第99話 燃える石の回収。

 目的地に着いたらエルザが全員に祝福を行い、筋力が補強される。


「アズは見たと思うが、あの黒いのが大体燃える石だ」


 ヨハネが燃える石を指さしてアズ以外の2人にも分かるように説明し、早速近づく。


 早速つるはしを持ち上げ、燃える石が見えている個所に振り下ろす。

 だがその速度は遅く、当たった場所は弱々しい音を立てて少し削れるだけに終わった。


 エルザが苦笑している。

 アズはなんと言えば良いのか分からない様子だった。


「貸しなさい」

「……分かった」


 溜息を吐いたアレクシアがヨハネからつるはしを取り上げ、代わりにピッケルを渡す。


「私が掘りますから、それで仕分けしてくださいな」


 アレクシアはつるはしを肩に担ぐ。

 お嬢様然とした見た目だが、異様に似合っていた。


「せいっ」


 アレクシアの掛け声とともに、つるはしが岩を砕く。

 戦斧を振りなれているアレクシアのつるはし使いは様になっており、見る見るうちに燃える石を含んだ岩肌を削り取る。


 その削り取った岩から燃える石をピッケルで取り出す。


 燃える石の露天掘りで最も大変なのがアレクシアのやっている岩砕きだ。

 それが素晴らしいペースで行われているので、作業が進む。


「この辺で良いかしら」


 アレクシアは見えていた燃える石の部分をあらかた削り出した。

 燃える石を含んだ黒い岩がいくつも地面に転がっている。


 それをヨハネ達がピッケルで叩き、ただの岩と燃える石を手で分別する。


 大量に選別する場合は湿式の比重選別法……要は水の中に岩と混じった燃える石を砕いて入れて振動させると、より重い不要な岩が下に行き燃える石が上に来る方法をとる。


 とはいえ、4人がリュックに背負える量であればそんな事をしなくても済む。


 アレクシアは火を得意としている魔導士だが、水の属性もそれなりに扱えるのでやろうと思えば真似事は出来る。


 かつて燃える石を扱う際に、ヨハネが詳しい商人に相談して教えてもらった知識だった。


 これは燃える石を扱う上で割と重要な知識ではあるが、そもそもそれが出来るだけの量を掘るには燃える石の取れる鉱山が必要だ。


 つまりやれるならやってみろよ、というある種の自慢を聞かされた訳である。


 ヨハネはそんな事を思い出しながら無心でピッケルを叩く。


 アズもエルザもそれに倣うが、ペースはヨハネより早い。

 手先の器用さというよりも、やはり力の差だ。


「作業が早いな……」

「えと、はい」

「ご主人様が遅いだけですよー」

「冒険者をちょっと舐めてた」


 アズが残っている分を手伝い、大まかに作業が終了する。


「ありがとうな、アズ」

「いえ! この為の奴隷だと思いますし」

「よし、後はリュックに詰めて終わりだ」

「はい!」


 全員で詰め込み作業を行う。

 それほど時間はかからなかった。


 エルザが全員に浄化の奇跡をおこなう。

 燃える石を扱うと手も服も黒く汚れるが、浄化によって汚れが落ちる。


「ほんと、便利ですわねぇ」

「ふふ。恩寵は見て分かるものでなければならない、という理由で授けられましたからね」


 アレクシアが感心していると、エルザが解説した。

 そういうものですのね、とアレクシアが返す。


 ヨハネがまずリュックを背負う。

 ずしっとした重みだ。


 重さの軽減魔法が有り、祝福もあるのでその程度で済む。


「とりあえず戻ろう。もう一度来ても良いかもしれないな」

「なら、後は私達3人でやりますから馬車の手配でもしてくださいます?」

「それもそうだな。そうするか」


 4人はリュックを背負い、一度道具屋まで戻る。

 倉庫の余っている木箱に燃える石を詰め込む。


 それからヨハネは馬車の手配をし、奴隷3人は再び燃える石を取りに行った。




 太陽が傾く頃には奴隷達が戻ってくる。

 木箱4箱分の燃える石が集まった。

 道中の食料なども考えると、馬車に積むのはこの程度で十分だろう。


 依頼書を確認する。


 帝国に売りに行くには十分な量だった。

 燃える石の利益と依頼料でそれなりの儲けになる。


 馬車は明日の朝には店の前に用意される契約だ。


(自前で馬車があればな……)


 ヨハネは夕焼けを見ながらそう考える。

 レンタル料も馬鹿にならない。

 本業はあくまで道具屋で、契約した商人から仕入れてそれを売るのに馬車は基本的に不要だ。


 だが、店も軌道に乗り従業員に十分任せられるようになった。


 道具屋を増築する金はあるが、出来ればもう少し稼いでおきたい。

 そうすると馬車が欲しい、という事になる。


 アレクシアが声を掛ける。


「何をしてますの?」

「ん、アレクシアか。馬車が欲しいなって思ってな」

「なるほど。それなりの商人なら馬車の一つは持っているものですわね。とりあえず馬を飼う場所が先だと思いますけど」

「ああ、そうか。その問題もあった」


 ヨハネがそう言うとアレクシアは腰に手を当てる。


「お金に関しては頭が回るのに。それ以外は興味が無いのか、抜けているのか分かりませんわね。もし馬を飼うなら私が世話をしますわ。慣れてますもの」

「貴族様は馬を飼っているな確かに。その時は任せるよ」

「嫌味が効きませんわね……」


 彼は鼻で笑った。


「奴隷からの嫌味なんて銅貨1枚にもならんからな」

「はいはい、ご主人様。汗もかいたしお風呂に入らせてもらいますわ」

「好きにしろ。あ、そうだ」

「魔石に魔力を、ですわね。分かってますから」


 そう言ってアレクシアが風呂へ向かう。

 アズとエルザは先に入ったので、合流するか入れ違いになるだろう。


(アレクシアが出たら俺も入るか)


 重労働で悲鳴を上げる体を伸ばしつつ、ヨハネはそう決めた。




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