第150話 農奴は公爵のモノ
魔物溜まり。魔物が湧き出す源泉。
迷宮が魔物溜まりから発生する事もある。
そもそも魔物とは何なのか未だに分かっていない。
学者がどれだけ調べても根本的な部分は一切分からないのだ。
創世王がこの世界を作った時、何らかのトラブルで生まれるようになったのではないかというのが定説らしい。
ちなみに太陽神教には崇めし太陽神がこの世に降り立った時、魔物は全て消えさるという教義が存在する。
信仰する者全てが救済され、長い平穏の時代が訪れるという。
尤も、そんなものは嘘っぱちだというのは銅像事件で身に染みた。
素直に彼らを信じることは難しい。
そもそも、信徒になるのに洗礼が不要なのだ。
2人の信徒の前で信仰を宣言するだけで太陽神教の信徒となる。
だからこそこれだけ広く布教されたのだが。
飢饉や災害など人の不安が露わになるときに布教し、大陸中を覆ってしまった。
結果創世王教は殆ど消滅してしまい、他の神を信仰する教会も勢力が小さくなるばかりだ。
ヨハネは少しため息をついた。
馬車に揺られてどうでも良い事ばかり考えてしまう。
魔物は古代より人間を脅かし、害する存在。
同時に人間が魔物を倒すと不思議と力を得られ、魔物から採取できる素材や魔石は人類に大いに役立っていた。
時には魔物が居なくては大量の餓死者が生まれていたという時代も存在したという。
だが、基本的には人類の脅威だ。
魔物により多くの犠牲者が毎年生まれており、冒険者や兵士がそれを防ぐために危険を承知で退治している。
強力な魔物を退治し続けた冒険者は1人で竜と正面から戦う事も出来るとか。
ヨハネとしては、自分の奴隷がそこまで強くなられると目立ちすぎるかなと考えていた。
勿論、強いに越したことはない。
むしろ有名になればグッズを作っても良いかもしれない。
公爵の視察に同行する事になり、頑丈な馬車で揺られている。
流石に公爵と雑談する雰囲気ではない。アズやオルレアンとばかり喋るのも心証が悪い。
それに他の面子は別の馬車だ。
頭の中で適当な事を考えることでヨハネは暇をつぶしていた。
アズはそんなヨハネの横で目を瞑り、頭を預けている。
まだ本調子ではないのだろうと判断し、そのままにした。
オルレアンはずっと火の精霊石を見つめている。
流石に火傷するような熱さはもうないようだが、それでも強い輝きは続いている。
これが何を意味するものなのかは、残念ながらこの場の誰にも分からなかった。
「そろそろだ」
公爵の言葉で全員が外を見る。
ヨハネが動いたことでアズが目を覚ました。
この先に目的地の魔物溜まりがある。
それは魔物が退治され続けると小さくなり、次第に消える。
だが、その場には名残のようなものが残ることが分かっていた。
公爵と数名の兵士の後をヨハネ達が追いかける。
すると、エルザがアレクシアを見て呟く。
「あら、鳥肌が立ってますよ」
「仕方ないでしょう。なんというか、嫌な感じですわ」
「魔物と遭遇する前みたいな感じがします」
「そうなのか? 俺には良く分からないが」
本当に? という顔で奴隷達に見られたヨハネはたじろいだ。
確かに嫌な気配がするかもしれない、と思うもののやはり3人に比べるとあまり感じない。
商人と冒険者の違いと言えばそれまでだが。
目的地に到着した。
流石にここまで来ると何も感じない、などと口が裂けても言えない。
地面が大きくえぐれ、記号のようなものが描かれている。
だが、何の文字かまるで分からない。
何の意味を示すのかも。
ただただ不気味だ。
「ここがそうだ。代々魔物の間引きに加えて測量を行っているが、魔物が封印されているとは聞いた事がない。何かあるとすればここ位のものだ」
「なるほど……」
こう自信満々に言われては否定するのも難しい。
まして相手は他国の特権階級、それもほぼ頂点と言ってもよい。
ヨハネはただ頷いた。
元よりヨハネも問題の本質をまだ理解している訳ではない。
さて、どうしたものかと魔物溜まりの跡地を見ていると、ふと跡地が揺れた気がした。
黒い靄がえぐれた地面から湧き出て形を持とうとしている。
「枯れてたんじゃありませんの!?」
アレクシアが戦斧を靄へと向けるが、実際に魔法を放つ前に突如火が湧き出て靄を焼いた。
黒い靄は火にまみれて消えていく。
「……今のは結界ですねー」
「火の結界が魔物溜まりを抑えている訳ですわね」
「普段魔物が出てこんから枯れた、とされていた訳か」
オルレアンの持つ火の精霊石がオルレアンの手から離れ、魔物溜まりの場所に浮いた。
すると、地面の記号のようなものが精霊石に反応するように赤く光る。
同時に周囲の気温が上がってきた。
すると、アズが右目を抑える。
どうやら創世王の眷属としての力が精霊に反応しているようだ。
近くに行って肩を支えてやる。
「ご主人様、ありがとうございます」
「気にするな」
アズの方は落ち着いたようだ。
火の精霊石はゆっくりと火を纏う。
それはまさしく火の精霊だった。
火の精霊はオルレアンの元に戻る。
オルレアンはそっと火の精霊を抱きしめた。
不思議な光景だ。
燃えている筈なのに、その火がオルレアンを傷つけることはない。
「盟約の内容はこの魔物溜まりの封印、か。なるほどのぅ。確かにこの辺りの魔物は他の地域に比べて少ないと思っていたがそういうことか」
公爵は長年の疑問が解けたと感じていた。
「更新せねばここが解放されるという事か……。それは避けねばな。そこの娘」
「はい」
呼ばれたオルレアンは返事をする。
「私の農奴であるならば私の所有物だ。役に立ってもらう」
「分かりました」
その様子を見ても口を挟む事は出来ない。
言っていることは何一つ間違ってはいないのだから。
ヨハネとて他人に自分と奴隷の事をとやかく言われたくはない。
奴隷は自分だけの大切な存在なのだから。
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