第234話 吹雪の中の脅威
「起きてください、朝ですよ」
声が聞こえる。
目を薄っすら開けると、アズが起こしに来ていた。
「おはようございます。朝食です」
「ああ、おはよう」
ヨハネは体を起こし、パンとミルクを受け取る。
「もう朝か」
「はい。それでなんですけど」
「なんだ?」
アズは何か言いにくそうにしていたので続きを促す。
「少し吹雪いているんですけど、どうしましょうか?」
外に出て確認してみると、確かに強い風と共に雪が舞っていた。
エルザと会った時はこんな様子ではなかったので、あの後天候が急変したのだろう。
硬いパンを齧りつつ、ミルクで流し込む。
あまり移動に適した天候ではないが、視界が確保できない程ではない。
エルザとアレクシアは火の魔法に当たって暖をとっていた。
「いつ止むか分からん。行けるところまでは行くぞ」
「はーい」
「分かりましたわ」
二人に声を掛けると立ち上がる。
防寒具を着込み、テントを畳む。
強い風で飛ばされないように全員で協力し、時間をかけて終わらせた。
ラバ達には悪いが、頑張ってもらうしかない。
出発の準備を整えて、移動を再開する。
全身防寒具に身を包んだラバ達は力強く進み始めた。
方角を見失わないように地図と磁石を片手に進む。
この状態なら魔物が襲ってくることはないだろう。
吹雪で困るのは魔物も同じだ。
立往生が一番困るので、アレクシアに火の魔法を使わせてラバの通り道を確保する。
火の精霊を表に出せば暖かい事に気付いてからは、寒さに震えることなく調子も良くなった
アレクシアに大分懐いてきたらしい。
「暖かいねー」
「ですわね。この程度の魔法ならこの子もいるししばらく継続できますわ」
エルザは火の精霊をつつく。
するとくすぐったいのか火の精霊は転げまわった。
移動を続ける。すると吹雪の勢いは少しずつ強くなっていった。
視界が悪くなっていく。特に時間が分からないのが困った。
今回の旅は時間制限がある。遅れたら苦労が水の泡だ。
だからといってラバ達を急かす訳にもいかない。
今は少しでも距離を稼ぐ事に専念しよう。
更に進むと、吹雪の音以外に別の音が聞こえてきた。
「何か聞こえないか?」
アズに聞いてみると、耳を澄ます。
「音がしますね。これは……足音? 近寄ってきてます!」
アズはそう言って武器を持って立ち上がる。
エルザとアレクシアもそれに続いた。
ラバ達を止めて周囲の様子を窺う。
吹雪の音に紛れて、何かが近づいてくる。
「周囲を警戒しろ。ただし馬車から離れるな」
外に三人が出る。
するとあっという間に雪が身体に積もっていく。
足音がハッキリ聞こえてきた。
四足でこっちに走ってくる。
「来ます」
アズがそう言った瞬間、吹雪の中から白い狼が飛び出してきた。
口を開き、おおきな牙で噛みついて来たのでアレクシアが戦斧で受け止める。
突進の勢いを受け止め、押し返した。
「狼ですわね。ということは群れかしら」
アレクシアの言った通り、押し返した狼以外にも仲間が姿を現す。
「こんな時にも襲ってくるなんて」
「吹雪を苦にもしないということでしょうねー」
かなり視界が悪い。
気をつけないと同士討ちが起きてしまう。
狼達は一度距離をとる。
すると吹雪で姿が隠れてしまった。
雪を踏む音だけが狼たちの存在を知らせる手段だ。
「何時襲ってくるか分かりません。気を付けて下さい」
「分かってますわ」
馬車を守りつつ、周囲を警戒する。
狼達は散発的な攻撃を繰り返し、すぐに引いてしまう。
そのため反撃も効果が薄い。
少しの怪我はエルザに癒してもらえるが、あまり時間がかかると集中が切れてしまい、寒さで判断が鈍る。
「火の魔法で周辺を吹き飛ばせませんか?」
「あら、それはいい考えね」
アズの提案にアレクシアは同意する。
こういうチマチマした戦い方をされてストレスが溜まっていた。
戦斧を地面に突き立て、魔法の詠唱を開始する。
狼達は異変に気付き、一気にアレクシアに向かってきた。
エルザとアズでカバーする。
吹雪に隠れて攻撃されるのに比べれば、向かってくる狼達の攻撃は防ぎやすい。
アズが攻撃を防ぎ、エルザがメイスを振り回して狼達を追い払った。
そしてアレクシアの詠唱が完了する。
「吹っ飛ばしますわよ!」
火と衝撃の魔法を掛け合わせた魔法を発動させる。
馬車の周辺を火の障壁が一気に吹き飛ばし、狼達の姿が露わになる。
何体かは巻き込めたようだ。
また吹雪で覆われる前にアズが走る。
祝福で加速したアズから狼達は逃げようとしたが、アズが剣を振る方が早かった。
一振りで二体を袈裟斬りにして仕留めた。
残った狼達は振り返らずに逃げ、吹雪に姿をくらませた。
追いかけると馬車から離れてしまうし、吹雪の中では追いつけないので諦めた。
全滅させることはできなかったものの、追い払えたことにアズはホッと胸を撫で下ろした。
振り返り、馬車に戻ろうとするとアレクシアが何かをアズに向かって叫んでいた。
早く戻ってくるようにと判断し、アズは走ろうとした。
すると、吹雪に紛れてアレクシアの声がハッキリと聞こえる。
「アズ! 後ろ!」
聞こえた瞬間、背筋が凍った。
慌てて前に転がるように飛ぶ。
アズが先ほどまでいた場所に大きな爪が振り下ろされた。
馬車に向かって走りながら振り向くと、そこには巨大な狼がいた。
先ほどの狼達の3倍はある。
群れのボスだろう。
アズはエルザ達と合流し、剣を構える。
「ありがとうございました」
「ええ」
アレクシアにお礼を言いつつ、大きな狼を見る。
大きい。腕はまるで木の幹のような太さだ。
爪も大きい。もしさっき回避出来なかったら致命傷になっていた。
「お腹を空かせて襲ってきたってところかなー」
「だからって食べられる訳にはいきません」
「もちろんですわ」
巨大な狼に対して武器を構える。
それに対して、狼は舌なめずりをして嗤った。
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