第127話 狩人の負傷した町

 野盗が使っていたラバだけあってよく訓練されているし、よく歩く。

 食べる草も馬よりすこし少ない。代わりに水をよく飲む。

 二頭のラバは馬車を曳いても音を上げずに進む。 

 道はいつもの如くアレクシアに歩きやすい様に整えて貰っている。

 ラバが疲れないのはやはりこれの影響もあるのかもしれない。


「普通、こういうのは領主とかが時間をかけてやるものですよー。されて困る人は居ないですけどね」

「昔皇帝が道路を整備することを王の道、なんて言いましたわね。こんな気軽にやることではないけれど」

「でもできるんだろ。ならいいじゃないか」

「人使いが荒いですわねぇ」


 御者の席にはヨハネとアズが座っている。

 アズは馬には軽くあしらわれたがラバには好かれているようで、よく言うことを聞く。

 ……アズはまた少し背が伸びたかな。流石は成長期だ。


「なんですか?」

「いいや、なんでも」


 眺めていたらアズが少し恥ずかしそうに尋ねてきた。

 見つめすぎたか。

 最初に買った時よりも、ずっと綺麗になったな。


 そんなこんなで半日ほどで目的の町に到着した。

 預かった荷物の中身はどうやら衣類やら日用品、手紙のようだ。


 町に入り、依頼先に向かう。

 規模はあまり大きくはないが、寂れているほどでもない。

 都市からそれほど離れていないし、中継地点としての利便性があるからだろう。


 依頼先の家には初老の女性が居た。

 荷物を渡す。


 その際少し話をしたが、どうやら町の人間がお金を出し合って依頼をしたらしい。

 馬車で半日だと徒歩では丸一日かかるし、荷物を持った状態ではもっと時間が掛かる。


 道中で魔物とも出くわすし、それならこうやって依頼という形にした方が良いという事らしい。

 一人が依頼するなら負担が大きいが、お金を出し合えばある程度分散できる。


 なるほど、と頷いた。

 商人の間でも似たようなことをやったりする。

 例えば大量の金の買い付けなどは上手くやれば儲かるが多額の資金がかかるし、もし何かあれば破滅だ。


 だが数人で協力すれば利益は減るが、負担も減る。

 こういうのは人間の知恵なのかもしれないなと感じた。


 依頼はこれで終わりではない。

 周囲の魔物を狩る依頼も引き受けている。

 柵に覆われただけのこのような町では弱い魔物であっても脅威だ。


 常に周囲を奇麗にしておく必要がある。

 どうやら間引きを担当している町の狩人が怪我をしてしまったらしく、しばらく滞っているらしい。


 素材等は町に引き渡す代わりに依頼料自体は少し高い。

 ただ今日これから魔物を狩っていては夜になってしまう。


 一夜を過ごす為、町に一軒だけの簡素な宿を借りる。

 うちの人数では大部屋になってしまうが仕方ない。


 綿を詰めただけの敷物に座る。


「問題なく終わりそうですね、ご主人様」

「そうだな。流石にただの依頼で面倒な事になっても困るが」

「ですね」


 アズが隣に来たので座らせて少し話をする。

 道中にも魔物を倒しているが、特に疲れた様子もない。


「そうだ、迷宮は実際どうなんだ?」

「どう、とは?」

「俺やオルレアンが入っても大丈夫かって意味だ」

「そうですねぇ……」


 質問にアズは考え始めた。

 なんだかんだでアズにはパーティーのリーダーとしてそれなりに経験を積んでもらっている。

 幾つかの迷宮を攻略したし、危ない目にも合ってきたはずだ。


「下級の迷宮なら問題ないと思います。エルザさんの祝福もありますし、アレクシアさんの探知魔法もあるので」

「ふむ」

「ただ、風の迷宮みたいな場所だと……」


 少し言葉を濁している。

 奴隷が主人には言い辛いのだろう。

 信頼関係は大分強くなったと思ったが、やはりこの辺は関係上仕方ないな。


「いいから言ってみろ」

「かなり厳しいです。守りながらは戦えないと思います。カズサちゃんみたいに自衛できれば問題ないと思いますけど」


 カズサ……確か風の迷宮で荷物役でパーティーに参加した少女だったな。

 荷物役は戦闘はしないが、ある程度自分の身は自分で守らなければならない。

 戦う術を知っているのだろう。


 アズたちにより経験を積ませて強くさせるには、やはり迷宮に行かせるのが良い。

 そこについていくのはやはり難しいな。

 ヨハネはあくまで商人で、アズたちは冒険者だ。

 オルレアンはただの少女だし役割が違う。


「分かった。ただ下級でもいいから迷宮の中を一度は見ておきたい。その時は頼むぞ」

「分かりました。任せてください」


 アズはそう言うと嬉しそうに返事をした。

 夕食はこの町の名物の焼き魚を食べる。

 川魚を焼いたらしく、淡白な味付けだ。

 塩を振ると良い感じに美味い。


 ……周囲の視線が集まってきたので塩を分ける。

 独占は良くないよな、独占は。


 食事も終わり、部屋に戻り湯で体を拭く。

 いくつかの桶に水を張り、アレクシアがそれを湯にする。

 水も火も自前で用意できるのがやはり良い。

 アレクシアを買って正解だった。


「こういう時は便利な女扱いですわねぇ、ほんと」

「そんなことないよ。どうせ体を拭くくらいはお前もしたいだろ」

「それはそうですけど」


 大部屋の中で服を一部脱ぐ。

 オルレアンは特に肌を見せることには抵抗はないようだ。

 アズたちももう俺の視線には慣れているので特に気にしていない。

 積極的に眺めているわけではないが。


 綿を詰めただけの敷物はごわついて少し寝にくいが、それでも睡魔が次第に強くなる。

 やがて眠りに就いた。

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