第118話 野盗のアジト

 野盗はラバに跨り、8人ほどでこちらの馬車を囲うようにして近づいてくる。

 馬は既に止めてこっちの馬車が動かないようにした。


 野盗は全員頭に同じ色の布を巻いている。

 動きもある程度連帯感が有り、襲いなれているのを感じた。


 恐らくただの野盗ではなさそうだ。


 アズ達三人が馬車を庇うように三方に出る。

 すると、襲ってきた野党のリーダー格らしき男が少し前に出る。


「女三人に馬車の中に商人が一人。……女は三人とも冒険者か」

「ええ、どいつも金になる女だ。積み荷も一緒に頂きましょうや」


 相槌をうちながらもう一人の盗賊がリーダー格の男に近づいてきた。

 ニヤついているのが腹が立つ。


 アズ達が武器を盗賊に向けると向こうも臨戦態勢に入った。


 数はこちらが不利で、更に馬車を守りながらの戦いになる。

 だが、心配はしていなかった。


「相手を人間と思うな」


 そう言って三人に声を掛ける。


 アズに向かって小柄な野盗が真っ先に襲い掛かるが、相手の剣が届く前にアズが野盗を斬る。

 剣を振って血を振り払うと、他の野盗が一瞬怯んだ。


 所詮は数を頼みにする集団だ。

 アレクシアが魔法を使い、エルザがメイスを振るう度に野盗達の数が減っていく。


「つええじゃねぇか……」


 あっという間に野盗は半分の4人になる。

 だがリーダー格の男は引く気はないようだ。


「丁度頭数が多いと思ってたんだ。口減らしに丁度いいぜ」


 どうやら我先にと飛び掛かってきた連中は下っ端の下っ端らしい。


「……私から見れば大して変わりませんけど」


 そう言ってアズが近くの野盗に近づく。

 相手の野盗が気付く前に剣が届いた。


 以前神殿騎士の腕を斬った辺りから人間を斬る事に躊躇が無くなったようだ。

 凄まじく頼りになる。


 向こうが弱いというよりはこちらが強い。

 結局リーダー格以外の男は始末した。


 リーダー格の男だけ生かして捕える。


 人間同士の戦いは思うところが多いが、野盗は人間とは思わない。

 襲い掛かる獣と同じだ。

 こっちは食われる訳にはいかない。


「チッ、なんでこんな一台の馬車にこんな護衛が居るんだ」

「そりゃお前みたいな奴が居るからだよ」


 実際に護衛の無い馬車一台の商人なら呆気なく殺されていただろう。

 荷も奪われて死体は野晒しといったところか。


 今回捉えたのは訳がある。

 前回野盗に襲われたときは急いでいたのもあってアジトを漁る事はしなかったが、今回は時間がある。

 乗っていたラバ達もエルザが確保している。

 8頭全てとはいかなかったが。


「それじゃあ、ねぐらを教えてもらおうか」

「てめぇ、俺達からむしり取る気か」

「勿論そうだ」


 俺達、と言った。まだ仲間がいるのだろう。

 野盗のねぐら、つまりアジトの場所に関してはリーダー格の男は喋らなかった。


 喋ったところで逃がす気はないのが分かっているのだろう。


 結局ほかの盗賊が地図を持っていたのでそれを使う。

 リーダー格の男はアレクシアが始末した。


 生かしておけばまた人を集めて襲うからな。

 アレクシアとしては特に見逃せないのだろう。


「良い気分はしませんわね」

「まあな」


 疲れたように息を吐いたので肩を叩く。


「心配はいりませんわ」


 流石に芯が強い。


 ラバは乗ったことがある。アズを前に乗せて、もう一頭にエルザが乗る。

 アレクシアに馬車と残りのラバの管理を任せて地図のある場所へ向かう。


 何が起きてもアレクシアなら対応できるだろう。


 ここからそこまで離れていない場所だ。

 襲った後の獲物の持ち運びもあるから距離はないだろうと踏んでいたが、予想通りだった。


 俺がもしやるならそうする。


 野盗のアジトらしき洞窟があった。

 アズが先頭に立ち、ゆっくりと近づく。


 見張りは居ない。

 鳴子のような仕掛けもない。


 組織だった集団かと思ったのだが、ただのお揃いの格好だったのか?

 アズが更に進む。


 周囲には特に何もない。

 洞窟の中には生活の痕がある。

 やはりここが野盗の住処だったようだ。


 奥には左右に二つ部屋がある。アズが右の部屋の前に立ち、確認を求めてきたので頷く。


 部屋と言っても布で区切っているだけだ。

 アズは鞘に納めた武器の柄に手を置き、部屋に入る。


 そこには少女が一人寝かされていた。

 乱暴された跡があり、目が虚ろだが息はある。


 こういう事もあるかと思ってエルザを連れてきて正解だったか。

 エルザが少女を治療する。


 水瓶があったのでその水を使って少女を奇麗にしてやる。

 念の為、もう一つの部屋を調べると倉庫のようだ。


 誰も居ない。

 あの8人が全員だったのだろうか。

 洞窟の広さ的にそこまで大きい集団ではないと確信したが、他に居ないなら安心できるのだが……。


 倉庫には特に目ぼしいものが無かった。

 換金して売るものが無くなったから俺たちに目を付けたのだろう。


 エルザの所に戻ると、丁度少女をあやしていた。

 意識が戻ったようだ。


 少女が落ち着くまでアズと部屋の外で待つ。

 暫くして、泣き声が収まったのを確認して再び中に入る。


 泣き疲れて寝てしまったようだ。

 もし野盗を倒してアジトを放置していれば、この少女は命は危なかったかもしれないな。


 少女にシーツを巻いて背負う。

 とりあえず連れて帰って身元を確認しなければ。


 もし親元に帰せるなら帰してやろう。

 

「帝国の人っぽいですね」

「ああ。多分そうだろうな」



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