第170話 海を満喫しよう
奴隷、もとい女子3人は色んな水着を手に取ってあーだこーだと言っている。
随分楽しそうだ。
ファッションに関してはヨハネはいまいち分からない。
一応道具屋として少しは扱っていたりするのだが、実用的な服ばかりでお洒落とは無縁のものばかりだ。
少しして、エルザがヨハネの手を引っ張って試着室の前まで連れてくる。
どうやら候補が決まったので実際に試着してみるらしい。
まずはアレクシアから。
試着の際はインナー越しに身に着けるとのことだ。
アレクシアが選んだのは黒のビキニと呼ばれる上下に分かれた水着だった。
下にパレオという布を巻いているが、肌面積は多い。
「これが動きやすそうだったから選びましたわ」
自分の身体に自信があるのか、そう言って胸を張る。
素晴らしいプロポーションがはっきりと分かる水着だった。
他にも幾つか候補を着るが、一番似合っているのは最初の水着だ。
これは随分目立つだろうと思ったが、浜には開放的な水着の女性も多い。
見た目で注目を浴びるだろうが、派手さで目立つ事はそこまでないのかもしれない。
次にエルザが選んだ水着は、前から見ると青いワンピースの水着だった。
しかし後ろに向くと肌面積が一気に増える。
先ほどのアレクシアといい勝負だ。
お腹の横も開いており、意外と露出が多い。
「どうですか? 似合ってます?」
スタイルの良いエルザには勿論似合っている。
聖職者が着るには派手なのは明らかだったが、咎める者もいない。
普段露出していないからか、開放的なのだろうか。
他の候補はもっと露出が多かったのでこれになった。
アズが用意した水着は、シンプルな上下の繋がったワンピースの水着だった。
白い水着はまだ幼い容姿に良く似合っている。
「ど、どうですか?」
少し不安げに、上目遣いでヨハネに尋ねた。
ヨハネはしばらくアズの水着姿を上から下まで眺めた。
その視線にどぎまぎしながらアズは感想を待つ。
「良いんじゃないか。可愛いぞ」
ようやくアズの表情が明るくなる。
似合っているか非常に不安だったようだ。
ヨハネは適当に決めた水着を手に取り、清算する。
観光地にしては良心的な値段だった。
恐らく仕入れが上手くいっているのだろう。
全員の水着で代金は銀貨100枚だ。
服としては高いが、わざわざここに来るような人間がケチるような金額でもない。
それにここでしか買えないから売れ行きは好調なはずだ。
無理に高くしなくても利益が出る。
独占になった時に値段を上げると儲かるように見えるが、必ず低価格のライバルを生み出してしまう。
独占した上でライバルを生まない価格帯にすることで息の長い商売が出来るという訳だ。
早速買った水着に着替えて海に向かう。
まだ早い時間なので場所は選び放題だが、徐々に人が増えてきている。
良さそうな場所に借りたパラソルを刺し、椅子を置いて陣地にする。
そこに荷物を置いて一人荷物番をすれば心置きなく楽しめるという訳だ。
一応荷物番を雇うことも出来るらしいが、あまり信用できない。
「お前らに対する慰安みたいなもんだ。俺は気にせず遊んで来い」
ヨハネは店で買ったドリンクを片手に、水着にジャケットを羽織って椅子に座る。
「なら、日焼け止めを塗ってもらおうかなー。良いでしょご主人様?」
「あ、私も塗って欲しいですわ。日焼けは余り肌に良くないし」
「私も、私も塗って欲しいです!」
休む気満々だったヨハネは当てが外れたという顔をする。
地面にシートを敷いてエルザとアレクシアが横になった。
周囲の男の視線が集まる。
ヨハネは見世物じゃないと手と視線で追い払った。
「俺が全員塗らなくても良くないか?」
「それもそうですわね。アズ、宜しく」
「えぇ……」
アレクシアは別に気にせず提案を受け入れる。
アズはエルザを恨みがましく見ながら、日焼け止めを手に取ってアレクシアの白い肌に塗る。
ヨハネもエルザの肌に直接手を触れた。
きめ細かい肌で、引っ掛かりもなく滑るように日焼け止めを広げていく。
「んんっ」
「おい、変な声を出すな」
手が腹を撫でた辺りでエルザがくぐもった声を出す。
色気が凄まじい。
「だって、お腹弱いんですー」
「我慢しろ」
上半身を塗り終わり、下半身へと移る。
背中からお尻、そして太ももから足先へ。
全て塗り終わると、エルザはなぜかぐったりとしていた。
肌が敏感らしい。
「おい、どうした?」
「なんでもないです。なんでも。お返しに私も塗ってあげますね」
「いや、俺は……」
「逃がしませんよー!」
そう言ってエルザは両手にたっぷりと日焼け止めを纏わせ、ヨハネに塗りたくった。
エルザの力から逃げられる筈もなく、終わるまで身動きできない。
向こうではアレクシアが日焼け止めをアズに塗っているところだった。
アズの肌は特に白い。
日に焼けるとおそらく痛むだろう。
くすぐったがるアズをアレクシアはしっかりと捕まえて塗っていた。
薬草を煮詰めた日焼け止めはあの錬金術師が作ったものだ。
品質は保証済み。
仕入れ値だから安く済む。
「少しスーッとしますね」
「日焼け止めの香りですわね。多分元になった薬草でしょう」
「なるほど。これで気にせず泳げるねー」
太陽の光がいよいよ強くなってきた。
砂が熱を持ち始める。
そんな中奴隷達は海に繰り出していった。
ヨハネはただそれを眺める。
初めての海でアズがはしゃいでいるのが見えた。
海水を手で汲んで空へとばら撒くと、きらきらと輝いてアズを照らす。
それはただただ美しい光景だった。
ちなみに武器は持ってきているが携帯していない。
念の為に荷物の中に置いてある。
アレクシアやエルザも、なんだかんだで楽しんでいるようだ。
今回の慰安は成功だな、とヨハネは判断して麦わら帽子を顔に置いて椅子に横になる。
荷物は足元に置いてあるので、誰かが来れば直ぐに分かるだろう。
ヨハネはゆっくりと目を瞑った。
日差しは強いが風もあるし、パラソルの影は体感温度を下げてくれる。
眠るほどではないが、目を瞑るだけでも最高の時間だった。
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