第74話 1回戦、終了
水に濡れたアレクシアに雷の魔法をぶつけ、感電させて倒すというヤーファンの目論見は外れた。
雷の魔法はアレクシアの火の魔法に阻害される。
それどころか、アレクシアは自らの身体を火の魔法を応用して乾かせた。
「これは……しまったな」
自動魔法を使うために本を手に取ろうにも、ヤーファンの位置からでは遠い。
アレクシアに背を向けるのは余りにも危険だ。
そもそも、アレクシアの戦斧をどうにかしなければならない。
鉄の杖でなんとか持ちこたえている状態では、魔法の詠唱もままならなかった。
なんとか戦斧を弾いて距離をとろうとするも、それを許すアレクシアではない。
アレクシアが戦斧を振るう度にヤーファンは後退を余儀なくされ、ついに場外一歩手前まで追い詰められた。
アレクシアは戦斧でヤーファンを突く。
ヤーファンはそのまま場外へと弾き飛ばされ、決着が付いた。
「第5試合、勝者。アレクシア!」
勝利したアレクシアの名前が審判より読まれ、勝利が確定する。
アレクシアは戦斧を掲げ、そのまま退場する。
ヤーファンは場内の本を回収し、やれやれ、と言いながら服の汚れを払い退場した。
第6試合
迷宮探索家メライア対武道家シュセイの試合が始まる。
試合開始と共に年老いたシュセイは、懐からヒョウタンを取り出し、口を開けて中身を飲み始める。
強烈な酒の匂いがメライアの鼻に届く。
メライアが呆れながら剣を持って攻撃するが、シュセイはそれを回避しながら飲み続ける。
ヒョウタンが空になった瞬間、シュセイはそれを投げ捨て、ゆらゆらと揺れながら構えた。
そこからは一方的だった。
メライアの攻撃はシュセイの動きを捕らえられず、その度にシュセイの反撃を受けた。
シュセイの一撃は老人とは思えぬ威力でメライアを苦しめ、最後には足を踏まれてからの連撃でメライアは気を失ってしまった。
第6試合は迷宮をひたすら潜る男、メライアの敗北が確定しシュセイが勝ちあがる。
続いて第7試合。
スパルティアの戦士タンクトン対重戦士オーグ。
くしくも、盾使い同士の戦いとなった。
スパルティアの戦士よりも更に大きな盾を持つオーグは、自信満々で盾を構えた。
その動きは装備と重い盾により鈍重ではあるが、同時に力強さを感じさせる。
タンクトンは槍を仕舞い、両手で盾を構える。
そしてオーグの方へ歩いた。
その動きは大きな盾を持っているとは思えないほど自然な足取りだ。
盾を構えるオーグの前まで来ると、タンクトンも盾を構え、そして一気にオーグへと盾ごと突撃した。
スパルティアの戦士が最初に習う技は、シールドチャージである。
これが弱ければ、誉ある戦列の、最も前の列に行くことはできない。
つまり、スパルティアの戦士のシールドチャージは非常に洗練され、強力である。
オーグは自らの防御に自信を持っていた。
軽量化の魔法を施してなお、オーグの動きを鈍重にさせる金属の盾を構え、スパルティアの戦士を押し返さんとする。
しかし、シールドチャージを受けた瞬間、踏ん張っていたオーグの身体が一瞬浮いた。
そして足が浮けばシールドチャージによる吹き飛ばしを防ぐことはできない。
オーグは大きく後ろへと飛ばされる。
盾を構えるが、すぐそこにタンクトンが盾を持って構えている。
そして再びシールドチャージによる突撃。
ただひたすらそれが繰り返され、オーグはその度に顔を青くさせていた。
場外手前まで来ると、タンクトンはシールドチャージではなく、ただ盾を前にして進んできた。
オーグの盾と触れる。
オーグが力を込めて押し返そうとするも、タンクトンはビクともしない。
盾を扱う技量と、足腰の強さに開きがある。
オーグはそのまま場外に落ち、しばらく立ち上がれなかった。
「第7試合勝者、タンクトン!」
タンクトンは仕舞った槍を取り出し、大きく天を突く。
そしてオーグに手を差し伸べ、立たせた後2人で退場していった。
そして第8試合。
1回戦最後の試合はダーズ・アラーニー対狩猟家ラグン。
審判の開始の合図とともにラグンが動いた。
動物の毛皮を頭から被るラグンは、手に取り付けた鉄爪で猛烈な連撃をダーズに向ける。
だが、それらは全て分厚い盾に阻まれた。
盾の表面に傷をつけるだけでラグンの攻撃は終わる。
一気に決着をつけようとしたのか、ラグンは肩で息をするほど一気に疲労した。
ダーズは右手に剣を構え、そのままラグンを頭から斬りつける。
ラグンは鉄爪で受けようとしたが、受け止めきれずに剣が体に当たって姿が消えた。
あっさりと決着が付く。
1回戦が終了する。
そしてトーナメント表が更新された。
2回戦、3回戦は後日行われる事が審判の口から発表され、オセロット・コロシアムの初日が終了する。
主人はアズとエルザを連れてアレクシアを迎えに行き、闘技場から出る。
闘技場の端でフィンの後ろ姿が見える。
フィンの髪は黒い。それも漆黒の様に。
衣装も特徴的なので直ぐに分かった。
どうやら商人と何かを話している様だが、あまり良い話ではなさそうだった。
すぐに商人が去り、姿が見えなくなった辺りでフィンが闘技場の壁を蹴る。
どうやらイラついているようだった。
見られていることに気付いたのか、こちらを見る。
その目は、なんとしても金を欲しがる人間の目だ、と主人は思った。
そのままフィンは居なくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます