第122話 盛況な都市の光と影

 都市アテイルに入って感じたのはまずその広さと人の多さだ。

 位置的には交通の要所という訳でもないにも拘らず。


 それなのにこれだけ栄えているのは中々珍しい。


 俺は馬車から降りてラバを牽きながらまずは宿を探す。

 余りにも安くなく、しかし高級というほどでもない、そんな宿が良い。


 宿は少し歩けば見つかった。これだけ人の出入りがあれば宿も多い。

 大部屋を一つ借り、馬車を外に置く。


 料金はそれなりといったところか。


 他の者は一旦休ませて商人組合を探す。

 荷は念の為盗まれない様に部屋に運び込ませておいた。


 荷の管理は自己責任だ。高級な宿ならこれも管理してもらえる。


 都市アクエリアスでは冒険者組合で商売許可書が手に入ったが、これだけ大きな都市なら商人組合がある筈だ。


 酒場などで情報を聞いて目的地である商人組合所に到着した。

 立派な建物だ。さぞ儲かっているのだろう。


 中に入り、様子を見る。

 予想ほどは人が居ない。落ち着いた雰囲気だった。


 受付と話し、明日の分の露店売り用の許可書を買う。

 場所の指定を受けたのでこの都市の地図を確認しておく。


 良い場所は高く、悪い場所は安い。

 まあ、良い場所はそもそも既に抑えられているのだが。


 許可書を持って組合所から出る。

 多くの人が通路を歩いている。


 店の呼び込みも盛況だ。

 果実を売っている店で幾つか購入し、ついでに少し話す。

 長居するのは良くないが、買い物ついでに話す位は良くある事だ。


 少しばかり雑談した結果、この都市の事が少し理解できた。


「また買ってくれよな」

「ああ、分かったよ」


 店から離れ、買った果実を眺める。

 品も良いな。


 一つ齧る。

 噛んだ場所から甘い果汁が滴り、のどを潤した。


 美味い。


 話して分かった事は、この都市の税金が安いという事だ。

 確かに通行料も安かったな。

 その上でしっかりと都市が運営されており、治安も悪くない。


 その為か領主の貴族の事はかなり良く言われていた。

 普通商人は領主を悪く言いがちなのだが……。


 流石は元老院の貴族様だ、と。


 だが、その言葉をそのまま受け取る訳にもいかない。

 この都市の税金が安いのは、もちろん領主の善意などではないのだ。


 荘園の膨大な儲けがあるから、都市から税金を搾り取る必要がない。

 結果的にこの都市は今栄えている。


 つまりこの都市の繁栄は荘園の犠牲の上に成り立っていることになる。


 複雑な気分だ。

 俺も何も知らなければ喜んでこの都市を絶賛しただろう。


 商売許可書も安かったし。


 宿に戻り、借りた部屋に入る。

 エルザは居ないようだ。

 また教会を見に行っているのだろう。


 他の者はリラックスして休んでいた。

 買ってきた果実を渡す。


 都市の中で警備隊が巡回していたが、普通の巡回に見えた。

 オルレアンをわざわざ探している様子もない。


 警戒はされていないようだ。


 まず手を叩いて注目を集める。


「今日はこのまま休む。明日は持ってきた商品を露店で売る。オルレアンの住んでいた場所に行くのはその後だ。良いな?」


 全員が頷く。


 エルザが戻ってきたのは夕方頃だ。

 そのまま就寝する。


 次の日、早速指定された場所で露店の準備を行う。

 一応うちの店では売れ行きの良い嗜好品ばかりだ。


 客は多い。

 早速何人かの客が商品を眺める。


 御婦人が香り付きの石鹸に興味を示したので、商売トークで解説して売り込む。

 一度売れるとどんどん売れるのが露店だ。


 勿論売るものは厳選してあるからだが。


 香辛料はこの辺りでは不足気味らしく、料理人らしき客がまとめて買っていった。


 次第に品物が売れていき、最後にリンゴが売れていった。

 行商としては中々の成果だ。


 昨日確認していたが、農地である荘園があるからかこの都市では食料が安い。

 小麦を限界まで買い込んでうちの店に戻ればそれも利益になるだろう。


 店を仕舞い、一度宿に戻る。

 馬車に空になった木箱を詰め込んでおく。


 ラバ達はのんびり用意された草を食っていた。


 目立つのでオルレアンの住んでいた荘園に馬車でいくわけにはいかない。

 暫くはのんびり休ませておこう。


 宿に戻る。


「旦那様の品物はすぐ売り切れましたね」


 オルレアンがそう言って感心する。


「ああ。ある程度売るものは選んだからな」

「なるほど……色々と考えておられるのですね」

「荘園に行くっていう約束もあるからな」

「覚えていてくださってありがとうございます」


 荘園の場所を確認する。

 オルレアンは地図を見たことが無かったのではっきりとは分からなかったが、荘園から出る際に通った道の景色からある程度推測する。


 荘園に適した場所かつ、広さもある地点に当たりを付けた。


「どう行くんですか? 兵士がいたりとかはするんでしょうか」


 アズがそう尋ねてくる。

 荘園の管理がどのようなものかによるが、元老院の貴族であれば諸侯と言って差し支えない。


「規模も大きいだろうし、見張りは確実に居るだろうな。こっそり夜に忍びこむしかないだろう」

「分かりました。頑張ってお守りします」


 出来ればアズが剣を抜くような展開にはなってほしくないものだ。


 オルレアンとその両親が逃げ出すほどだ。

 余り良い場所ではなさそうだが……。


 念の為に一度昼間に確認しておく必要があるだろう。

 見つけた後は近くに待機して夜を待つ。


 宿は数日分借りてある。

 丸一日戻らなくても問題はないだろう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る