第43話 風の迷宮からの生還
「アズ? 生きてる? 返事をしなさい。アズ」
アズが目を覚ましたのは、気を失ってからしばらく時間が経ってからだった。
アレクシアから体を揺すられ、目を覚ます。
そこにはアレクシアとエルザが居て、エルザはカズサに癒しの奇跡を使っていた。
カズサの顔色は血の気が戻り、寝息も安らかになっている。
あの様子なら大丈夫だろう。
「二人とも平気なようね。何があったの? このフロアには魔物が居ないようだけど」
「えっと、なんて言えばいいのか」
そこでアズは気づいた。キヨというスケルトンが居ない。
気配もない。
居なくなってしまったのだろうか。
アズは此処に落ちてからの事をエルザとアレクシアに説明する。
二人ともキヨとはすれ違ったりはしなかったようだ。
ここより一つ上の階層に落ちた二人は、戦闘を避けながら此処に降りてきたらしい。
鏡の魔物と遭遇してしまい、長い時間をかけて倒したのでここに来るのに時間がかかったらしい。
「創世王の神殿、ねぇ。この大陸にはもう残ってないと思っていたけど」
「ふふ、各地にこういった場所はそれなりにありますよ。迷宮の底にというのは初めて聞きましたが。それでアズちゃん。創世王の使徒という方はどんな方でしたか?」
エルザは創世王の司祭らしく、創世王の使徒に興味があるようだ。
居なくなってしまったのを聞いてがっかりしていた。
アズが詳しく話すと、熱心に聞き入っている。
「そうですか、ユースティティア様は最後にアズちゃんに……ちょっと失礼しますね」
エルザはアズの瞳をのぞき込む。
エルザの瞳は紫の色彩で、変わらず美しい目にアズは少しだけ胸が高鳴る。
だが何故だろう。ユースティティアととても似ていると感じたのは。
そしてエルザが離れる。
「……何かをしたのは間違いないですが、私では分かりませんね。是非お目にかかりたかったのですが。ユースティティア様は何か言っていませんでしたか?」
「そういえば――王よ。私は役に立ちましたか、って言ってました」
「そう、そうですか。後は安らかに眠っていただけると良いのですが」
そう言ってカズサの治療に戻った。
エルザのロザリオに彫られている女性の像が目に入った。
ユースティティアとは違う女性だ。
創世王教とは何なのだろうか。
一体昔何があったのだろう? 太陽神教は何をしたのだろう?
アズは太陽神教にも創世王教にもあまり興味がある訳ではない。
宗教はアズを助けてくれなかったからだ。
アズに手を差し伸べたのはあの主人ただ一人であり、アズが仮に信仰する存在があるとすればあの主人だけだ。
エルザが創世王教の司祭で、主人が太陽神教をあまり好んでいないから結果的に創世王教の側に立っているに過ぎない。
カズサが目を覚ますのを待って、創世王教の神殿を後にする。
神殿から更に奥に階段があった。
このフロアに魔物が居ないのは確認していたので、道中の荷物を回収できるだけ回収して階段を上る。
四人が昇りきった後、階段が消える。
まるで役目を果たしたとでもいうように。
エルザが神殿に向かって十字を切り、祈る。
その姿は熱心だった。
まるで友を労うかのように。
そのまま上を目指して行くのだが、不思議な事に魔物に一切遭遇しない。
所々に魔石かエレメントが転がっているので、恐らくキヨが外に出るために移動しながら倒していったのだろう。
深い階層の魔物は強力だ。今のアズ達ではあまり戦いたくなかったので助かった。
「これ全部そのスケルトンがやったっていうの? とんでもないわね」
アレクシアが斬撃の跡を見ながら言う。
灰王に比肩しうる強さだった。もし敵として現れていれば、アズ達は瞬く間に殺されていただろう。
カズサのリュックは壊れてしまったが、帰り道に拾えるアイテムだけで良い収穫になる。
それなりに長い時間をかけて風の迷宮から出た時、アズは新鮮な空気を思いっきり吸って吐いた。
生きているという実感が湧いてくる。
カズサと目が合うと、カズサがニッと笑う。
つられてアズも笑った。
「ほら、気を抜かない。戻ってからにしなさい」
「はーい!」
アレクシアの言葉でアズは気を引き締める。
色々あった、あり過ぎた日だった。
何事もなく宿をとった街に戻る。
約束通り頭割りで取得したものを分ける。
道中で拾えたエレメンタルの結晶は丁度四つあり、一人一つに配れた。
清算が終わり、カズサとアズは握手をした後にハグをした。
年齢が近いこともあり急速に仲が良くなった二人だった。
アズにとって実は初めての年の近しい友人のような存在だ。
あの寒村には子供も殆ど居なかった。ただただ搾取する大人ばかりで……。
アズは嫌な思い出を頭から追い出す。
もう終わったことだ。
またね、と言ってカズサと別れた。
壊れたリュック代などを考えても十分すぎる稼ぎだったと聞いたので、ホッとした。
エルザがアズの頭を撫でる。
少しだけ涙が出てしまったようだ。
「私達じゃ、同年代の友達にはなれませんからね」
「大丈夫です。私は」
「アズちゃんの人生はこれからだよ。私が保証してあげるから」
「私達は奴隷じゃないですか。あの人は良くしてくれるけど」
「あの主人なら大丈夫。根底にあるのが善性だから」
それは分かる。
あの主人は悪人に徹しきれない。だからアズは今こうしている。
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