第23話 鉱石の迷宮
奴隷三人娘は、目的の迷宮へ無事到着した。
街から少し遠いが、道中は馬車に乗れたためそこまで時間はかからなかった。
迷宮の前でアレクシアは口を開く。
「気が滅入りますわ」
「そうですか? そんなに難しい迷宮ではなさそうですけど」
踏破率が高い迷宮だから地図も精度が高い物が用意されている。
アズはそれを眺め終わり、仕舞いながらアレクシアの愚痴に返事をする。
「此処で冒険者の真似事をすること自体が、です」
アレクシアは戦斧に体重を預ける。
完全にやる気がない。
「真似事じゃなくてそのものなんですけどね」
エルザはそう言いながら迷宮の入口を開ける。
アズはそれに続き、アレクシアは渋々後ろに続いた。
「私は由緒正しい貴族なんですのよ。こんな事をするような立場ではないと」
「それはもう何度も聞きました。いいから灯りの魔法を使ってください」
アレクシアははいはい、と生返事をして灯りの魔法を使って周囲を照らす。
「魔法って便利ですね。松明を持たなくていいのは助かります」
「私の魔法は松明替わりですか。はぁ」
アズの言葉にアレクシアは肩を落とす。
地図の通りしばらく一本道だった。
道中では並の犬ほどの大きさのトカゲが出てきたのだがアズに斬られ、エルザに潰され、アレクシアに焼かれるか斬り飛ばされる。
「楽ですね……」
「そうねー。一階だし、手に入るものもないからさっさと降りましょう」
危うげなく進む。
二階層では鉄を食べて変化した鉄トカゲが出現し始めたが、アズ以外は殆ど変化がない。
アズだけは攻撃回数が少し増えた。
アレクシア曰く魔力自体はアズにもあるそうだが、まだ封剣グルンガウスを使うには足りないとの事だった。
もしこの宝剣が正しく使えれば、この程度の敵なら一撃で仕留められる。
宝箱を見かけるようになるものの、中身は鉄鉱石ばかりだ。
事前に主人からは鉄鉱石は要らないと言われていたので放置する。
鉄鉱石を拾うくらいなら銀鉱石で持ち物を埋めろとの厳命だ。
アレクシアは騎士として行軍訓練も行っていたからか、疲れた様子はないがストレスは溜まっているようだった。
一応アズの言う事には従っているが、それはアズとエルザの二人に対して多数決では負けると判断しているに過ぎない。
誰かの命令に従うこと自体が不満なのだろう。
幸いストレスは魔物にぶつけている様子で、アズは気に留める程度で先に進む。
そして三階層へ到達する。
鉄トカゲに加えて銅や銀のトカゲが出始める。
銅トカゲは柔くて弱い。三階層からは宝箱やトカゲから銅鉱石も採れるが、重さの割にはやはり割に合わない。依頼の分量だけ回収する。
「四階層に未帰還冒険者が居るみたいですね」
アズは一度立ち止まって依頼書と地図を広げる。
「なんで分かるの?」
「冒険者タグが反応してるらしいです」
「何よそれ。居場所の特定までされるのね。冒険者は自由な職業何て良く言えたわ」
アズの返答にアレクシアは益々不満を募らせる。
「私達のタグはご主人様が許可しないと見れないって聞きました」
「それはあの男なら見れるって事でしょ。どうせちゃんと活動してるか監視してるわ」
「んー、普通に商売に精を出してると思うけど」
エルザは苦笑した。
そもそも監視するほどの価値がある冒険者など稀だ。
こういう未帰還冒険者が出た時にようやく使われる。
アレクシアは奴隷の証であるブレスレットと、冒険者タグを忌々しそうな顔で睨んだ。
「早く行きましょ。長居したくないわ」
「それには同感です。階段はこの先ですね」
再び前進すると、三体の金トカゲが宝箱の周りをうろついていた。
「あれは……良い宝箱みたいですね」
「どうする?」
「はぁ……変わらないわよ、トカゲなんて」
アレクシアは赤いブローチに魔力を集め、自らの魔法を強化する。
火の魔法がブローチで大きく強化され、アレクシアはそれを纏めて金トカゲに浴びせた。
強烈な火は金トカゲを焼き尽くし、金の部分だけがまともに残る。
「すごいですね、アレクシアさん」
「当然よ。このブローチは良い触媒だわ」
アズは思わず拍手する。アレクシアは少し機嫌を良くした。
凄まじい迫力だった。
確かにこれは必要な戦力だ。
アズは事あるごとに愚痴を吐くアレクシアに辟易していたが見直す。
アズとエルザがサポートすれば、素晴らしい結果が出せるだろう。
残った金を回収し(熱かったので水をかけて冷やした)
宝箱を開ける。
トラップはない。
主人からトラップを感知する指輪を今回から預かっているので、気兼ねなく開けられる。
中には銀のインゴットが収まっていた。
精錬された銀の輝きは美しい。
なぜ宝箱から精錬された銀のインゴットが出てくるのかは謎だか、そういうものらしい。
リュックに収める。そしてそのまま階段へ向かい、降りた。
この迷宮の特徴は、良い鉱石を拾えば拾うほどトカゲ達を引き寄せてしまうという特徴にある。アズ達は過剰戦力故に稼ぎながら力を回収できるが、依頼にあるパーティーはそれほどの実力ではなかった。
三人の荷物がほどほどの量になる。
四階層をくまなく回り、この層のトカゲ達が殆ど出てこなくなった頃に空になった荷物を見つけた。
恐らくここで逃げ切れずに荷物を捨てたのだろう。中身は此処のトカゲの魔物が食べてしまったか。
そのまま上に戻れば良いのに、とアズは思うが、血痕もあった。
怪我をしているらしい。
奥は袋小路だ。
アズ達はそのまま奥へ進むと、人影が見える。
剣を構えたままアズが近づき、様子を見る。
そこには倒れた少年と少女が居た。
依頼に会った情報通りだ。
衰弱しているが、まだかろうじて息がある。
エルザが回復の奇跡を使うと顔色が随分よくなる。
休憩ついでに水を飲ませて暫く放置すると、少年が目を覚ました。
「ここは……」
「こんにちわ」
少年は急いで剣を取ってアズへ振り向く。
事情を説明すると、落ち着きを取り戻した。
少女も続いて目を覚ます。
少女が足を怪我して、どうにもならずに袋小路で身を潜めていたらしい。
食事を与えて再びエルザが癒すと、ほぼ全快したようだ。
アレクシアは意外にも面倒見が良かった。
少年に依頼書へサインさせて三階への階段まで送る。
一応アズ達が迷宮を攻略するまで待たせても良かったのだが、少年が急いで帰還を望んだ。
少年が戦士で少女が魔導士だ。
戦闘を避ければ問題はないだろう。
二人は何度もお礼を言って階段を登って行った。
アズ達は五階層に移動する。
……少し空気が変わった。
迷宮の壁が只の岩ではなく、黒い鉱石に変わる。
此処から先は鉱石を食べた大トカゲが出てくる。
この黒い鉱石を食べたトカゲは他のトカゲよりも強いという。
ダマスカス鉱石が僅かに含まれている、らしい。
精製するには割合が低すぎてコストに合わないという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます