第63話 第1組予選終了。第2組予選開始。

 アズの前に2人。スパルティアの戦士の前に1人。異国の戦士の前に2人。

 それぞれの敵ではない。


 目の前の敵を倒せば、当然ながら舞台の場内に残るのは3人だ。


 奇しくも三つ巴の形になる。

 そして3人の中で最も弱いのはアズだ。


 ごく自然に、スパルティアの戦士と異国の戦士の視線がアズに向いた。

 まずは、こいつから。という視線を感じたアズは先に動いた。


 防御の硬いスパルティアの戦士ではなく、異国の戦士に剣を向けて紫電一閃の一撃。


 最初はキヨかと思ったが、キヨならば既にアズは斬られて退場している。


 恐らくキヨと同郷の戦士なのだろう。


「中々良い」


 異国の戦士は鞘に刀を収めたまま、アズの判断と攻撃をそう評した。

 そしてアズの剣が異国の戦士に届く寸前、居合にて迎撃する。


 アズの剣は完全に弾かれ、アズは居合の衝撃を殺しきれずに両手が剣につられて上へと持ち上がる。


 完全に隙だらけだ。


「あ」


 異国の戦士は再び刀を鞘に納め、柄を握っている。

 もはや誰でもわかる。

 アズは次の瞬間、斬られると。


「もう2.3年後に会ってみたかった」


 アズの体勢が戻る前に、鞘から刀が抜かれる瞬間。

 巨大な盾が異国の戦士を襲った。


 これは一対一の戦いではない。

 スパルティアの戦士が、隙を晒した者を見逃すはずもなく。


 アズの首に標的を定めていた異国の戦士は、咄嗟にスパルティアの戦士に標的を切り替えるが、その一瞬は長すぎた。


 刀は盾に阻まれ、そのまま盾は異国の戦士を吹き飛ばす。

 そのまま場外に飛ばされるかと思いきや、異国の戦士は足の力だけで堪えた。


 異国の戦士の見た目は細いものの、肉体は鍛え抜かれている。

 彼は口の血を吐き捨て、唇の血を拭う。


 ダメージは小さくない。


 この場で最も弱い者がアズから異国の戦士に変わった。


 アズとスパルティアの戦士は同時に異国の戦士に仕掛ける。

 異国の戦士は居合にてアズの首を狙ってくるが、アズはそれを予測し跳んで回避した。

 狙うならアズしかないと瞬時に思ったからだ。


 跳びながら剣を構え、反撃する。


「これは、少女かと思うたが。カラス天狗の類であったか」


 異国の戦士は空ぶった刀を引き戻すが、その前にスパルティアの戦士の盾とアズの剣に挟まれる。


 そして異国の戦士の姿が消える。

 致命傷と判断されて転移されてしまったようだ。


 アズは着地した瞬間、剣をスパルティアの戦士に向けた。

 しかしスパルティアの戦士にもう戦意はない。


 アズは剣を構えながら疑問に思うが、一向に構えない相手を見てようやく気付いた。


 当然だ。この場に残っているのは2人。

 審判により戦いは中断される。

 この組における予選は終了した。


 観客からは盛大な拍手と歓声が、見事に予選を突破した2人へ注がれる。

 アズは観客の方へ何度も頭を下げた。


「君が残るとはな」

「私も驚きました」


 舞台から降りるとき、スパルティアの戦士がそう呟いた。

 アズは正直な気持ちを返す。


 スパルティアの戦士がそう思う気持ちは分かる。


 異国の戦士との一対一ではアズは確実に負けていた。

 上手く三つ巴の状況を利用して勝ちを拾ったに過ぎない。


 しかし、勝ちは勝ちだとアズは思った。

 負けるよりはずっといい。


 アズは予選を突破した。




 そして第2組。

 アレクシアが舞台に上がる。


 その美しさとバトルドレスという格好に、観客の視線が寄せられた。

 アレクシアは照れることもなく、堂々としている。


 それは元貴族だからか、あるいは本人の性格か。


 戦斧を高く掲げると、観客からの拍手が贈られた。

 この組の中で目立っているのは間違いなくアレクシアだ。


 他にはスパルティアの戦士と数人の有望な選手がいる。


 予選が開始されると、真っ先に狙われたのはアレクシアだ。

 これだけ目立てば標的にもなる。


 アレクシアは戦斧に火を纏わせる。

 それも、戦斧が紅く染まるほどに。


 そして、それを豪快に振り回した。


 普段は魔導士として後衛に徹していることが多いが、そもそもアレクシアは貴族であり騎士だった。

 むしろこうした乱戦の方が得意としている。


 紅く染まる戦斧は火の魔法を振りまきながら、アレクシアに襲い掛かる選手を薙ぎ払う。


 中には大柄の選手が大剣でアレクシアの戦斧を受け止めるが、大剣が火の魔法で加熱されていき、柄も熱を持ちしまいに握れなくなる。


 剣を放せば、待ち受けるのは戦斧による追撃だ。


 そうしてアレクシアだけで7人ほど倒してしまった。


 舞台に残っているのはアレクシアとスパルティアの戦士。そして全身を黒い鎧に包んだ騎士と、可愛らしい少女の4人だ。


 アレクシアはスパルティアの戦士と向き合う。

 スパルティアの戦士は、大きな盾に槍の矛先を叩きつけて音を鳴らす。


 戦いの前の儀式のようなものだとアレクシアは思った。

 高揚の為にやるのだろう。


 スパルティアの戦士はみな屈強ではあるのだが、アレクシアからすればそこそこの戦士程度ならば脅威に感じない。


 ダーズ程になれば文字通り格が違うのだが、目の前のスパルティアの戦士はそこまでではない。


 そしてアレクシアの戦い方は、スパルティアの戦士に対して非常に相性がいい。

 スパルティアの戦士が扱う盾は分厚い木を加工したものである。


 しなやかで弾力性があり、縁には金属による加工が施された盾は矢を防ぎ、剣を防ぎ、斧も防ぐ。表面が傷ついても、そう簡単には壊れない。


 金属盾とは違い、巨大な盾でも軽量化の魔法が抜きで十分持ち運べる。


 しかし、火には弱い。火以外の魔法は弾くことが出来ても火は盾に燃え移るからだ。


 燃え盛る戦斧を前に、スパルティアの戦士は盾を捨て槍を構えた。


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