第84話 その目、何の目?
アズが買ってきた夕食を食べ、それぞれ思い思いの時間を過ごして4人は眠りに就く。
従業員たちは帰宅している。
暫く静かな時間が過ぎたが、ふとアズは目を覚ます。
喉が渇いていたので、そっと起きる。
エルザもアレクシアも深く眠っていた。
暗い部屋をゆっくりと歩く。
蝋燭に火をつけ、水差しのある場所に到着した。
コップに水を注ぎ、アズはそれをゆっくりと飲み干した。
冷たい水が喉が通る。
アズは息を吐く。
寝直そうと蝋燭を消して、自分のベッドに向かおうとすると、外から僅かに物音がする。
何かが歩いているような音がする。
こんな街中の深夜にこういう音がするだろうか?
アズは怪訝に思い、窓の方に向かう。
カーテンを左手でまくり、外を見る。
真っ暗な風景が映る。
街灯の明かりも消されており、ほとんど何も見えない。
音もいつの間にか聞こえなくなっていた。
気のせいだったのだろうか?
アズはそう判断し、窓から離れる瞬間、窓に青い目をした化け物の顔が見えた。
アズは心臓が跳ねるような驚きと共に一気に窓から距離をとり、腰に手をやる。
だが剣は装備していない。
暗い部屋の中で剣を探すのに少し手間取る。
剣を見つけて鞘に入れたまま左手に持ち、改めて窓の外を見ると何もいなかった。
音を立ててしまったのでエルザが起きたのだろう。
体を起こした。
「なに?」
こういう時、実はエルザは少しばかり機嫌が悪い。
普段が普段だけに、ギャップがある。
だがアズも怯んでいるどころではない。
「窓の外に何かいます」
「こんな夜中に?」
エルザは右手の指先に光を灯らせて部屋を照らした。
昼のように明るくなる。
明かりの魔法と違いこの光は移動できない。
使い勝手は悪いが、光量は明かりの魔法よりも強い。
2人が窓の外を見ると、何もない真っ暗な風景が映っていた。
「何も居ないわ」
「確かに何かいたんです」
エルザはアズの言葉を疑う訳ではないが、気配もない。
部屋が明るくなったのでアレクシアも起き出す。
「なんですの」
「何か窓の外に居たんですけど……でももう居ませんね」
アレクシアはあくびを右手で隠す。
「外ぉ? 真っ暗で何も見えないですわよ」
アレクシアが寝ぼけ眼で外を見る。
「アズちゃん。とりあえず剣は仕舞いましょうか」
「あ、そうですね」
アズは剣を元の位置に戻す。
結局その後物音一つない。
主人の許可なく外に勝手に出る訳にもいかず、深夜に主人を起こすのは躊躇われた。
外に実際に何かいれば躊躇なく行うが、今アズが改めて見ても何も居ない。
勘違いだったのだろうか、とアズは思い始めた。
「寝惚けてたんですよー」
エルザは早々にアズが何か見間違ったのだろうと判断して、ベッドに敷いてある毛布に潜り込む。
アレクシアは既に二度寝している。
エルザが生み出した光はゆっくりと消えていく。
部屋は再び暗闇に包まれる。
そこでアズはようやく気付いた。
虫の音も、動物の声も聞こえないことに。
不気味なほどの静寂の中で、アズはカーテンが再びかけられた窓を見る。
溜息を付いて、アズも再び眠りに就いた。
次の日の朝、朝食のパンにバターを塗っている時にアズは昨日の夜の出来事を主人に話す。
アズ自身も上手く話せなかったが、伝えておくべきだと思った。
オムレツを食べていた主人は手を止め、木のスプーンを置く。
食事時にする話ではなかっただろうか、とアズは話した後に後悔した。
怒られるのだろうかとアズが身構えていると、主人は1枚の紙を取り出す。
「今アズが言った事にも関係するが」
主人がそう前置きする。
紙に書かれた内容をざっと奴隷3人に説明した。
それは依頼だった。
依頼人は主人を含む、露店や小さい店を持つ商人の集まりである商議会だ。
内容は夕方から夜の見回りである。
依頼料は低い。ただしもし解決すれば相応の謝礼を出すとある。
「なんですの、これは?」
パンをちぎって、皿のソースを拭っていたアレクシアが主人に聞く。
「今街で少し事件が起きているみたいなんだ。街に紛れ込んだ動物が殺されている」
「動物、ですか」
「ああ。不気味がって店を閉める人も出始めていてな。噂も出回っていて街に来る商人も減っているらしい。警備隊はまともに取り合わないし、商人達で協力して冒険者を雇おうって話になったんだ。という訳でこの辺を見回ってくれ」
「なるほど。私達ならご主人様の懐は痛まない、と」
「そう言う事だ。まあ一応冒険者組合は通すがな」
主人の金が行って戻ってくるだけだ。手数料分が引かれて。
主人の手元にはもう1枚の紙がある。
「その紙も依頼ですか?」
「ああ、これは……今は関係ない」
そう言って主人が紙を仕舞う。
「今日から早速やってくれ。夜に出回る事になるから昼は寝ていても良い」
「寝て良いと言われましても、難しいですわ」
「まあまあ。浄化で眠気も飛ばせますから」
「頑張ります」
夜に起きるのは野盗を襲撃する時だけで十分ですわ、とアレクシアが付け加える。
エルザは可もなく不可もなく。
今回もやる気があるのはアズだけだが、いざとなれば大丈夫だろうと主人は判断した。
「何かあったらこれを使うように」
主人は赤い棒をアズに渡した。
「これ、なんですか?」
「先のひもを引っ張ると音と光が出る。先から光が出るからそれを上に向けろ。他所で見えたら集合の合図だ」
「分かりました」
アズは棒を受け取ると、道具入れにしまう。
その日の夕方、早速3人で見回りを始めた。
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