第337話 日常への回帰
事後処理も含めて全てティアニス王女に任せ、帰路につく。
ルーイドはのどかな場所だった。
麻薬の製造拠点になりかけたなど、きっと誰に言っても納得しないだろう。
こんな訪れ方ではなく、別の機会にまた来たいものだ。
宿の女将に挨拶し、馬車の準備をする。
馬車は空になっているので何か買って帰ろうと思ったら、サトウキビの収穫時期だったらしく大量の砂糖を格安で仕入れることが出来た。
不思議なことに、消費した量とほぼ同じくらいの在庫になった。
仕入れた先からは飴の材料にするのかとからかわれた。
もしあの飴を売るなら買うよという言葉もあった。
あの飴玉は大人気になったようだ。
帰り際に子供達の集団とすれ違うと、子供達はこっちの顔を覚えていたようだ。
「あの飴美味しかった。ありがとうございました」
「そりゃよかった。感想をありがとうな」
口々にお礼を言う子供達に挨拶し、ルーイドから出る。
子供達は手を振って見送ってくれたので、アズ達と共に手を振って返した。
……よくない未来はこれで回避できただろう。
過去のトラウマがこれで解決したかと言えば、まだ分からないが。
あの幼馴染が夢に出てくることはもうない気がした。
道中でティアニス王女たちの姿はない。
あれだけの大所帯がまるで煙のように消えてしまった。
「転送魔法ね、きっと」
天空の島で行われたオークションの支配人が使っていた高位魔法。
ヨハネから見ても高位魔導士に思えるアレクシアでも使えない、かなり珍しい魔法だ。
それを使って移動しているのだろう、とアレクシアは判断したようだ。
確かにそれならばこれだけ動きが速いことも説明がつく。
「王宮魔導士なら、いてもおかしくはないですわね。利便性が高いですし」
「普段はこういうこともできるし、逃げるための足にもなる、か」
スクロールによる使い捨てならば一度だけヨハネも使える。
売ることも考えたが、これは緊急用にするつもりだ。
命の保険はどれだけあってもいい。
耐魔のオーブ並みに高値がつくなら話は別だが。
「転移は厄介なのよねぇ。追い詰めても逃げられるし、下手に追うと途中で閉じられて体が真っ二つ」
「そういう使い方もあるのか」
王都までそんなことを話しながら移動する。
ルーイドから王都はそれほど離れていないので、ゆっくりとした移動でも日が暮れないうちに到着できた。
そこからポータルを使おうと思ったのだが、使用不可となっていた。
理由は明らかにされなかったが、明日には使えるとのことだったので移動は諦めて宿を探す。
それなりに高い宿が開いていたのでそこに決めた。
後は帰るだけだ。
そこからはまた日常が待っているので、今はとにかく疲れを残さないようにしたい。
大部屋を一つ貸し切り、夕食を食べて風呂に入る。
食事はルーイドの方がずっと美味しかった。
食材が新鮮だからだろうか?
肉も野菜も味わい深かった。
「仕切りに入ったら殺す」
「失礼な奴だな。分かった分かった」
フィンはヨハネの寝るベッドをドアの近くにし、そこに仕切りを置いた。
年頃の女子としては当然の反応だ。
アズ達は奴隷だがフィンはそうではない。
ヨハネもそれは分かっているので、要求は受け入れた。
多分、実際に足を踏み入れたら警告では済まないだろう。
一泊した後、ポータルに乗り込んでカソッドへと戻ることが出来た。
まずはラミザさんの店に向かい、経過を報告する。
「あの王女様に会った?」
「俺は会ってませんが、うちのが会いました」
「そっか。悪い人ではないけど、目を付けられたかもね」
「そうですか? ラミザさんはともかく王族から見れば俺達なんて路傍の石か何かでしょう」
「そうだといいけどね。まあなんにせよよくやったよ。この結末は君の決断の結果さ」
「いえ。協力してもらってありがとうございました」
ラミザさんにお礼を言って店を出た。
無理を言って大きな借りを作ってしまった。少しずつ返していけばいいのだが。
続いてジェイコブのところへ行く。
ジェイコブにも今回世話になった。
ルーイドで特別に通信石を借りて連絡できたのはジェイコブのおかげだ。
もっとも、連絡した時にはティアニス王女が動いた後だったのは驚いたが。
「この件はティアニス王女殿下が全て預かりとなった。後々お褒めの言葉位は頂けるだろう」
「それは大変光栄ですね」
お褒めの言葉と言っても、遣いの兵士を通して一言ある位だろう。
公爵令嬢であるアナティアを助けた時とは状況が全く違う。
「ルーイドの有力者は麻薬事業にごっそり関わっていた。ほぼすげ替えになるだろうな。これから詳しい事情聴取が始まるだろう」
第二王女の話を聞く限り、法と照らし合わせてもまず死刑だろう。
楽に死ぬかそうでないかは彼女の胸先一寸といったところか。
「正直言えばこの程度で済んでよかった。もし実際に流通していれば、ルーイドが火の海になっていたかもしれん。広まる前に現物も抑えられたのは大きい」
「そこは私もホッとしてます」
ポピーの実と精製した麻薬はキッチリと処分されるだろう。
今回の件が見せしめとなって、手を出そうという輩が居なくなればなおよい。
ジェイコブの頭を超えて命令が飛び交っていたので、ヨハネと共有していない部分は彼も詳しいことは把握していない。
そのすり合わせを終わらせて話は終わった。
一商人がやるにはあまりにも大きな出来事だったが、終わってみればなんとかなった。
もちろん、協力者の存在と後始末は丸投げにしてようやくだったが。
店に戻ると、カイモル達がきちんと運営してくれていた。
カズサ達にも終わったことを伝えねば……。
「ご主人様、なんだかんだまだ疲れてますよ。今日は休みましょう。私が伝えに行ってきますから」
「そうか。明日また店に来るように言っといてくれ。面倒は見る約束だからな」
「分かりました。伝えてきますね」
アズも疲れているはずだが、そんな様子はない。
元気だな。若いからだろうか。
同じく若いフィンはさっさと部屋に引っ込んでしまった。
フィンともこれからどうするのか話しておかねば。
やることが多いな……。
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