第169話 女性の買い物は長いらしい
海辺の朝は早い。
遮るものがないからか、太陽の光が眩しい所為だ。
アズが最初に目を覚ます。元気が有り余っていた。
まだ残っている僅かな眠気を追い出す為に大きく伸びをすると、少し大きい寝間着がずれて右肩が露わになる。
白く健康的な肌が見えた。
あまり気にせず、ベッドから降りて毛布を綺麗に伸ばした。
畳んだ方が良いのか少し悩んだが、そのままにしておく。
他の三人のベッドを見ると、3人ともよく寝ていた。
まず一番寝起きの悪いアレクシアが被っている毛布を剥がす。
剥がれる寸前で眠りながらアズの手を掴んで止めようとしてきた。
アズは構わず毛布を全て引っ張り上げると、アレクシアは膝を抱えて身を縮める。
寝ている最中は暑かったのか、下半身が下着姿になっていた。
男性が見たら刺激が強いだろう。
「もう朝ですよ。起きてください」
何度か揺すると、うめき声のような返事が返ってきた。
こうなったらしばらくすると目が覚めます。
エルザの方に向かうと、奇麗な姿勢で眠っていた。
まるで死んでいるかのように、乱れがない。
呼吸の度に豊満な胸がゆっくりと上下する。
アズは自分の胸を見た。
大丈夫、まだ発展途上だが成長している。
誰に聞かせるわけでもない言い訳をして、エルザの肩を叩く。
すると、すぐに反応があった。
「んー、おはよう。アズちゃん」
「おはようございます。早く着替えてくださいね」
毛布から起き出したエルザの上半身は裸だった。
聖職者な割にどうにも奔放な節がある。
アズはとりあえず毛布を掛けて裸を隠してやる。
最後にヨハネの前に来る。
耳にこっそりと囁いた日を思い出すと未だに顔が真っ赤になってしまうが、気を取り直す。
アズが近くに寄った事で生まれた影を嫌ったのか、横になって毛布を被ろうとする。
寝たいのなら寝かせておいてもとも思うのだが、どうせなら一緒に色々回りたい気持ちもある。
アズは心を鬼にして、ヨハネの肩を掴む。
すると、そのままベッドに引きずり込まれる。
余りの出来事にアズはフリーズして目を瞑ってしまう。
だがいくら待っても何事もなく、ゆっくりと目を開けると眠っているヨハネの顔が目の前にあった。
どうやら抱き枕が欲しかっただけのようだ。
タイミングよくアズが来たので、そのまま抱き枕にしたのだろう。
アズの気も知らずに、気持ちよさそうに寝ていた。
大きく息を吐いて緊張を和らげる。
そもそもこんな朝からどうこうするような人でもない。
だが、もう少しだけこうしていようかと目を瞑る。
そんな時間も着替えを済ませたエルザによって中断された。
「ほらほら、アズちゃんも着替えないとダメよー」
凄まじい力で引き離され、ヨハネのベッドから出る羽目になった。
「分かりましたから……放してください」
「もうちょっとそっとしておいた方が良かったかな?」
「着替えてきます!」
からかってきたエルザに叫ぶようにしてアズは答えて、自分のベッドへと戻る。
着替えは事前にベットの脇に畳んであるので、それに着替えて準備を済ます。
海は日差しがきついと聞いたので、半そでの服とズボンを選んだ。
それと、買っておいた麦わらの帽子を被る。
「わ、可愛いー」
エルザの声が部屋に響いた。
「似合うね。どこに出しても可愛いよ」
まるで女性を遊びに連れ出すような誘い文句だった。
「ありがとうございます。そんなに似合いますか?」
「ご主人様も褒めてくれると思うよ」
「騒がしいですわねぇ」
2人の声で完全に目が覚めたアレクシアが起き出してくる。
いそいそと着替えだした。
流石にバトルドレスではない。
白いワンピースに着替えたアレクシアは深窓の令嬢といった装いだった。
本人にその気は一切無いだろうけれど。
「まあまあ動きやすいですわね。少し体のラインが出過ぎなきもしますけど」
「よく似合ってるから大丈夫」
「……こういう時位司祭服は脱がないんですの?」
しっかり司祭服を着込んでいるエルザに対し、アレクシアが聞いた。
今エルザが来ている赤と白の司祭服は真っ黒な修道服よりはまだ暑そうではないが、とても涼しいとは思えない。
「仕方ないなぁ」
エルザはそう言うと司祭服を脱ぎ、私服に着替える。
風通しの良い服を取り出す。
青いシャツに、ひざ下まである白のスカートを着たエルザは率直に奇麗だった。
普段の司祭服での装いとはまるで違う印象がある。
「元が良いだけに、様になりますわね」
「おっと、褒めてる? 褒めてるよね」
「ああ、もう。少し褒めたらこれですわ」
アレクシアは近寄ってくるエルザを両手で押し止めている。
そんな事をしていると、流石にヨハネも起きてきた。
全員着替えて、荷物は貴重品以外は宿に預けておく。朝食は屋台のフルーツサラダで済ませた。
トロピカルフルーツがふんだんに使われており、食べやすい。
「美味しい。サッパリしますね」
「ああ。寝起きにはぴったりだな」
値段も手頃で、それを海を眺めながら食べると普段とは違うバカンスに来たという実感が湧く。
「とりあえず散歩しながら周りを見て、水着でも買うか」
「風が涼しいですねー。匂いも気にならなくなってきました」
アズの言う通り、適度な風が日差しの熱さを緩和していた。
これで海に入ればさぞ涼しいだろうと思わせる。
まだ人の少ない浜辺を歩いたり、眺めの良い場所を眺めたりし、ようやく海の家と書かれた店に足を運ぶ。
どうやら海の道具屋兼食事処のようだ。
朝早いにもかかわらず店は開いており、外のテーブルでは食事をしている観光客の姿もある。
目的の水着コーナーはすぐに見つかった。
値段もそう高くはない。
「好きに選べ」
ヨハネは自分の水着を適当に決めると、そう言って飲み物を買って椅子に座る。
女性の買い物は長いのをよく理解していた。
アズ達は早速水着を手に取り、選び始めた。
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