第24話 太陽神教の横暴
五階層から敵の強さは大きく上昇した。
トカゲ達は体躯が巨大になり、皮膚の硬さはより硬度を増す。
アズとエルザでは決定打を与えられなくなり、処理が間に合わなくなる。
祝福込みでも倒しきるのに時間がかかってしまう。
アズは自らの力での討伐を断念し、前衛としての囮に専念してアレクシアの魔法を殲滅のメインにした。
アレクシアは盛大に魔法を放つことで、ストレスが発散されて随分機嫌が良くなったので愚痴が減ったのが幸いか。
純粋な魔導士とは違い、アレクシアが襲われても戦斧による応戦ができ、戦斧に魔法を纏わせることで高い殲滅力を維持している。
疑似魔法剣ならぬ疑似魔法戦斧を見たアズが羨ましい目で見つめていた。
「申し訳ないですけど、これは他人の武器には施せませんの」
「えぇ……」
「貴女時々子供っぽくなりますわね。ああ……この中で一番子供でしたわね」
「落ち込んでいるアズちゃん可愛い」
エルザがうっとりとアズを眺めている。
アレクシアはそんなエルザに引いていた。
始めこそ少し手間取っていたものの、戦法を変えたことで再び危うげなく進行する。
「アレクシアさん、魔力は平気ですか」
「ええ。このブローチのお陰で、火の魔法に関しては殆ど消費がありませんわ。素晴らしい魔道具ですわね」
「そうですか」
「何で貴女が嬉しそうなの?」
第六層の最深部。
この鉱石の迷宮に主が鎮座する部屋に到着した。
「みんな大丈夫ですか? なら行きますね」
アズが巨大な扉を開く。
中の部屋は中々広い空間だった。その中央にアズの数倍はあるだろう黒い大トカゲが鎮座している。
いや、鎮座というよりも地面を堅い牙で削り取りながら食べている。
扉が閉じる。ようやく黒トカゲがこちらに気付いたようだ。
アズはトカゲに向かって剣を構え、エルザがアズを祝福して強化する。
アレクシアはため息を付きながら火の魔法を詠唱する。
祝福により強化されたアズの速さは、この迷宮に入った時よりも大きく増している。トカゲの討伐で力を増したのもあるが、アズの力の使い方が上手くなった。
黒トカゲの攻撃はアズには届かない。
長い尻尾も、牙によるかみ砕きも、手足による叩きつける攻撃も回避する。
アズは隙を見つける度に剣で斬りつけるが、堅い。
この硬さはかつてアズを殺しかけた百足虫に匹敵する。
だが脅威としてはこの黒トカゲの方が低いとアズは感じている。
あの絶望を感じない。
僅かだが傷をつけることに成功してアズは一応満足し、回避する囮の役割に戻る。
アズがろくにダメージを与えられない一方で、アレクシアの魔法は効果絶大だった。
一発魔法が直撃するたびに黒トカゲが大きく絶叫する。
その度にアレクシアに向かおうとする黒トカゲを、傷口を斬りつけることでアズへと注意を逸らす。
詠唱中に尻尾が飛んで来ればエルザが見事に弾いた。
それを見たアレクシアはこっそり怪力女と呟くが、エルザはその言葉に振り向いて笑顔で返した。
「この司祭怖いですわね……」
アレクシアは気を取り直し、トドメを刺すためにより高度な魔法を準備する。
黒トカゲは命の危険を感じたのか、複数の大きな岩を咥えてアレクシアへ投擲する。
アズはアレクシアと岩の間に立ち、灰王と同じ構えをする。
アレクシアは魔法の準備に入っていて動けない。
エルザがアレクシアを抱えて移動するには間に合わない。
黒トカゲは次の岩を咥えて準備している。
ここで岩を撃ち落として、魔法で倒す。
アズはそう決めた。
灰王の動きを思い出し、散々真似をした剣技を放つ。
最初の岩を斬り落とし、次の岩を返す刀で弾く。次も、その次も。
剣の理に従って動くことで、アズの剣から無駄がそぎ落とされていく。
その剣技は灰王のものに比べれば余りにも未熟ではあったが、アズは襲い来る岩の全てを排除した。
黒トカゲが次の岩をこちらへ放つよりも早く、アレクシアの詠唱が完了する。
「――我が祈り。焦炎の誓いをもって、火の王に抱かれよ」
大魔法に区分される高位魔法。
本来アレクシア一人では発動することも難しい規模の魔法は、黒トカゲを絶命させるには十分すぎる威力だった。
焼き焦げた巨体が地面に倒れ伏す。
焦げた匂いが漂う。
アズ達は気を少しだけ抜いて息を整える。
アレクシアが環境を操作する魔法で空気を奇麗にしてくれたので、焦げた匂いのする空気で深呼吸しなくても良かったのは幸いだった。
死んだ黒トカゲを無視し、周囲を探す。
迷宮の主部屋では宝箱が必ず見つかると言われたのだが……。
奥に小さな宝箱があった。
開けてみると、小さいながらも純金の塊が鎮座している。
眩しい輝きだった。
それをリュックに詰め、アズは立ち上がる。
必要な鉱石を集め終わり、リュックには銀鉱石を詰め込んでいる。
この金塊で、攻略は完了だ。
「そういえば、ここは主が死んでも迷宮は消えないんですね」
アズが疑問を漏らす。
エルザがそれに答えた。
「それはねー。逆だからだよ。あのカタコンベはあの魔物が居たから形を保っていたの。だから主を失って形が保てなくなったの。ここはこの迷宮がある限りトカゲの中から主が生まれるから消えないわ」
「……えっと」
「何の話か知らないけど、ここは正確には主が居ないって事よ。だから無くならないわ」
「なるほどー」
アズは素直に頷いた。
アレクシアは戦斧を地面に突き刺して体を預ける。
そしてため息を付いた。
帰り支度をしていると、入口辺りが騒がしい。
アズは剣を持って構える。
他の二人も臨戦態勢をとる。
アズ達が構えたまま入口を見つめていると、複数の男たちが入ってきた。
男達はそれなりの装備を整えており、冒険者には見えない。
その中で先頭の、背の特に高い男が前に出て黒トカゲの死体を眺める。
「ンンンンンンン? おやおやこれはこれは」
死体を興味深そうに眺めた後でようやくアズ達に気付いたようだ。
大げさに両手を広げる。
「先客ですねぇ。お嬢様方。運が良いのか悪いのか……今からここは太陽神教が貸切りますので。早く出て行って頂きたい」
「迷宮の貸し切り? そんなの」
「許可は出ております。ここの主も倒したようですし、用もないでしょう?」
「……そうだけど」
此方に有無を言わせない。
男達は武装しており、数も向こうの方が多い。
幸い此方が引けば争う気はなさそうだ。
アズは二人とアイコンタクトをし、武装を解除する。
「物分かりが良い。素晴らしい。この死体は頂いても?」
「いくらで買いますか?」
「おやおや。ンンンンン……金貨3枚で。どうせ運べないでしょう?」
「どうも」
アズは金貨を受け取ると部屋から出る。
「そういえば言い忘れました。私、太陽神教の神殿騎士、エヴリスと申します」
その後は向こうの気が変わらないように急いで迷宮から脱出した。
後日鉱石の迷宮はエヴリスの言った通り、他の冒険者が一切入れなくなった。
入れなくなった理由は事故があっただのなんだの、適当な理由だった。
冒険者は本当に自由なのだろうか、とアズは思った。
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