第47話 湖で水浴びしよう

 スパルティアに向けての四人の旅路は順調に進んでいった。

 数日かけて関所を抜け、王国領から帝国領に移動する。


 関所自体は特に問題なく抜けられる。奴隷の人頭税は安い。

 だが交通料は馬車一台分で数えられる。


 関所の近くにはアレクシアの家が治めていた領地があるのだが、今は別の家が治めている。

 アレクシアに寄るか聞いてみたが、首を横に振った。

 別に行っても問題ないと思うが……いや、貴族が貴族でなくなった時どうなるかを考えれば確かに行かない方が良い。


 そのまま予定通りの進路に向かう。


 交通料の徴収は痛いのだが、馬車を使いながら関所を通らずに移動するのは不可能だ。

 それを補うために向こうで売るための交易品も積んである。

 香辛料に染料、絹などスパルティアでは手に入りにくいものをなるべく積んでいる。


 逆にスパルティアでは宝石類を買い込む予定になっている。

 魔物との戦いで魔石を含め大量の取得物を常に回収しており、その中には純粋な宝石も含まれるという。


 スパルティアでは宝石は普通の石より奇麗な石程度の価値しかないのだ。

 最も、それに目を付けた商人たちによって一時期宝石の相場が荒れに荒れたため、買い込める量は制限されている。


 それでも十分な稼ぎになるので、一年中ずっとスパルティアと他の国を行き来している交易商人もいる。


 魔物との戦いが多くのリソースを占めるスパルティアにとって、彼らの存在は大事な資金源であり、交易相手なのだ。


 もう一つスパルティアには名産がある。

 それは傭兵業だ。


 魔窟から出てくる魔物の数は緩急があり、比較的落ち着いた時期に少数の将と兵が傭兵として他国に出稼ぎに行く。

 小競り合いの戦いにスパルティアの一団が現れたら、どれだけ優勢であっても降伏しろという逸話もある。


 これもスパルティアの外貨獲得手段だ。


 兎に角魔物と戦わなくてはならず、温暖な気候ではあるが魔物の影響か大地に栄養が乏しい。作物の実りが少なく、その所為で家畜も少ない。


 魔物を一部食料にしているが、一国をそれだけで補えるはずもない。

 その為外交により近隣の国と魔物との盾になってもらう代わりに食糧支援を行う同盟も組まれている。


 資源国家であり交易国家でもあり、大陸最強の国でもある。

 大陸屈指の大国である帝国はスパルティアと揉めそうになれば手を引き、肥沃な大地に恵まれた王国は食料を安く売るぐらいで後は余り関わろうとしない。


 かなり特殊な立ち位置の国といえる。


 アレクシアがスパルティアの名前に微妙な顔をしていたのは、帝国がスパルティアに頭が上がらない事をよく理解しているからだ。

 元帝国貴族としてのプライドが傷つくのだろう。


 予定の行程の半分を通過する。

 時間的には前倒しで進めている。馬の調子もよさそうだし、アレクシアが御者に慣れてきて三人で引けるようになり大分早くなった。


 アズは馬に慣れてないのもあるし、子供だから馬に舐められてダメだ。

 乗るだけなら乗れるが、それは馬に乗せられているだけでしかない。


 だがどれだけ順調でも、道中で馬に水を飲ませて草も食べさせなければならない。

 道の草を食べさせないと馬の食事はままならない。

 馬の食事の輸送は余りにもコスパが悪いのだ。


 二頭の馬の食事に使う乾燥させた牧草だけで馬車が埋まってしまう。


 しばらく行くと道とも呼べない道を外れた場所に大きな湖がある。

 付近には街もないので湖も汚れていないだろう。

 きちんと川が上流下流とも流れており、水も淀んでいない。


 馬車を其処に止めて、洗い物や水の補給を行う。

 服なども大半はここで洗濯して馬車を利用して干すのだが……。


「アズ、ちょっと来い」

「なんですか?」


 近寄ってきたアズの髪を見る。

 普段よりも少し艶がないように見える。

 顔もややテカリがあるような。


 毎日湯を沸かして体を拭いているのだが、それでは限界があるようだ。


「水浴びしろ」

「えっ、ここでですか」


 アズは周りを見渡す。此処にいるのはこの四人だけだ。

 恥ずかしがるアズだが、そもそも以前も同じように水浴びしたことがある。


 思春期というやつなのだろうか。

 予定は前倒しで来ているとはいえ、それほど時間に余裕がある訳ではない。


 まごつくアズの服を脱がして、下着姿のまま湖に放り込む。


「ふぇ」


 湖に入ったアズは顔だけ水面から出した。

 それなりに深いようだ。

 何事かとやってきたエルザとアレクシアも湖に入らせる。


 エルザはともかくアレクシアは毎度の如く渋ったのだが、だからといって入らないという訳にもいかない。匂いに敏感なのはむしろアレクシアだからだ。


 というか俺も入らないと汚れが気になる。

 流石に昼間に誰もいないとはいえ裸はちょっと恥じらいが無さすぎるか。


 しばらく湖の中で過ごす。

 濡れた下着が透ける。流石に女性三人の艶やかな姿は目に毒だな。


 体を洗うついでに着ていた服も洗濯してしまい、しばらく四人で下着姿で過ごす間抜けな図が出来た。


 見かねたアレクシアが熱風の魔法で洗濯物を乾かせる。


「もしかしてはしゃいでるの?」

「そうかもしれん」

「はぁ……老成してると思えばまるで子供のような。貴方が分かりませんわ」


 全く失礼な事を言う。



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