魔導士は戦士とは違い、魔力を扱う才能が必要だ。
例えばアズは魔物狩りや訓練の結果魔力を獲得したが、水の精霊の補助なしでは身体能力を強化する以外の魔法は殆ど使いこなせず、魔導士としては初級以下の能力しかない。
優れた魔力と才能がなければ魔導士として冒険者をやっていくのは難しいのだ。
なので強い者がより強くなる構図となっている。
上級冒険者ともなれば、アレクシア並みの魔導士もゴロゴロといるだろう。
といってもアレクシアの強みは優れた魔導士でありながら、戦士としても一流なのだから同列には評価できない。
「ただの氷ゴーレムならこれだけ居れば十分だが……」
「詳細を教えてくれよ。斥候はもう戻ってきたんだろ」
「ううむ。斥候の話では城壁並みの高さはあると」
デカい。城壁は五メートルはあるはずだ。
「戦士たちは敵の足止めを。その間にひたすら魔法を撃ちこんでもらう! いいか、このサイズの魔物が城壁に取りつけば破壊される恐れがある。そうなったら都市の安全は脅かされることになるぞ!」
組合長はそう言うと、即席の戦士隊を引き連れて氷ゴーレムのいる場所へと向かう。
魔導士は城壁の上で魔法を撃つことに決めた。
「それじゃあ行ってくるわね」
魔導士隊のリーダーは一番魔力の多いアレクシアに決まった。
どうやら魔導士にとってはそれが上下を決める際に一番重視されるらしい。
「これを持っていけ。さっさと始末してしまえよ」
「言われなくても。こと火の魔法に関してなら自信があるわ」
アレクシアにラミザ印のホットドリンクと魔力回復ポーションを渡し、激励する。
それを自信に満ちた笑みで受け取ったアレクシアは他の魔導士を引き連れて解放された城壁の非常階段を上っていった。
元貴族で、戦場では部下を率いて戦っていただけに上に立つ姿は様になっている。
魔導士に関してはこれ以上は望めない。
他の都市に魔法で連絡を試みたものの、雪による影響で上手くいっていないとのことだ。
ポータルの調子も悪く、使用できない。
もしかするとこの雪もただの雪ではないのかもしれない。
深刻そうな顔をしていると思ったのか、アズはヨハネの前に立つと右手で胸を叩く。
「倒せばいいんですよ」
「そうそう。早く終わらせて暖かい家に戻りましょうね」
「任せたぞ。何かあれば引き返して言え。金で何とかなることならなんとかする」
「はい。私達も行ってきます!」
そう言ってアズとエルザは戦士隊の方へと合流していった。
ホットドリンクがあれば、動きを阻害される事もないだろう。
ここから先はアズ達の領分だ。信じて待つしかない。
「ちなみにお前はどうする?」
「お前って言うな。私は別に冒険者じゃないし、ひ弱なアンタを放置しておくと死にそうだから近くに居とくわよ」
「そうか」
フィンはそう言うと、つまらなさそうにアズ達を見送る。
いざとなったら何もできないのは言い返せない。無理についていっては邪魔になるだけだと学んだ。
それに物理攻撃に効果が薄い氷ゴーレムが相手なら、フィンには相性が悪い。
「それじゃあ仕出し用に体が温まるように何か用意するか」
「……時々感心するわ。あんたのマメさは」
アレクシアはいち早く城壁の上に辿り着くと、他の魔導士達の手を握って引っ張り上げる。
兵士用に作られた梯子はひ弱な魔導士には少し辛い様子だった。
(さて、と)
外は吹雪いており視界が悪いが、戦士隊が持つ明かりは十分見える。
そしてその先には、薄っすらとだが巨大な何かがこっちに近づいているのが分かった。
「お、大きいですね~」
「そうね。出し惜しみはなしで行きましょうか」
「こっちまで来られたら叩き潰されちゃいます」
震えた声で長い髪を一本にまとめたおさげの女性が言う。
この中でアレクシアの次に魔力が多い魔導士だ。
といってもその差は大きく、よくて中級の実力だろう。
「上級魔導士さんが居てよかったぁ……」
「あんなの相手にしたことないですよ」
魔導士達の戦意は低いものの、逃げ出すほどではない。
それは彼らにはアレクシアの魔力が朧気ながら分かるからだ。
アレクシアの指示で動けばなんとかなるという安心感が恐怖を抑え込んでいる。
(悪くはありませんわね)
経験から現状の評価を下す。一番困るのは戦意喪失だ。
逃げたり、パニックになって足を引っ張られたりすれば失敗に繋がる。
特に今回、前衛は足止め以上のことは難しい。
魔導士達の火力が必要になっている。
アレクシアが愛用の戦斧に火の魔法を纏わせて突撃すれば効果は絶大だろうが、そうするとここの魔導士達の統率はとれないのは目に見えていた。
「せっかくこれだけ居るのだから、個々で魔法を使うより大規模術式で火力を稼ぎますわよ」
「えっと、どうすれば?」
大規模術式。それは複数人で扱う魔法だ。
十五人がただ火の魔法をぶつけてもそれなりの火力になるが、効率的な運用とはいえない。
全員の魔力を一つにまとめることでより高位な魔法へと昇華させ、それを放てば火力は桁外れに大きくなる。
最上位魔導士はそれを一個人で扱えるらしいが、アレクシアはまだその領域には達していない。
だが、これだけ魔導士が居ればこのサポートを受けて発動する位は出来る。
「私が軸となって魔法を起動させるわ。後ろから魔力をその魔法に向けてちょうだい」
「なるほど!」
戦斧を足元に置き、サラマンダーの宿ったブローチを両手に持って掲げる。
口元で魔法の詠唱を開始すると、巨大な魔方陣が頭上に浮かび、少しずつ形をなしていく。
その魔法陣に向かって他の魔導士達は魔力を向けていく。
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