第117話 都市アクエリアスの盛況

 最終的に少し売れ残ったものもあるが、露店を閉めて宿に泊まる。

 宿の埋まり具合を確認したが、まだ空きが多いようだ。


 宿の主人と世間話をする。

 領主のアーグ男爵は戻ってきてないとのことだった。

 今は数人の名士が話し合ってこの都市の行く末を決めているようだ。


 流石にうちの都市のあの放蕩息子とは違って、アーグ男爵は帝国への納税はしていたようなので、帝国側からは今のところ何もないらしい。


 まだそれほど日が経過してないのもあるが。


 適当なところで話を切り上げて部屋に戻る。

 三人は適当にくつろいでいたので、明日の予定だけ伝えて邪魔しない様にさっさと寝ることにした。






 次の日、この都市で何か今買えるものはないか物色してみた。

 売るだけ売って何も買わない商人は割と嫌われるからな。


「陶器とか良いと思いますわよ」

「陶器か。割れ物はちょっと怖いな」

「ちゃんと包装すれば大丈夫ですわ」


 アレクシアからの提案で陶器を買い込む。

 売れ残った布を使って緩衝材にして木箱に積んだ。

 デザインの良いものを買い込んでおいたので、うちの店で売ろう。


「本来は大麦なんかも良いのですけど、今はまだ難しいですわね……」

「大規模な穀倉地帯を抱えてるんだったな。安く買えるなら良い商売になる」

「まだ先の話ですねー」

「そうだな」

「積み込みました。もう出発しますか?」

「そのつもりだが、疲れは残ってないか?」


 アズが陶器の最後の一つを馬車の荷台に積み終わる。

 念の為体調を聞くと、問題ないようだ。


 馬車を出発させる。

 アレクシアに道を作らせて正解だった。

 馬の疲れ方が全然違うし、揺れがあまりないので陶器も無事に運べた。


「お尻が痛くないのが良かったです。実は行きはひりひりしてて……」

「こっそり治してあげてました」

「それは良かったな」


 アズがそう言って自分のお尻を撫でる。

 確かに最初の時は揺れてて無駄に疲れたな。

 腰に来るのは商売柄勘弁してほしい。







 こんな調子で間に休みを挟みながらしばらく行商に励んだ。

 回数で言えば10回ほど都市アクエリアスと都市カサッドを往復しただろうか。

 帝国の陶器は店に置いたところ悪くない売れ行きだった。


 毎回陶器を買ってくるとなると在庫がだぶつくので何かないか悩んでいたら、宿の主人にかんぴょうを薦められた。


 試しに食べてみると不思議な食べ物だ。

 ユウガオの実を細長い帯状に剥いて加工したらこうなるらしい。


 ユウガオの実を見せてもらうと、瓜みたいな植物だった。

 甘く煮ると結構美味い。

 乾燥させてあるので長持ちするようだ。


 乾燥してるから渇水の時は食べられなかったので大分余っているらしい。

 買い込んでみた。

 うちの都市では見たことがないので上手くやれば売れるだろう。


 都市アクエリアスでは俺の露店が切っ掛けで広場が市の様になり始めた。

 他の商人達も都市アクエリアスの渇水が無くなった事が知られ始めてきた証拠だ。


 飛ぶように売れていた品物もほどほどの売れ行きになる。

 相変わらずリンゴは即完売だ。


 もしかしてうちの都市のリンゴは思ったよりも良いモノなのか?


 このまま穀倉地帯で食料がまた生産されるようになれば都市アクエリアスは遠からず活気を取り戻すだろう。


「なぁ、思ったんだが」

「なんですの?」

「お前の家、内政に集中していれば問題なかったんじゃないか?」

「……私の代ではそうするつもりでしたわ。それとここまで盛況ではありませんでしたし」


 そう言うアレクシアの声は沈んでいた。

 あと少しだった。歴史はそういう事ばかりだ。


「……商人は凄いですわね」

「そこは俺が凄いという場面だろ」

「はいはい。ご主人様は凄いですわ」


 投げやりな褒め方だったがまあいい。


 市になった事で仕入れが楽になったのは助かる。

 最初は俺の露店だけだったので感慨深いな。


 人が集まれば自然と商売も生まれる。

 頭では分かっていたがいざそうなると嬉しいものだ。

 なんせ儲かる。


 シルクの布やお茶はうちの都市で絶対売れるので買いこんだ。


 二日かけて持ってきたものを売り切る。

 仕入れはともかく、売る方が時間が掛かるようになってきたな。


 一度戻ったら戦略を練らねば。


 丁度馬車も出来上がる頃だし、店の増築も終わる頃だ。

 荷台に乾燥させたお茶を詰め込んだ木箱を置く。

 荷台に載っていたアズがそれを奥に押し込んで今回の仕入れは完了だ。


 都市アクエリアスを出発する。

 馬車の往来も増えてきたな。


 宿も埋まるようになってきた。

 特需は終わったが、景気はむしろこれから良くなっていく感じがした。


 領主不在なのは気になるが、そこは帝国が判断する事だ。


 しばらく馬車でのんびりと移動する。

 随分慣れた道だ。


 道を作っているのが知られてきて意外とこの道が使われている。


「道を作るのは疲れるのか?」

「土の魔法は消耗が少ないのが利点なので意外と平気ですわよ。ゴーレム作成みたいな事をすると逆に消耗が大きいですけど、土を固める位なら」


 なるほど。


 便利なものだ。


 便利な道を作ってそれが知られるという事は、実は良い事ばかりじゃない。

 野盗が狙いをつけてくることもある。


 野盗を避けるために色んな道を通るという方法もよく使われるのだが、こうして行き来が増えると呼び込んでしまうのだ。


 今もうちの馬車を狙って野盗がこちらに向かってきている。


「野盗は商人の敵だ。やれ」

「分かりました」


 アズ達が馬車から降りて武器を手に持つ。

 俺は邪魔にならない様に引っ込む。


 適材適所だ。

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