第55話 スパルティアに到着
洞窟から出発し、しばらく馬車を走らせると街並みとそれを囲う壁が見えてきた。
スパルティアにようやく到着したのだ。
近い事は分かっていたが、無事に到着出来たことに主人はホッとした。
スパルティアの入口の門には左右に一人ずつ門番が控えていた。
中に入る人数の申告と馬車の荷物の検品を済ませ、スパルティアに来た目的を伝えてる。
そして問題がない事を確認すると、門番の一人が門の上に控えている戦士へ合図する。
すると門の内側の閂が外され、巨大な音を立てて門が開かれる。
屈強な戦士が数人がかりで門を開くさまは圧巻だった。
これだけ強固な門ならば、魔物が来ても中の人達は安心だろう。
魔窟により世界で最も危険が近く、しかし世界で最も安全な国とはよく言ったものだ。
馬車をゆっくりと走らせて中に入ると、再び門が閉められていく。
中の町並みは、凄まじい武勇を誇る国とは思えないほどの美しさだった。
建物は見ることを意識された建築様式で、中央の噴水の中心には戦と富の神バルバロイの銅像が据えられている。
バルバロイの銅像は静かに街を見守っているようだ。
アズと主人が感心しながら馬車から乗り出して眺める。
スパルティアの王城を主人が指さすと、アズが目を輝かせている。
「ちょっと、もう恥ずかしいから止めなさい。アズはともかく貴方まで!」
危ないからとアレクシアが二人を中へひっこめた。
馬車の御者をしているエルザはその様子を見て微笑んでいる。
まずは馬車を預けられる宿を探す。宿のある場所はまとまっているようで、すぐに見つけることが出来た。
馬車を預け、中身を下ろす。
台車は宿の人間が貸してくれた。
スパルティアの商人との取引の約束はまだ日があるのだが、前倒しは問題ない。
持ってきた交易品も手早く現金に換えてしまいたい。
流石にこの国に伝手はない。持ってきた交易品をアズ達に移動させる。
大きめの商店に目途をつけ、中に入り商談を持ちかける。
アズ達も中に入れて主人の後ろで待機させた。
主人は椅子に座り、商店の主と話す。
スパルティアは噂通り交易が活発なため商店の主も随分と慣れているようだ。
持ってきた交易品の大半をこの店で処分することが出来た。
値段も予定したより高く買い取ってくれた。
香辛料は魔物を含めた肉の加工が多いスパルティアでは予想通り高い需要があり、絹などもこの辺りで手に入るものとは違う手触りらしく喜ばれた。
そして意外なのは、予備のリンゴ酢を是非売ってくれと言われたことだ。
スパルティアにはリンゴがあまり流通してないらしく、リンゴの加工品は今人気があるとのことだった。
何本か売ることにし、これだけで中々いい儲けになった。
だが本番はこれからだ。
向こうも分かってるのか、言わずとも宝石類の取引を持ち掛けてきた。
ちなみに偽物をつかまされる心配はない。
宝石類の取引はスパルティアとしても大切な外貨獲得の手段だ。
国としても相場の維持の為に制限はしているが、取引そのものは奨励している。
つまり宝石類の偽物を売る詐欺行為はスパルティアという国にケンカを売る事だ。
スパルティアの商人がそんな事をするわけがない。
スパルティアの王、グレイス王の武勇と威光を誰よりも知っているのだから。
それに宝石類は偽物を用意しなくても品質の良いものがいくらでも安く手に入るのだ。
危険を冒して偽物を用意する意味が無い。
王国では今真珠を使ったアクセサリーの人気が高い。
それにやはりルビーやサファイヤは安定した人気だ。
他の店で買っても値段はほぼ変わらないと聞いてこの店で宝石の制限分すべてを買い込む。
オマケとして金の髪飾りをつけて貰った。
金は制限に入らないらしい。とはいっても金は余り王国と値段が変わらないので仕入れることはない。
一つか。
俺は金の髪飾りを持ったまま商店を出る。
台車はそのまま宿に返してくれるらしい。
随分と気が利く。
丁稚の少年が俺達に挨拶した後台車を持っていった。
動きも良いし、よく働く印象の少年だ。
将来良い商人になるだろう。
主人は少年を眺めながらそんな事を思った。
彼も小さいときは父親の手伝いで走り回ったものだ。
呆気なく父親は他界して、若くして引き継ぐことになってしまったが、なんとかやっている。
哀愁を感じそうになり、主人は思考を切り替える。
宝石類は肌身離さず持っておけばいいだろう。
この国で宝石類を盗む人間は居ない。
売り手は居ても買い手はいないからだ。
魔物から採れた宝石類を国が商人に直接売る事で流通をコントロールしている。
残っているのはエレメンタルの結晶だけ。
生憎と訪ねてみたが王城に呼ばれていて取引相手は居なかった。
流石に預けて済ませるほど安いものではないので、日を改めることにする。
アズ達のオセロット・コロシアムへの出場の手配もある。
主人たちがのんびり観光するのはまだ難しそうだった。
主人は金の髪飾りを見る。アズの銀の髪に良く似合いそうだったので、つけてやった。
アズは驚いて少しだけ固まった後、震える声で主人にお礼を言った。
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