第45話 コロシアムに行こう
オセロット・コロシアム。
大陸中の武芸者を一か所に集め、誰が最も強いのかを競う大会である。
大なり小なりこうした大会は開かれているが、このオセロット・コロシアムはその中で最も大きい大会として認知されており、高額な賞金を求めて多くの参加者が集まる。
勝者は名声と賞金を手にし、観客は熱い試合で手に汗握る。
予選の後の本選では試合の賭けも行われており、優勝者は優勝賞金の他にこの賭けの収益の一割を受け取る権利を得る。
だが、最も価値のある優勝者の権利はもう一つある。
余りにも荒唐無稽な権利ではあるが。
ルールは故意的な殺人を禁じている以外なく、大怪我をする選手も多い。
その為前回から依り代の導入が始まり、ある程度のダメージを負う場合強制的に依り代が選手と入れ替わり敗北となる。
「オセロット・コロシアムの概要はこんなところだ。選手保護が前回から行われるようになったから安心してお前達も出場できる」
ちなみに依り代は魔道具で、量産化はされたものの未だにそれなりに高額だ。
魔方陣等の準備も必要なため、冒険者が迷宮に持っていくのは残念ながら不可能だ。
アズは遠慮がちに手を上げる。
「出場するのは分かりました。何時頃開催されるんですか?」
「今から30日後に予選の受付が始まる。場所は帝国から更に東にあるスパルティアで行われる」
「スパルティアですの……」
アレクシアは些かげんなりした顔で言う。
帝国出身の彼女には思うところがあるようだ。
「傭兵国家。世界最強の軍隊を持つ国。300の兵で万の魔物に勝利したのは有名な話ですねー」
「東の果てにある魔窟からの魔物を長い間防いできた国だな」
スパルティア。王と元老院が政治を司り、より強いものが尊ばれる国だ。
オセロット・コロシアムの優勝者は、信じられないことにスパルティアの王に挑む権利を得る。
もし王に勝てばそのまま挑戦者は王として戴冠するとスパルティアは宣言しているのだ。
スパルティアは太陽神ではなく戦と富の神バルバロイを信仰しており、その神の名に誓って宣言されているので本気なのだろう。
ちなみに今までの六回の結果は全て王の勝利で終わっている。
最強の兵を従えるのは最強の王という訳だ。
オセロット・コロシアムもスパルティアが兵を募集するデモンストレーションに過ぎないという話もある。
優勝者の何人かは実際スパルティアの将になっているとか。
余談だがオセロット・コロシアムはそのスパルティアの兵も参加する。
並の武芸者では予選も抜けられない。
流石に人数の制限などもあるらしいが。
まさに強者の為の大会だ。
「勝てるでしょうか? 私はずっと魔物と戦ってきたのであまり自信が無いんですけど」
「まぁ出来れば予選は抜けて欲しいところだな。とはいえ無理なら無理で頑張れるところまでやればいい」
「どういうことですの? 優勝賞金が欲しいのではなくて?」
「あ、もしかして大会はついでですかー?」
エルザがそう言うと、主人は先ほどのエレメントの結晶を取り出す。
きちんとした装飾の箱に収められている。それが三つ。
「そう。実はこれを競り落としたのは全部スパルティアの商人なんだ。輸送料は結構高額だからな。直接持っていけばその分大儲けだ」
本命の目的はあくまでオークション品の輸送で、そのついででアズ達をオセロット・コロシアムに出したいだけだった。
アズは武芸大会と聞いて少し緊張していたが、別に期待されているわけではないと知って少し肩の荷が下りた。
期待されていないのはそれはそれで寂しい気持ちもあったのだが。
「代理人から聞かされている約束の期間は今から15日後までだ。大会を待たずに向こうに行く。幸い向こうでは魔物退治の依頼は幾らでもあるからな。それはそれで稼げるぞ」
「稼げて嬉しいのはご主人様だけではなくて?」
「少しは還元して欲しいのですけどー。創世王様もきっとそう言ってらっしゃいます」
エルザは司祭らしからぬ事を言う。
創世王の加護など今は存在するのだろうか。
エルザは癒しの奇跡を使えるので全く無い訳ではないのだろうけれど。
この主人はかなり還元しているとアズは思う。
何かに困ったことが一度もない。
「まあ落ち着け。向こうでのお前らの稼ぎ次第だがちゃんとした宿をとってやるよ」
「なら是非ともお風呂がある宿にして欲しいわ。ゆっくり浸かりたいし」
「道具はちゃんと手入れしておかないとダメになるからな。ちゃんとその辺は考えてるさ。お前達、迷宮行きを中断したんだったらそんなに疲れてないよな。遠征の準備をしておけ。多く見積もって十日は掛かるぞ。国外だからポータルも使えないし」
アズは少し困った。長い旅なんてしたことがない。
護衛の時は最低限の荷物だけ持っていったのだが。
「えっと、何が必要なんでしょうか」
「買い物も必要ですわ。いくらここが道具屋で大半は手に入ると言っても。着替えも足りませんし」
「分かってる分かってる。ほら、お前ら三人の分だ」
そう言って主人は銀貨の詰まった硬貨袋をアズに渡す。
アズから見れば大金も大金。アレクシアから見ても準備に渡すにはそれなりの額だ。
「わっこ、こんなに……」
「気前良いじゃないですかー」
「それじゃあ早速行きましょう。良いわよね」
「ああ。うちで手に入るものは買ってくるなよ」
アズ達は立ち上がると、市場に買い物へ行く。
主人は付いてこなかった。女三人の買い物に付き合いきれないらしい。
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