第263話 魔導士は戦闘よりもインフラ整備に強い
指示された場所に行くと、手を付け始めた場所らしくまだ作業が進んでいない。
現場監督が近寄ってきてこっちをジロジロと見る。
使えるかどうかを確認しているのだろう。
不躾ではあるが、こっちも同じく相手を見ているので文句を言う気はない。
「女三人に細腕の男か。まあいいや、現場監督のクワドだ」
「ヨハネだ。アズの名前で冒険者組合から依頼を請けた」
名乗った後に羊皮紙に何やら書き込む。
「えーと、冒険者ね。物好きだな。冒険者証にはリーダーはアズと書いてあるが……あんたじゃないのか」
「何か文句でも」
「別に。仕事してくれれば文句はない。条件は聞いて来たと思うが、最低でも四日以内にあの辺を更地にして欲しい。地面を耕すまでやるなら追加報酬も出る」
クワドが指さした場所は木こそ伐採されているものの、根は放置されておりただの荒れ地にしか見えない。
広さはざっと縦横歩幅五十歩分ほどか。
「サボらなきゃ未達でも飯も給金は出すことになっている。公爵様がお決めになった事だ。ただ、半額に減給されるからそれが嫌なら頑張ってくれ」
そう言ってクワドは別の場所にさっさと行ってしまった。
現場監督だから忙しいのだろう。
それにあまりこっちには期待してないように見える。
気持ちは分からなくもないが、あまり下に見られるのもいい気分じゃない。
「農業といっても、まずは土づくりからか。そう言われたら当たり前だよな」
「荒地に種を植えても育ちませんものね」
「人も植物も同じですよー。しっかり手を入れてやらないとダメになりますから」
「えっと、何からしましょうか?」
「そうだな……」
参考にするために周囲の作業者を見てみたが、地道に少しずつ進めていた。
地面を掘るのに効率もくそもないということだろう。
だが、せっかくだから楽に要領よくはやりたいものだ。
「アレクシア、魔法で土を全部均すとしたらどれくらいかかる?」
「この広さだと……半日かしら? ただ先に木の根を引っこ抜ないと邪魔ね」
「半日、早いな。さすがうちの優秀な魔導士だ」
「こういう時だけは褒めるんだから」
アレクシアは口調こそやれやれ、といった感じだが、満更でもないという顔をしている。
意外とシンプルな褒め言葉に弱い。
「そう言うなって。とりあえずアレクシアは魔法で何もないところをやっててくれ。アズとエルザと俺で木の根をどうにかする」
「そう? ならそうさせてもらうわ。魔法が必要なら言ってちょうだい」
アレクシアは一歩離れ、魔法の詠唱を開始した。
土魔法を発動させると、アレクシアの周辺でデコボコの地面が動き出してクワで掘り返して埋め直したような状態になる。
クワで地面を掘るのは過酷な重労働だ。
力もいるし、体勢もよくない。
しかも掘った後埋め直すのも非常に体力を使う。
なので周りの作業者は時間をかけて作業していたのだが、アレクシアは魔法を唱えながら歩くだけでそれをしてしまえる。
魔力の消費は大したことがないようだ。
土魔法自体が効率がいいらしく、更に大したことはしていないから、と。
アレクシアがどんどん土を均していくと、その音と勢いに周囲の人々も気付いてこっちを見る。
唖然としている者もいた。
時間をかけて苦労して均した地面はなんだったのか、とでもいいたげな感じだ。
「さて、後で文句を言われないようにこっちもやるぞ」
「はーい」
「分かりました」
木の根は地面に根を張っており、普通にやれば三人で持ち上げることは不可能だ。
もしかしたらエルザとアズはできるかもしれないが……。
少し考えた結果、エルザの祝福とアズの剣を使う。
封剣グルンガウスは魔力を通すと、斬った場所に更に追撃するといったものだが、魔力が大きいほど追撃の斬撃も強くなる。
アズが色々と試した結果を嬉しそうに報告してきたので、無駄に仕様に詳しくなってしまった。
エルザの祝福でアズを強化し、木の根の周辺の地面を斬らせる。
木の根の下に向かってぐるっと回りながら六回ほど。
地面に張った根をアズの剣で地面ごとカットした。
指示通りアズが作業を終える。
「終わりました」
「よし、これで引っ張ればいけるはず」
木の根を三人で掴み、引っ張る。
すると、重量はあるものの抵抗なく土ごと引き抜けた。
それを横に転がすと、エルザが感心していた。
「あー、なるほど。くり抜いたんですね」
「これなら楽だろ」
「たしかに。もっと疲れるかと思ってたんですけど、これならいいかな」
「これを繰り返せばいいんですか」
「ああ、やってくれ」
アズが先ほどと同じように木の根の周りの地面を斬り抜く。
木の根は7ヶ所ほどあったが、さして苦労することなく処理できた。
後はアレクシアがひたすら地面を耕してくれる。
エルザがアレクシアを祝福で強化すると、更に加速していく。
「土の精霊がいるからか調子がいいですわね。土魔法は別に得意ではないのだけど」
そう言いながらみるみるうちに魔法の範囲を広げていく。
それを眺めていると、アズと共に邪魔だからと追い払われてしまった。
あの様子だと今日には全て終わってしまいそうだ。
地面もきっちり耕しているのだから、追加報酬も期待していいだろう。
汗水たらして働こうかと思ったのだが、少し頑張っただけで後はアレクシアが終わらせてしまいそうだな。
そう思っていたらクワドが慌ててこっちに来た。
「どうした?」
「土の魔法が使える魔導士がいるなら先に言えっ!」
冒険者証にはアレクシアの事も書いてある。
興味がなくて読んでなかっただけだろう。
騒ぎを聞きつけてようやく気付いたようだ。
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