第143話 公爵夫人の元へ
香料の積み込みも終わり、馬車の用意を済ませて昼まで待った。
それからアレクシアを起こして馬車に待機させる。
すぐにでも出発したかったが、アレクシアがいるのといないのとでは進軍速度が違う。
アズとエルザは最悪置いていくことも考えなければ。
一度店に戻るとオルレアンが起きていたので馬車に移動するように指示しておく。
様子を見る為に部屋を開けると、エルザがアズの服を脱がせて体を拭いていた。
「アズの調子はどうだ?」
「大分良くなりました。若いと回復力がありますねー」
戻った時は大分顔色が悪かったが、確かに今はかなり良くなっている。
「もし気分が優れないなら今回は置いていくつもりだが……」
「いえ、行きます」
アズは間を置かずに答えた。
「分かった。無理はするなよ」
「ありがとうございます」
そう言ってアズは冒険用の衣装に着替える。
まだ少しだけ顔が赤い気がする。
「エルザは寝てないんじゃないか?」
「いえ、少しは寝てますから」
「そうか」
もう流石に出発しないと厳しい。
二人を連れて馬車に向かう。
ラバは長い休みで体力を持て余しているようだ。
頼もしい。
御者はしばらく一人でやった方がいいだろう。
ラバを走らせ、馬車を動かす。
石鹸と香料を積んでいるので少し荷が重いだろうが、問題ないようだ。
門を抜け、目的地のアテイルへ一直線に向かう。
アズは疲労がまだ抜けていないのか、出発して直ぐに寝息を立てて眠っている。
オルレアンに毛布を掛けさせながら、以前アレクシアが固めた地面を通った。
道が整備されているだけでも揺れは小さいし助かる。
出発初日は夕日が沈む直前まで進み、適当な場所で夜を明かした。
流石にエルザとアレクシアはその辺りで目を覚ましたので見張りをしてもらう。
アズはまだ眠っている。
出発二日目はアレクシアの魔法とエルザの祝福で一気に距離を稼いだ。
祝福を受けたラバ達は弱い魔物なら蹴り倒すし、足の遅い魔物なら逃げ切ってしまう。
アレクシアの追い風で荷も軽くなったのか速度が上がった。
これなら間に合うか。
夕方頃に馬車の軸が痛んでしまった。
流石にスピードが出過ぎたようだ。
新しい馬車とはいえ、馬車の軸は傷みやすいとは聞いていたが……。
その辺の木を切り倒し、軸を自作する事にした。
本来は職人が精度を測りながら調整するものだが、魔法を使う事でかなり精度の高い軸を作るのに成功する。
「たいしたもんだな」
「削るだけならなんとかなりますわね」
「見本があるしそんなもんか」
軸を取り換える。
車輪との接触部分に気休めだが蝋燭を塗り込んでおいた。
目的地まであと少しだ。
アズがそこで目を覚ました。
ずっと寝ていたからか顔色は元通りだ。
夜を過ごし、早朝から出発する。
軸は問題なく回転していた。
昼頃にはアテイルに到着したので、中に入る為に税金を支払う。
中に入れば後は目的地に一目散に走る。
公爵の家は都市の中でも特別大きく立派だ。
直ぐに分かった。
家令の貴族に貰った紙と割符を門番に見せて門の中に入れて貰う。
そこからは流石に勝手に出歩けないので家令を待つ。
なんとか間に合ったな……。
余裕は半日。ギリギリだが、期日内に納品できそうだ。
家令の貴族がこちらへとやってきて、品物の検品を行う。
急いだ割に幸い破損もなく持ってこれた。
「数は揃っているようだな」
「はい。必ずご満足いただけると思います」
「うむ。一つずつ持って公爵夫人の所へお連れする。他は全て倉庫だ。支払いは公爵夫人にお目通りした時に支払う」
「分かりました」
アズたちはどうするべきかと思ったが、わざわざ馬車に待たせておくというのも妙か。
使用人たちが石鹸や香料を倉庫に手際よく積み込んでいく。
そして適当な石鹸と香料を1つずつ家令が掴み、手に持つ。
「こっちだ。言うまでもないとは思うが、決して粗相のない様に」
言われずとも分かっている。
公爵夫人になるような人物は高位の貴族だ。
問題を起こせば、アーグ男爵の時とは比べ物になるまい。
応接室らしき部屋を家令がノックし、開く。
中には数人のメイドと、司祭と淑女が1人居た。
あの淑女が依頼をくれたレクレーヌ公爵夫人だろう。
蒼く長い髪が印象的だ。
家令の指示に従って中に入る。
司祭は太陽神教のローブを着ている。
それも豪華なローブだ。公爵夫人と会っているしそれなりの立場なのだろう。
一瞬だけ目を見張った。
どうやらある程度親しい関係のようだ。
幾つか言葉を交わして司祭が退室する。
去り際に祝福がありますように、と残していった。
ありがたい言葉なのだろうが、太陽神教には銅像やらなんやらで悪い印象しかないので複雑な気分だ。
あの司祭がどうこう、というわけではないのだが。
帝国にも太陽神教が布教されているのは知っていたので、どこかで見ることになるだろうとは思っていた。
「もっと近くへ」
公爵夫人の指示を受けたメイドの指示に従い、傍に行く。
家令は横に控えた。
……緊張で喉が渇く。
「約束通りもってきてくれたのね。とりあえず座ってお茶でもいかが?」
「ありがたく頂きます。レクレーヌ公爵夫人」
メイドが手際よく人数分の紅茶を用意する。
そこでようやく席に座った。
緊張で手汗が凄いな。震える手でカップを掴む。
ちらっと後ろを見るとアレクシアとエルザはともかく、アズとオルレアンは流石に強く緊張しているようだ。
カップは割るなよ、と心の中で思う。
家令が石鹸と香料を公爵夫人の前に置く。
公爵夫人は早速包装を解き、箱から中身を出した。
そして石鹸を指で撫でる。
「ああ、この香りと手触り。この都市はあまり品質の良い石鹸や香料がないの」
そう言って香料を手に取ると少しだけうっとりとした表情になる。
かなり気に入って貰えたようだ。
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