第270話 土魔法の可能性
休憩を終えて作業を再開する。
アレクシアの魔力もその間に十分回復したようで、ペースを落とすことなく硬い土を掘り返し、耕していく。
アレクシア曰く、魔法の良い所は硬い土が相手でも疲れない所らしい。
魔法を使う分の魔力消費だけで済む。
硬い土の場合、消費は多少増える程度のようだ。
これが人力だと話が違う。
全力でクワを振り下ろし、その衝撃で手や腕を傷めながらまた振り下ろす。
一回で済めばいいが、何回もすると本当に疲れるし、後に響く。
新規農地の開拓が難しい理由だ。
クワドが精神的に疲れるのも無理はない。
「塹壕を掘るために土魔法を覚えておいてよかったですわ。馬車の道を作る時といい、こんな風に扱き使われるのは心外だけど」
「最前線じゃまず土を掘るんだったか?」
「ええ。魔法が届く距離になると打ち合いになるから、どうしても必要なの。弓も防げるし」
戦場での死亡原因はまず魔法。次に弓矢による狙撃とのことだ。
ヨハネは戦場では騎兵が突っ込んで暴れるような想像をしていたが、そうではないらしい。
「普通の騎兵は辿り着く前に魔法で全滅するわね。魔法を相手に突っ込むなんてことが出来るのは、それこそ耐魔のオーブを持っていたり魔法対策をしている騎兵だけよ。でも商人のご主人様なら分かると思うけど……」
「金がかかる、か」
「ええ。貴方ならそんなお金のかかった騎兵を前線に突っ込めるかしら?」
「無理だろ。失うのも困るが、もし捕まって装備を丸ごと奪われたらそのまま相手に渡るじゃないか」
「そういうことですわ」
分かりやすい説明だった。
軍の司令官クラスが斬首戦法を警戒して魔法対策をするならともかく、騎兵にそれをする意味は薄い。
「ただ、だからこそやる変わり者もいますけど。もし魔導士のいる陣地までたどり着けたら大金星ですわ」
「それはもう生き方が博打だろう」
「違いありませんわね」
そんな事を話しているうちに、開拓予定の場所全てを耕し終わってしまった。
荒れ果てていた土地が、見事に全て掘り返されている。
手で土を触るとやわらかい。
これなら水はけもいいし、作物も育つだろう。
ここで作物を育てれば土の精霊石の影響で豊作間違いなしだ。
羨ましい。
「土魔法にもだいぶ慣れましたわね。でもやっぱり火の属性よりはしっくりきませんわ」
「十分だろう。これなら農業にも進出できるな」
「言っておきますけど、割と疲れますのよ……?」
アレクシアからの抗議は右から左に流す。
エルザは農業に興味津々の様だ。
「その時は私のおすすめの野菜を植えてもいいですか?」
「食べれるものならいいぞ」
「やったー」
「道具屋だけでもすごいのに、農業もやるんですか?」
「ああ。実は知り合いが畑を持て余してるんだよ。儲かるならそのまま買い取ってもいい」
「たしか宿もやるって言ってましたわね。そんなに手を広げて大丈夫ですの?」
「ふふん。道具屋は道具屋で規模を大きくするが、限度があるからな。道具屋での儲けを他に回して事業を起こした方が効率がいいんだよ」
手に持った土を捨て、両手をはたいて汚れを落とす。
「クワドを探しに行ってくる。ここで休んでろ」
「分かりました」
アズ達を待機させてクワドを探しに行く。
奥の方へ行くと、大分農地らしくなっていた。
開拓ではそれほど効果がなかったようだが、人海戦術も馬鹿にはできない。
「おや、どうした?」
「全部耕し終わったぞ」
「……もうか」
「途中から魔法に慣れてきたらしい。普段は土魔法は使ってないからだろうな」
「そういうもんなのか? まあいい、終わったなら休んでいていいぞ。こっちまでやられちゃ、他の連中の仕事がなくなるからな」
この現場にはヨハネ達以外も参加しているので、全ての仕事をやってしまうとそれはそれでよくない。
一番大変な仕事はやったので、後は任せた方が予後がいいのだ。
「分かってる。それじゃあ休憩させてもらうが、何かあったら呼んでくれ」
クワドにそう言うと、返事の代わりに右腕を上げたのを確認した。
アズ達の元に戻る。
すると、どこから用意したのかイスとテーブルが用意されており、三人が座っていた。
「これは? こんなのなかったよな」
「その辺の土を固めて作ったの。ないよりはマシでしょ」
「ほう」
試しに椅子を叩いてみる。
コンコンという音がした。
しっかり固まっているようだ。
「魔法を解けば元の土に戻るわよ」
「便利だな」
「私も今まであんまり意識してなかったんだけど、土魔法は思ったより幅が広いわ。土で壁を作れば大抵のものは防げそうだし」
そう言うとアレクシアは周囲に土の壁を地面から突き出す。
高さはヨハネよりも少し高いくらいだ。
厚みも腕の太さぐらいある。
試しに蹴ってみたら、ビクともしなかった。そして痛い。
エルザが仕方ありませんねー、といいながら癒しの奇跡で治してくれたが、これは硬い。
「形を造るとなると流石に消費も大きいわね。でも緊急用としては十分かな」
そう言ってアレクシアが魔法を解除すると、あれだけ固かった土壁が崩れ落ちる。
とりあえず用意されていた椅子に座る。
座り心地はいまいち。クッションか何か欲しいところだ。
「これ使ってください」
アズがバッグから取り出したタオルを渡してくる。
クッションの代わりにはなるか。
受け取って敷く。
「いい感じだ」
「えへへ、良かったです」
アズはそう言って右手の人差し指で頬をかく。
いちいち可愛い反応をするやつだな。
しかし特にする事がないのは暇だな。
せかせかしてもしょうがないが、時間は有限だ。
「こういう時間も必要ですよー」
「そうよ。普段から働きすぎなんだから」
エルザとアレクシアはのんびりモードに入ってる。
アズは二人とこっちを見ながら顔色を窺っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます