第180話 洞窟の地下
船を破壊した事で解放された穴は、凄まじい勢いで洞窟地下の空間に貯まっていた海水を放出する。
海水の中に居たアズとアレクシアはその勢いに逆らえず、穴に吸い込まれた。
目も開けられぬほどの水流だったが、アズを中心にした空間だけが緩やかになっていく。
水の精霊による加護だ。
アレクシアとアズの手は硬く繋がれており、アレクシアも難を逃れることが出来た。
緩やかな勢いになった水流に身を任せて移動する。
空間の海水が排出されたのか、次第に水量が減っていき、ようやく顔を水中から出すことが出来た。
「ぷはっ、大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか」
その後も水は流れていき、遂に地面が見えるようになった。
穴の大きさはアレクシアの背よりも少し大きい。
「此処はどこなんでしょう」
「海に出られると思ったのですけど、当てが外れましたわね。アズ、ちょっと服を乾かしましょう」
全身がずぶ濡れになっており、服が肌に張り付いてしまっている。
アレクシアの提案に賛成だった。なんせ着心地は最悪だ。
アズは上着を脱いで上半身が下着姿になる。
生地が痛まない様に海水を絞り出す。
アレクシアはバトルドレスだ。
着たまま布を絞って水気を落としているが埒が明かないと見るや脱いでしまった。
全身下着姿になる。
女同士、しかも見知らぬ他人という訳でもない。
アズも気にせずズボンを脱ぎ、それも水気をとるために絞った。
「海水だからか、少しべた付きますね。道具も幾つかダメになってます」
ポーチの中から道具を取り出すと、戦いの影響か海中に居たからか影響を受けていた。
「やれやれですわね。まぁ、命があっただけ良しとしますか」
穴の中は呼吸しても問題なかった。
風は感じないが、外と繋がっているかもしれない。
あの洞窟はそれほど大きくは見えなかったが、地下はその限りではないようだ。
濡れた衣類を着続けると体温を奪われる。
だが脱いで下着姿で居ると、当然冷える。
「さっさと乾かして、外に出ますわよ」
アレクシアはまず水の魔法で水の球体を生み出して二人の衣類を放り込み、洗濯する。
それから衣類を取り出して再び絞り、風と火の魔法を使い、温風を生み出す。
暖かい風が周囲に吹き、瞬く間に衣類が乾いていく。
着ていた下着も乾いたのだが、濡れないように保護していた替えへ着替えた。
それから乾いた服に袖を通す。
乾いた服はやはり着心地が良い。
「ふう、ようやく一息つきましたわ」
「ですね。服が濡れてるだけで大分不快でした」
「全くですわ。バカンスに来たのに普段より働いてる気がしますわね」
アズは不満げなアレクシアに愛想笑いで返した。
結果的に討伐できたが、今回は色々と突然の出来事があって大変だったと思う。
愛剣の封剣グルンガウスも海水に浸かってしまった。
鍛冶屋に見て貰わなければならないだろう。
だが今は脱出が先だ。
食料は海水で濡れて殆どダメになっている。
密封していたクッキーを二人で齧り、移動を再開した。
水はアレクシアが生み出せるので困らないのは幸いだった。
魔導士が居るのといないのとでは随分環境が違うのが身に染みる。
もし1人だったなら、戦いに勝てても悲惨な目に合っていただろう。
「ほんと、助かります」
「構いませんわ。助け合う仲でしょう?」
「ですね。でも言いたかったので」
言わないと伝わらない。
他人の心が分からないのだから、他人もこちらの心が分からないのは当然だ。
アズはヨハネから大切だと伝えられた時から、強くそう思っている。
ああまで思われていたことは言われるまで分からなかった。
只の道具として見られていたとすら思っていたのだ。
アズは早く主人に朗報を持って帰らねば、と両手を握り気合を入れ直した。
それからしばらく歩くと地底湖のような場所に到着する。
頭上からは僅かだが光が差してきており、地上と繋がっているようだ。
海水はすべてここに流れており、船の破片や箱があるのが見えた。
「朝になってますわね。なんとか今日中に出ないと船に乗れませんわ」
「壁は登れそうにないですね」
「飛行の魔法は得意ではないのだけど……」
地底湖のある空間は、上に向かって狭まっている。
途中までは登れるが、傾斜がありすぎて途中で進めなくなりそうだった。
アレクシアが頭を悩ませている間、アズは転がっている箱の鍵を壊して開ける。
何かあればと思っての行動だったが、中身は箱一杯の真珠だった。
脱出の役には立ちそうもないが、ヨハネは喜ぶだろうなとアズは思った。
他の箱には珊瑚や宝石が入っている。
どうやらあの船は品物を輸出する途中で沈み、あの穴に挟まったらしい。
ロープか縄でもあればと思ったが、都合よくは手に入らなかった。
船の破片についていたロープは経年劣化で触っただけで崩れてしまう。
最悪、剣を突き刺しながら登るしかないのかなと考えていると、地底湖から何かが浮かび上がってくる。
アズは急いで剣を抜いて構えると、首の長い巨大な生物が顔を出した。
アレクシアも戦闘態勢に入るものの、少ししてそれを解く。
現れた巨大な生物からは一切の敵意を感じない。
アズもしばらく見つめた後、剣を再び鞘に納めた。
巨大な生物はアズとアレクシアを眺めると、頭上を見る。
2人の近くまで頭を下げて、じっとしていた。
「もしかして乗れってことかな?」
「そうみたいですわね……? なんなのかしら、この動物」
見たこともない生物に緊張しつつも、アズ達はそう判断した。
箱を抱えて近くに寄ってみる。
つぶらな瞳と目が合った。
邪気がない。
凄まじい悪意や敵意を感じたクラーケンやオクトパスとは大違いだった。
触ってみても嫌がらない。なので頭に登る。
先に登ったアレクシアがアズの手を引っ張り、2人が巨大な生物の頭に乗ると、首が天井の方へ一気に動く。
「わっ、すごい」
「あらまぁ」
すぐに天上の光が差している穴に辿り着く。
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