第338話 これから何をするか
アズが行ってしまったので、砂糖や馬車の後始末は全てアレクシアとエルザに任せる。
「後は頼んだ」
「ええ。任せておいて」
アレクシアの返事が頼もしい。
店に一度顔を出し、カイモル達と顔を合わせておく。
一任したし口出しもするつもりはないが、それとは別に定期的にコミュニケーションは必要だ。
カイモルではどうしようもない問題を抱えていたら、すぐ相談できるように。
顔を繋ぐことはそれだけで意味がある。
放置するだけでは監督者としての責任は果たせない。
幸いトラブルもなく店は順調のようだ。
燃える石もよく売れているらしい。
自分の部屋に戻る途中、もう風呂に入って出たフィンとすれ違った。
インナー姿でうろつくなと注意すると、口うるさいと言われてしまった。
自分の椅子に座ると、ようやく帰ってきたという気分になった。
結局イエフーダとあの兄弟のせいで、麻薬騒動の主犯の顔を見ることは出来なかった。
王族の怒りを買った以上はもう二度と見ることもないので、気にしなくてもいいか。
イエフーダもできれば一緒に放り込みたかった。
ああいう愉快犯は厄介だ。
状況を引っ掻き回すし、それを楽しんですらいるのだろう。
ジルという護衛も付いたことでなおさら厄介だ。
ジル。アズと歳はそう変わらないだろう。
アレクシアの見立てではアズ並みの強さらしいが、一体どこから連れてきたのやら。
アズにも言えることだが、あの年齢であの強さは普通ではない。
うちのアズが強いのはハードスケジュールの魔物討伐と、なにやら不思議な力を手に入れたからだ。
フゥ、と息を吐いた。考えても仕方ないことだ。
暖炉に火をつけて薪を入れる。
薪の数が少なくなってきた。
薪は売るほどあるのだが、あれは売り物だ。
割る前のものはあるのでアズ達に割らせればいい。
部屋が温まってきたので、手もほぐれてきた。
何かに使ったメモを裏返し、白紙の部分を表にする。
インクの封を開けて羽ペンを持ち、これからのやるべきことを纏める。
アズからは休んでくださいと言われたものの、これだけは終わらせないと安心して眠れない。
思考の整理は父から教わった。
やるべきことは基本的に増えることはあってもへることはない。
なのでキチンと整理し、対処する順番を決めることで頭がパニックにならないように準備しておくのだ。
まず一つ目はカズサ達の対処。
本人たちの希望もあるだろうが、冬の間はもうあの宿にいてもらった方がいいだろう。
その間賃金を渡し、改装の準備も進めてもらえばいい。
宿屋として運営するための家具などはこれから職人に依頼するので、今のうちに下準備してその受け取りと配置までやって貰えれば助かる。
うちの家に泊められないこともないが、カズサは間違いなく気疲れする。
少し話しただけだが、ちゃんとしている子だった。
アズ達がいる間はともかく、もし何かあれば冒険者であるアズ達は外出するかもしれない。
そうなったら向こうも気まずいだろう。
姉弟だけで過ごせる方が安心できるはず。
メモにまずカズサ達のことを記入する。
宿屋の改装手配も加える。
冬の間は職人達も暇になりがちだ。
今頼めば安く済むという打算もある。
二つ目はフィンとこれからどうするのか。
別にうちにこのまま居着いても構わない。歳は若いが有能だし、今となってはある程度気心もしれている。
アズ達に用意した部屋は四人でも快適に過ごせる大きさを確保している。
個別部屋を希望するなら他所に泊まってもらうことになるが、その時はカズサ達のいる宿に移動してもらうか。
連絡手段はあるので、またフラッと居なくなるのもフィンらしい。
一度意思確認はしておきたい。
三つ目。
土の精霊石の活性化。その為の場所探し。
これは是非ともやりたい。
上手くいけば宿事業以上に成功が約束された利益が見込める。
一応農業ギルドに問い合わせをしてみたのだが、カソッド周辺の都市はもう押さえられていた。
少しあてにしていた知り合いの大農家は貴族向けの果実が手に入ったとかで、譲ってもらうのは難しそうだった。
間借りできればいいと思っていた休眠地は、もう雇われた小作民たちがせっせと耕していたからだ。
城壁の外の農耕地は1から用意するのは非常に手間と金がかかる。
アレクシアという素晴らしい魔導士がいるので、人力でやるよりははるかにマシだがそれでもどれだけ時間が掛かるか。
その間アレクシアも農耕地にずっとつきっきりになってしまうので、冒険者としての稼ぎも大きく減ってしまう。
どこかに大規模な整備済みの農耕地がないものか。
場所さえ確保すれば、人を雇って後は監督すればいい。
そんな場所があれば他の誰かが既に参入しているなと苦笑する。
いまのところはこんなものか。
他にもあるが、今考える必要はない案件ばかりだ。
羽ペンの先を拭き取り、筆立てに戻す。
メモは常に見えるように机の上に重石を乗せて置いておく。
体をぐっと伸ばすと考えがまとまったからか、少し気が抜けたようだ。
あくびをこらえる。
口寂しいので寝る前に何かないかと思ったが、菓子も切らしていた。
ポケットに何かあったので取り出してみると飴玉の残りがあった。
球体の青く透けた先には暖炉の火が見える。
口に含む。
甘い。砂糖と薬だけで作った飴は糖分補給にはちょうど良かった。
飴を食べ終わりそのままベッドに潜り込むと、自然と眠くなる。
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