第83話 街の活気
死体を野晒しにするのは流石に気が引けた為、アレクシアの魔法で火葬する事にした。
それも済ませ、離れた場所で夜を明かして再び一行は帰路につく。
トラブルらしいトラブルもなく帝国領を通過し、王国領に戻る。
ようやく長旅を終えて主人が住み慣れた街に到着した。
だが、少し様子がおかしい。
街を出入りする馬車の数が少ない。
元々それほど多い訳ではないのだが、立地的に立ち寄る馬車が絶えることはなかった。
しかし今、昼前にもかかわらず街の外には僅かしか馬車が居ない。
順番待ちすることなく手続きをすぐに終えて街に入る。
中はそれほど変化は無いように見えた。
長旅とはいえ何年も居なかったわけではないのだ。大きな変化が起きるとは考えにくい。
馬車を返却する。無事に返せたので追加料金は無い。
宝石類は知り合いの宝石商人のもとに持っていく。
道具屋で売るのは客層的に合わない。
ノウハウもないので、そのまま横流しだ。
それでも十分すぎる利益になる。
ひたすらスパルティアと他の国を往復する行商人の気持ちが分かった。
袋にぎっちりと詰められた金貨。
エレメンタルの結晶の売却と交易の結果だ。
主人は一先ずその重みに満足した。
フィンに少しばかり持っていかれてしまったが、それでも金貨100枚以上は稼げている。
宝石を処分して店に戻る。
従業員がちょうど商品を補充していたので、問題は無かったか聞く。
「特にはなにも。ただ少しお客さんが減りましたね」
「そうか……」
「あとは例の銅像がそろそろ完成するみたいです」
「それは嫌な話だ」
領主の息子の所為で、牢屋にぶち込まれた経験が主人の頭の中に蘇る。
その後に金も巻き上げられた。
そのまま従業員に店を任せて、奥の住居スペースに入る。
奴隷達は裏からだ。埃を落としてから家に入らせる。
そして主人の部屋で一度集まった。
主人は服を着替えている。
奴隷達はいつも通り床に座らせおく。
この光景も久しい。
「とりあえず服の洗濯や武器の手入れなんかをしておけ」
「はい。それが終わったらどうすればいいですか?」
アズが主人に尋ねる。
以前は許可なく喋る事は罰していたが、長旅で多少お互いの理解も深まったと主人は思う。
それに自発性を摘むのも問題だ。
言う事を聞くだけの奴隷はいつでも買える。
わざわざこの3人をそうする必要もない。
死んだ目で働かれるのもちょっと嫌だった。
主人は少しだけ考えた後に口を開く。
「今は特に仕事が無い。そうだ、エルザの司祭服でも買ってきたらどうだ」
以前修道服から司祭服にした方が良いと主人も思っていたところだ。
冒険者の司祭が多いからか、普通の服屋でも売っている。
「俺はしばらく溜まった仕事をやる。これだけあれば足りるだろう」
そう言って主人は金貨を小さな袋に移してアズに渡した。
アズはそれを両手で受け取る。その重みに緊張しながら。
「後でエルザさんと行ってきます」
「アズちゃんよろしくねー」
エルザは司祭服には特に抵抗はない様だ。
「私は終わったら休ませてもらいますわ。構いませんわよね」
「好きにしろ。アズ、夕飯も買ってきてくれ」
「はい」
奴隷達は主人の部屋から出て移動する。
主人は机に積まれた仕事にとりかかった。
アズ達はまず服を着替えてそれを洗濯する。
裏庭に服を干して、武器の手入れを行った。
アレクシアは宣言通り部屋に戻る。
それを見届けて、アズとエルザは中央の店通りに行く。
「人が少ないね」
「そう……ですね」
エルザの声にアズが周りを改めて見る。
店通りはこの街で一番人が集まる場所だ。
それなのに人が疎らにしかいない。
何時もはもっと活気がある。
開けていない店もいくつかあった。
目的の服屋は幸い開いていた。
冒険者向けの店だ。
エルザに合う司祭服と、中に着れる鎖帷子を買い込む。
買い終わった後、エルザが店の人と少し話している。
店の人間も一見客とはいえ、買った客の話は相手をするようだ。
話も終わり店を出る。エルザは店の中で着替えており、司祭服を着こなしていた。
司祭服は黒や紺色の修道服とは違い、白と赤が基調になっていて少し派手だ。
動きやすいようにスカートの両脇にスリットが入っている。
聖職者らしくあまりスリットは深くないのだが、奇麗な足が少し見えた。
「良く似合ってます」
「アズちゃんありがとう」
エルザの容姿も相まって、アズが言った通り良く似合っていた。
「何を話していたんですか?」
「居なかった間の景気とかー、治安とかだね」
「私はそこまで気が回らなかったです」
「あははは。司祭は問題を見つけたり人を観察するのも仕事だから」
教会は他人の悩みが飯の種、などと言われる事もある。
観察眼が養われるのよ、とエルザは付け加えた。
「治安が良くないみたいね。夜に通り魔が出るって。最初は小さな動物が殺されていたみたいだけど……」
つい最近は人間も被害にあった、と服屋の主は溜息を付きながら言ったそうだ。
事件は夜に起きているとはいえ、店を閉めていたり人が少ないのはその影響のようだ。
「あの、こういう時は警備隊の人とかが見回りしたりしないんでしょうか」
「普通はするわよー。だってそうしないと、今みたいにみんな不安がって出歩かなくなるし」
主人がもしこの場に居てこれを聞けば、街の経済活動が鈍ると言うだろう。
警備隊の姿は主人の店からこれまで一度も見ていない。
警備隊の詰所に人は居るのだが、酒瓶を置いてなにやら娯楽で遊んでいた。
「規律も何もないわね」
流石にエルザも呆れていた。
街の人間は詰め所を見てひそひそと話しており、町全体に嫌な空気が流れているのがアズにも分かる。
他人の悪意にはアズは敏感だ。
「早く帰りましょう」
アズはこんな場所よりも主人の家に早く戻りたかった。
夕食は肉団子のスープとパンを4人分。
エルザが服とパンを持ち、アズがスープを持った。
事前に手提げの袋を持ってきていたので問題ない。
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