第64話 アレクシア対スパルティアの戦士
兵士たちが非番に集まり、酒を手に話をするとよく議題に上がる話題がある。
どの国の軍隊が一番強いのか、と。
そして決まってスパルティアが挙げられる。
その後に必ずと言っていいほど付け加えられるのが、スパルティアの戦士は盾が無ければ強いのか? 弱いのか? という話だ。
もし、兵士たちの中にスパルティアの戦士と戦ったことがあるものが居れば、こういうだろう。
彼等の強さは盾の有無ではない、と。
アレクシアと相対したスパルティアの戦士は盾を捨て、槍を構えてアレクシアに向ける。
アレクシアは戦斧を両手で持ち、スパルティアの戦士の様子を窺う。
戦斧の炎は猛り続けている。
魔力は十分だ。
お互いの距離は少し離れている。
攻撃を加えるには、近づかなければならない。
ジリジリとアレクシアは距離を詰める。
あと一歩でアレクシアの間合いというところで、スパルティアの戦士が槍を繰り出した。
点の攻撃。それも、ほぼ予備動作のない鋭い突きだ。
槍はアレクシアの頭を目がけて迫りくる。
目で追う事はほぼ不可能だった。
アレクシアはそれを頭を動かすことで回避する。
槍の間合いが近い事は把握していた。
事前に想定していたからこそ回避できた。
槍の矛先はアレクシアの頬を僅かに斬りつけ、そして槍は戦士の元へ一気に引き戻された。
それに合わせてアレクシアは戦斧を振る。
スパルティアの戦士はそれを後ろに下がる事で回避する。
アレクシアは戦斧を引き起こし、もう一度振る。
それを、スパルティアの戦士は槍の腹で受けた。
戦斧の熱と纏う火がスパルティアの戦士を焼く。
だが、スパルティアの戦士がそれで怯む様子はない。
火が全身に回る前に、スパルティアの戦士の筋肉が軋み、その力でアレクシアは押し返された。
アレクシアは、何度かステップを踏んで体勢を立て直す。
そのアレクシアに向け、再び槍が繰り出された。
アレクシアは咄嗟に戦斧の先を頭の前に構える。
鋭い衝撃を堪えた。
何とか防ぐことが出来た。
再び距離が開く。
アレクシアは手袋をつけた右手で頬の血を拭う。
(ちょっと隙が出来たら槍が来るわね。厄介だわ)
アレクシアは、冷汗が流れるのを自覚しながらそう思う。
盾を捨てたスパルティアの戦士は、高い防御力を失う代わりに必殺の一撃がすぐさま飛んでくる。
槍を持たせたままではいずれ負ける。
そう判断したアレクシアは、戦斧を前に傾ける。
戦斧の全長は、スパルティアの槍よりも長い。
有効射程という意味では槍より短いが、問題ない。
構えを変えたアレクシアをスパルティアの戦士はやや警戒したが、脅威ではないと判断したのか距離を詰め始めた。
そして再び槍を突く。
鋭い突きはアレクシアの上半身を狙っていた。
回避しても十分なダメージを与えられるように。
アレクシアは咄嗟に右へのステップで回避したが、今度は左肩を斬りつけられた。
幸い今度も浅いが、少しでもズレれば深手になっていただろう。
槍を扱う戦士を相手にすれば、一撃必殺を常に狙われながら、こうしてダメージが蓄積する。
アレクシアは、戦斧の先端にある斧の刃と柄の隙間に槍を挟む。
そしてそのまま巻き上げた。
スパルティアの戦士は、本来その程度で自らの武器を放したりはしない。
槍を持つ手が片手であっても、鍛え抜かれた膂力で防ぐ。
しかし、アレクシアの魔法により巻き上げと同時に火が迫る。
槍を持ったままでは手が火に焼かれ、そのまま全身に火が回る。
スパルティアの戦士は槍を手放した。
槍が天高く舞い、場外に落下する。
観客席が沸いた。スパルティアの戦士が敵の攻撃により武器を手放すなど、そう見れる光景ではない。
「こういう戦い方をする魔導士とは、初めて会った」
「そう? 私の家では普通だったわ」
スパルティアの戦士が剣を抜きながらそう言うのを、アレクシアは軽口で返した。
同じ手は通用しないだろう。
剣があるから槍を手放しただけ。
次に同じことをしようとすれば、恐らく火に巻かれながらアレクシアを倒しに来る。
アレクシアはそんな予感を感じた。
帝国貴族だった頃、アレクシアは帝国内でもかなり強い方だった。
魔物狩りを生業とし、常に戦う技術を磨いた。
帝国の中枢にいる、化け物のような騎士達に比べれば劣ってはいたものの、同年代では模擬戦を含め負けなしだ。
魔力も持ち合わせていたので、戦いと相性のいい火の魔法を中心に習い修めた。
そのアレクシアと互角以上に戦う目の前の戦士は、これでただの兵の一人なのだ。
この国が大陸最強と言われるのも無理はない。
戦斧と剣では先ほどと違い、アレクシアに大きくリーチの分がある。
剣の方が小回りが利くが、火の魔法を纏い、熱された戦斧は当たれば確実に勝敗が決まる。
この状況はアレクシアに有利だ。
そう思った瞬間、スパルティアの戦士はゆっくりと移動する。
アレクシアは、戦斧の先をスパルティアの戦士に向けながらそれを追う。
そしてスパルティアの戦士の動きが止まった。
彼の足元には、手放した盾が転がっている。
今更盾を持っても、槍が無ければ怖くない。距離をとりつつ盾は燃やせば良いだけだ。
そう思っていたアレクシアは、スパルティアの戦士の次の行動に目を見開いた。
スパルティアの戦士は、アレクシアのいる場所に向かって盾を蹴り抜いた。
巨大な盾がアレクシアに迫る。
「そんなのありですの!?」
アレクシアは叫びながら戦斧を構える。
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