第98話 4人で採掘へ

 ヨハネが燃える石の事を3人に伝えると反応は様々だった。


「ご主人様、帝国にわざわざ売りに行くんですか?」

「ああ。この金額なら俺の店で売るよりも利率が良い」


 アズの言葉にヨハネが頷く。

 ヨハネは、アズが中々良い質問をしたなと感心していた。


「……この貴族名は。それにこの場所」


 アレクシアは書類を見ながら何度も同じことを確認している。

 燃える石の届ける先は、アレクシアの元領地だ。


 王国と国境を接している。


 確かに気になるかもしれないが、届けるだけだし問題は無いとヨハネは考えていた。


 エルザは特に問題はない様子だった。

 ヨハネに何か聞くでもなく、じっと佇んでいる。


「4人で集められるだけ集めて、それを納品するつもりだ。この程度なら問題にはならない」


 流石に事業として燃える石を輸出するなら王国の許可が必要だ。

 だが冒険者として売る分には容認されている。

 冒険者は便利屋の側面が強いからだ。


「とはいえ……もちろん使用用途は聞きますわよね?」

「うん? どういう意味だ?」

「冒険者まで使って集めているなら、それなりの量になる筈。ただの燃料なら構いませんけど。ちなみに我が家は、この国と事を構える前に燃える石を買い込みましたわ」


 その所為でより貧乏になりましたけど、とアレクシアは付け加えた。

 ヨハネはアレクシアの言葉に少しだけ考え込む。


「戦争物資、か。直接武器だのなんだの買えば目立つが、燃える石は燃料としても使えるからな」

「ええ。売るならその辺りを見極めませんと、今度は牢屋ではすみませんわよ」

「それは勘弁願いたいな。割と最悪だった。分かった。流石に貴族本人に聞くわけにはいかないが、多少事前調査してから売るとしよう」


 ヨハネの言葉にアレクシアは頷いた。


「帝国に行くのは構わないよな。どうせ何時かは行くことになる」

「奴隷に許可を取ってどうしますの」


 アレクシアは呆れるように腰に手をやり、片目をつぶる。

 気にしていないというポーズだ、とヨハネは判断した。


「俺は商人として、お前達は冒険者として入国すれば手間もあまりない。とりあえず売る分の燃える石を掘りに行く」

「ええ。でもそんな重労働できるかしら」

「お前が言うのか……」


 エルザが非力だと思っている人間はもう此処には居ない。

 見た目だけならそう見えるのはともかく。

 ヨハネは少しだけ呆れる。


「どういう意味ですかー?」

「祝福があれば楽に掘れる、って意味さ」

「そうですか。ふふ」


 エルザからの追及はそこで終わった。

 つるはしは大きなものは一つしかない。


 ヨハネがそれを持ち、他の3人は小さいピッケルを持つことになった。


 食事に関しては、家で作って持っていくのではなく屋台で買う。

 これは屋台への支援も兼ねたヨハネの考えだ。


 家で作れば安く済むのだが、屋台での商売人は道具屋の顧客でもある。

 細かいものや、燻製肉、火力の為に燃える石などを買っていってくれるのだ。


 領主の息子や銅像の所為で、屋台の店は今かなり厳しいと聞いている。


 アズ達を着替えさせ、ヨハネも外出用の服に着替える。


 一応ヨハネは護身用に短剣を装備した。

 尤も、3人に比べれば戦闘力は皆無に等しい。お守り程度にしかならない。


 アズは見えるかどうかを気にして動くスカートより、動きやすいハーフパンツの方が好みのようだ。

 スカートは家で着せればいいか、とヨハネは許可する。


 エルザは司祭服を。汚れても浄化の魔法がある。


 アレクシアはバトルドレスではあるが、露出が控えめのものにした。

 アレクシアの見た目もあり、露出が多いと目立ちすぎるのだ。


 後は燃える石を詰め込む為のリュックを背負う。

 重さを軽減する魔法が込められたリュックだ。

 4人分となるとそれなりの出費だが、仕方ない。


 店の在庫なので格安なのが救いだな、とヨハネは思う。




 早速4人は移動を開始する。


 広場では早速復興作業が行われていた。


 銅像が暴れまわり、滅茶苦茶になった広場を整備しなおしていた。

 道具屋もこの整備作業の影響で資材が売れている。


 屋台は賑わっていた頃に比べるとまだ少ないが、活気は戻ってきているようだ。


 ヨハネ達は屋台に寄ると、注文をする。

 焼いた羊の肉を黒パンに挟む定番の料理と芋を潰して揚げたものを4人分。


 飲み物はこれも定番のリンゴ酢に蜂蜜を混ぜて薄めたジュースだ。


 銀貨を払い、食べ物を受け取る。


 料理は熱々だ。


 折角なので行儀は少し悪いが、街の外に出てから歩きながら食べる事にした。

 食べるペースは各自違う。


 アズは小さな口を精一杯あけて黒パンを頬張っている。


「ほら」


 口の端にタレが付いていたので拭ってやる。

 アズは口の中のものを飲み込むと、ヨハネに礼を言った。


「ありがとうございます」

「ああ」


 しばらく歩き、目的地へと到着した。

 以前アズに預けた魔石が開けた大穴も見える。


 今回用があるのは燃える石が掘れる場所だ。

 大穴には用は無いのだが、少しだけ覗いてみる。


 断面がツルツルしており、恐らく一度溶けて固まったのだろう。


「……あの時は死ぬかと思いました。ご主人様、ありがとうございました」

「いいさ。あれが役に立ったならな」


 頭を下げるアズの肩をヨハネが叩く。


「ここで何かあったんですか?」

「火の魔法かしら? だとしたらどれだけの火力なのか想像も出来ませんわね」


 エルザやアレクシアも大穴を覗き込む。

 ヨハネは後ろからそれを見て、そう言えばあの時はアズ一人だったなと振り返る。


(思えば大分にぎやかになった)


 ヨハネとしては土地さえあれば食堂でも立てて、そこで更に奴隷を働かせたりもしたいのだが。


 そして谷底に降りて、燃える石を採取する事にした。


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