第215話 大量の金貨に戸惑うカズサ

 商売の邪魔になるので野次馬を追い払ったあと、ヨハネの部屋に全員集まった。

 店は引き続き営業する。従業員のカイモルが他の従業員と荒らされた場所を片付けているのが見える。


「えと、嘆きの丘を攻略してきました」

「お疲れさん。良い話が聞けて良かったよ」


 ヨハネはそう言うが、どこか疲れが見えている。


「それで、今回も縁あってカズサに手伝ってもらいました」

「荷物持ちのカズサです。どうも」


 そう言ってカズサが頭を下げると、ヨハネが頷く。


「カズサ……ああ。前も協力して貰ったんだったな。ありがとう」


 ヨハネが手を差し出し、カズサがそれを見て握手する。


「いえ、お世話になったのはむしろ私ですし、そんな」

「この3人の面子は戦力的には問題ないと思ってるが、荷物の運搬面がな……。もっと色々と聞きたいところだが立て込んでてね。早速清算に入ろうか」


 奴隷ではないカズサが居るからか、ヨハネの口調は何時もより少し柔らかい。

 部屋の中で嘆きの丘で回収したアイテムを出す。


 まずは一番多いのはミスリルの武具の破片だ。

 これは加工して一度ミスリルに戻してから使う。

 カズサの荷物に入っていたアイテムもほぼこれだ。


 破片のままではどうやっても買い叩かれるので、加工してインゴットにしてから売る予定になる。

 結構な量だが、そこは売る量を調整すれば需給を壊さずに高値で処分できるだろう。


 嘆きの丘が良い収入になるのはやはりこれのお陰だ。

 そして人が増えると一気に安くなってしまうのが難しい。


 幸い、もっと楽な迷宮はどこにでもあるので今回は大丈夫そうだ。


 次にスライムから採れた貴重な鉱石類。


 めのうやトルコル石など、普通の採掘では手に入りにくいものが多い。

 加工まで出来れば大変良い利益になるのだが、あいにくここは道具屋だ。


 装飾品や盆石にする技術もノウハウもない。

 とはいえオークションにでも流せばそれなりの値が付くだろう。


 続いて、ちゃんとしたミスリル製の武具。

 柄や装飾が痛んでいるが、少し手を入れればこのまま売れる。

 癖もなく扱いやすく、重くもなく、耐久力もあるので冒険者のみならず軍隊にも人気がある。


 鍛冶屋の親父さんに手直ししてもらえば、一つで金貨数十枚になる。

 特に黒騎士の剣は立派で、良い値段になりそうだった。


 最後にカズサが頑張って詰め込んだ宝箱だ。

 中身はほぼ金銀財宝といった内容だが、何よりも目を引くのはオーブだ。


 ヨハネは片眼鏡を装着し、鑑定の為にオーブに近づいて全体を眺める。


「これは……魔法防御用の魔道具か」


 対魔のオーブ。

 所持するだけで魔法の影響を抑える効力がある。

 無効化するほど強力ではないが、これがあるかないかで大きな差が出るだろう。


「アレクシア、ちょっと手に火の魔法を出してみてくれ」

「ええ」


 アレクシアは右手の人差し指に火を灯し、オーブに近づける。

 すると見る見るうちに火の勢いが弱まっていく。


 オーブの隣にまで近づけると、火の高さは半分くらいになった。


「あら、これは……」

「半分ってところか。欲しがる人間は多いだろうな」


 魔法は極めて殺傷力が高い。

 特に不意打ちで使われると、実力者であってもあっけなく殺される。


 その為、魔法に対する防御に関しては富裕層ほど人気が高くなる。

 王族など身に着けるものの大半はそう言った魔道具だと聞いた事があった。


 それに対して冒険者からの人気はほぼ無い。

 魔法を使う魔物が居ない訳ではないが、大抵魔導士が対処する。

 わざわざ高い金を出してまで魔法に備える必要性が薄く、それにお金を使うなら武器や防具を良くした方が生存率が上がるのだ。


 つまりは、高く売れる。

 しかしヨハネもこういった品物を扱ったことはない。

 トライナイトオークションで出しても良い位だ。


「カズサ。他の物は全部ここで清算して、オーブだけは換金してから渡したいんだがどうだ?」

「それで大丈夫です。あ、ここに連絡してもらえれば」


 カズサはそう言って冒険者番号をヨハネに渡す。


「あと、荷物持ちが欲しい時は声かけて貰えると嬉しいかな」

「分かった。考えておくよ」


 ヨハネは紙に数字を記入する。

 オーブ以外の予想換金額を計算し、カズサに渡す分を金庫から取り出す。


「即金な分少し低めに抑えてあるがいいか?」

「はい。慣習みたいなもんですし」


 固定されたパーティーならば、迷宮や冒険で得られたアイテム等の換金に時間が掛かっても問題ない。


 しかし、臨時で集まった場合はそうなると色々と困る。

 清算役が持ち逃げする事も容易だ。

 冒険者組合に仲介してもらったり、お金を送金するという手もあるのだが、手数料がとられてしまう。

 何度も繰り返すとそれだけで結構な金額だ。


 手間をかけて損をするくらいならと、その場で相場より安く処分することが多い。

 カズサが言ったのはそれだ。


 小さな袋一杯に金貨が詰め込まれている。

 それを2つ。


「王国金貨で20枚だ。確認してくれ」

「え、そんなに!」


 ヨハネから清算額を聞いたカズサが思わず反応した。

 今回は高く、かつ早く換金しやすいものが多い。

 鉱石類は時間が掛かるが、間違いなく売れるものばかりだ。


 量も多いので、合わせるとそれなりの額になるのは当然だった。


 カズサは恐る恐るヨハネから金貨に詰まった袋を受け取る。

 動揺して思わずアズを見ると、苦笑していた。

 それを見てカズサの顔が赤くなる。


 一度深呼吸して、袋を開けて中身を手に出す。

 金貨の重みがカズサの左手にのしかかり、1枚零れ落ちる。

 カズサが急いで拾い、枚数を確かめて大事そうに戻す。


「た、確かに20枚ありました。それじゃあ失礼します」

「ああ。アズ達と組んでくれてありがとう。オーブが売れたらまた連絡する」

「分かりましたっ!」


 カズサは声を上ずらせながら金貨の袋を仕舞い込み、頭を下げて部屋を出ていった。


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