第72話 1回戦前半の模様

 フィンが一定の距離まで近づけば、矢が距離を無視して直接飛んでくる。

 来ると分かっていれば、フィンの技量であれば防ぐことは可能だ。


 だが問題は、さらに踏み込めば体内に直接矢が送り込まれる可能性があることだった。

 防ぎようがない。


 フィンはダガーを腰にしまい、歩きながら少しばかり思案する。


(便利な技だねー。でもさぁ、随分制約も多そうだねぇ)


 最大射程を見極めたフィンは、少し下がると自らのスカートをまくり上げる。

 かなりきわどい高さまでまくり上げると、白い太ももが露わになると共に、太ももに縛り付けたいくつものベルトが見える。


 フィンはそこから投げナイフを取り出す。

 スカートを戻すと、ワザとらしく体をくねらせた。


「お兄さんえっちー。なーんてね」


 取り出したナイフは8本。


 両手に装備できる最大数だ。


 まず2本をナクルズに投げる。

 目と喉に向かって放たれた投げナイフをナクルズは、避けずにわざわざ矢を放ってそれを迎撃した。

 1本の矢で2本の投げナイフを弾く技量は見事だった。


 フィンは続けて、もう2本をナクルズの足に向かって投げると同時に、一気にナクルズに向かって走った。


 矢で弾かれるたびに投げナイフを打ち込む。

 ナクルズはフィンの意図を察したが、しかし移動しない。


 フィンは推測が当たっていることを確信し、唇を舐めた。


 最後の2本を投げ終わり、フィンはダガーを再び両手に装備した。


 ナクルズはその2本の投げナイフを矢で弾き、急いで次の矢を番えた。

 しかし、弓をフィンに向けた瞬間フィンの姿が消える。


 何処にいるか分からなければ、いくら矢を転移させても当たらない。


 ナクルズは咄嗟に後ろを向いた。


「残念でした」


 だが、フィンの声はナクルズの背中から聞こえる。

 ナクルズは咄嗟に矢を放ち、自らの背中の近くに撃つ。


 だが矢は空を切った。

 既にフィンは跳躍し、ナクルズの肩に載っていた。


 二つのダガーの刃はナクルズの首に当てられている。


「お粗末な技だね。使用中は移動できないし、射程も大したことない。矢も一本ずつしか撃てない。頭の足りない魔物とか獣でも狩ってた方が良いよ?」


 フィンはナクルズの技の謎をわざわざ聞こえる様に説明する。

 ナクルズが振り返ろうとした。


「手間かけさせやがって」


 ナクルズにだけ聞こえる様に小さく呟く。

 そしてダガーを引いた。

 その瞬間ナクルズの姿が消え、フィンだけが舞台に残る。


「本選第2試合。勝者、フィン!」


 審判の声が舞台に響く。勝者が確定した。


 フィンはダガーに僅かについた血を振って、舞台に落とす。

 そして腰にしまい、観客席に向かって大きく手を振った。


 投げナイフをささっと回収する事も忘れない。

 暗殺者の懐は温かい訳ではなかった。


 最後にスカートの両端を持ち上げ、そのまま観客に一礼して居なくなる。




 そして第3試合。


 アレクシアと共に予選を勝ち上がった踊り子ダリアと、普通に戦い普通に予選を勝ち上がった戦士、フッツーの戦いが始まった。


 ダリアの格好は酷く扇情的だ。

 まるで下着のような露出した衣服に、着ている意味があるのか分からない透けた布を上下に纏っている。


 場所が場所なら娼婦にしか見えない。

 いや、娼婦でも余りこんな格好はしないだろう。


 両手や足、首に金や宝石をあしらった装飾品を装備する事で見たものを楽しませる。


 フッツーが試合開始と共に、両手の手斧をダリアに投げようとした瞬間。

 ダリアの魅惑のダンスに魅了され、そのまま棄権してしまった。


 あまりにあっけない結果に観客のブーイングが炸裂したので、ダリアは自らのダンスを披露する。


 審判は程よい所で止め、第3試合の結果が確定する。


 そして第4試合。

 入場したのはスパルティアの戦士、オビアスとフッツーと共に予選を勝ち上がった魔剣士ベターズ。

 ベターズは予選で辛勝とはいえ、別のスパルティアの戦士に勝利した戦士だ。


 審判の合図で戦いが始まる。


 ベターズは予選で勝利した時と同じく、まず遠距離から魔法でダメージを稼ごうとした。

 スパルティアの戦士の遠距離攻撃は、驚異的な腕力による槍投げ位のものだ。


 それ自体は脅威だが、当然ながら一度のみ。

 予備の槍があろうと、二度で終わりだ。


 大きく距離をとり、水の魔法をスパルティアの戦士に向かって放とうとしたベーターズの視界に映ったのは、回転する巨大な盾であった。


 咄嗟に剣で回転する盾を弾く。

 だがその衝撃で剣が場外に吹き飛んだ。


 回転する盾は綺麗にオビアスの手元に戻る。


「曲芸だと、良く怒られたよ」


 よく見ればオビアスの盾は他の戦士のものより少しばかり小さい。


「苦労したんだ。スパルティアの戦士が使う盾としても、こうして投げられる盾としても使えるように調整するのは」


 そう言って右腕に持った盾を大きく振りかぶり、回転させて投げる。


 ベターズは水の魔法をひたすら撃ち込むが、回転する盾が全て撃ち払ってしまった。


「そんなの有りかよ」


 そのまま盾はベターズの顔面に迫る。

 ベターズはなんとか盾をキャッチしようとするが、回転に手が弾かれてそのまま衝突した。


 そしてベターズの姿が消える。

 オビアスの勝利だった。


 1回戦の前半が終了する。



 朝から開始されたオセロット・コロシアム本選は一旦休憩が挟まれ、昼から後半が再開されることになった。

 主人の元にアズが合流する。3人のうち1回戦が残っているのはアレクシアのみだ。

 エルザはいつの間にか合流していた。シード枠なので2回戦までは暇らしい。


 主人が買った大きな器に入った芋の揚げ物を、3人で昼代わりに摘まむ。


 アズは1回戦を見事に勝ったご褒美で、綿菓子を片手に持っている。

 それで済まそうとしたところエルザに睨まれたので、正式なご褒美は王国に戻ってからになった。


 暫くのち、昼が過ぎ1回戦が再開される。

 後半戦。


 ようやくアレクシアの出番が来た。

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