第22話 それじゃあ、新しいパーティーに働いてもらうか
数日程アレクシアの様子を眺めていたが、些か反抗的な視線をこちらに向けるものの、主だった反抗は無くなった。普段に限れば、だが。
衣食住全て俺持ちだし、毎日三食食べられることも感動していたが何より風呂が毎日入れるのが革命的だったようだ。
帝国側は文化的に風呂には毎日入らないらしい。
王国に比べて水資源が貴重で、魔石もあまり採れない結果、貧乏貴族は基本的に体を水で濡らした布で拭く事が多いらしい。
燃える石で水を沸かすのは勿体ないそうだ。
だが当然うら若き乙女であるアレクシアには耐え難かったらしく、自分で沸かして入ることも多かったようだ。
だが自分で風呂に入れるほどの水を生み出して、それを沸騰させてとなると大変魔力を使うらしく、毎日は出来なかったとのことだ。
俺はアレクシアに毎日風呂に入る代わりに火と水の魔石の魔力補充を命令した。
俺の命令というより自分の利益の為か、素直に指示を聞いている。
これで魔石の補充に金を使わずに済む。素晴らしい節約だ。
割に合うか、という意味では全くだが……副産物だから良いだろう。
代わりに化粧水だのなんだのを要求してきた。
エルザもそこには同意しており、女の身だしなみだと言い切られたので用意してやることにした。
商品の手入れに必要な経費と思うしかない。
道具屋だから仕入れ値で手に入るのだけが救いか。
原料は薬草とアルコールと薬水を併せて作るらしい。
そのうち錬金術師と組んで新しいのを作れば売れないかな。
材料はあいつらに取ってこさせればいい。
売れ筋の物を用意してやると、文句を言いながらも嬉しそうに受け取り、自分だけではなくアズにも化粧品を教えてやっていた。
エルザも機嫌が良くなったので、女性には嬉しい品物らしい。
面倒見は良いのだろうか。
確かにそれからの三人は見違えるように見える。
服装次第で三人とも良家のお嬢様に見えるだろう。
バトルドレスも手に入り、アレクシアに着せる。
水色のドレスを基にした軽装備だ。
嫌がらせとして俺の前で着替えさせる。
案の定恥ずかしがって文句を垂れるが、決定権は俺にある。
風呂に入り肌の手入れをした為か、ぐっと奇麗になった。
水色のドレスは赤く長いアレクシアの髪をより目立たせる。
社交界に連れて行けばさぞかし注目を浴びるだろうな。
そんな機会はないが。
武器選びは難航した。
アレクシアは魔導士だが、騎士の技能もある。
単に杖だけ持たせるのは勿体ないのだ。
三人のパーティーで、資金的にもここから人数を増やす気はない。
後衛よりは中衛が居たほうがバランスも良いはず。
元々何の武器を使っていたかアレクシアに聞くと、魔法剣を使っていたと答えが返ってきた。
貧乏ながらも流石は貴族か。
アズが使う封剣グルンガウスも分類的には魔法剣だ。格が高いから魔剣だのの扱いになる。
アレクシアの使っていた魔法剣は封剣グルンガウスに比べればずっと格落ちらしいのだが、流石に手に入れるのは難しい。
アズの武器をアレクシアに渡すのが戦力的には一番良いのだが、あれをアズに使わせることで俺が信用しているという一種のメッセージになる。
結局本人の希望で鋼の戦斧を渡すことにした。魔導士としての補助はあのブローチで十分だろう。
実際アレクシアにブローチを装備させると驚いていた。
一介の道具屋風情が良く私を買った上にこんなブローチを持ってますわね、と。
無言でけつを叩いた。
痛みで転げまわっていた。顔はあまり良くないと思いなおしてこっちにしたが効果は高いようだ。
見た目は華奢ではあるが、武器の使い方に問題はない。
魔法による筋力補助が出来るらしい。
魔導士は万能ではないか? と言ったら結局鍛え上げた戦士の方が遥かに強いらしい。
大陸最強の冒険者は確かに魔導士ではなく戦士だったな。
これで一応こいつらを送り出す準備は出来た。
アズがリーダーなのは変わらない。俺に対して一番忠誠心があるのは間違いない。
アレクシアにかじ取りさせるのは論外だ。話していると貴族として教育されているという教養は感じるのだが、やはりポンコツな部分がある。
ちょっと感情が高ぶると、抑えが利かずに俺に逆らって体罰という流れになっているし。
試しにアズと模擬戦をさせてみたが、アレクシアが全勝した。
凄まじい速さでアズが動くのだが、アレクシアは最低限の動きでそれを捌く。見事なものだった。
しかし回数を重ねる度にアレクシアの戦い方にアズの方が慣れていったのか素人目に見ても惜しいと思う部分が何度もあった。
アレクシア曰く、アズはその辺の兵士よりは強いし、勘が良いとの事だった。
俺は十分だと判断し、こいつ等を迷宮に送ることにする。
中級の迷宮が良いだろう。
俺は昼食後に三人を部屋に集める。
(アレクシアが一番食べた。アズよりも食うのだこの貴族くずれは)
「そろそろ働いてもらう。三食昼寝付きで随分休めただろう」
アレクシアは人一倍食べているからか気まずそうにする。
すぐに開き直るのは美点なのかどうか。
俺は一つの迷宮を地図で指さす。
それに加えてその迷宮で達成できる依頼も幾つか用意した。
それをみてアレクシアが口を開く。
「帰還できなかった冒険者の探索、ですの? こんなことまで」
「死んでれば髪でも良いから持ってこい。この手の依頼はついでとしては割が良いんだ」
「他のは……迷宮から手に入る装飾品の納品が多いですね」
「この迷宮は質のいい銀鉱石が入手できるんだ。掘ったりしなくても十分な量が宝箱からも手に入る」
アレクシアがそれ依頼書を見て俺に視線を向ける。
何か言いたそうだったので促してやる。
「宝箱ってなんですの? 迷宮は知ってますけれど、そんなものがあるならサッサと無くなるのでは」
「知らん。と言いたいが、人間を呼び込むために定期的に宝箱が生まれるらしい。あっちはあっちで人間が餌になるようだ」
「えぇ……心底嫌ですわね。行きます、行きますから手を構えるのはやめてください」
俺が立ち上がる前にアレクシアは納得してくれたようだ。
この迷宮はアタリが出ないことで有名だ。
代わりに銀鉱石による安定した稼ぎがあり、偶に金や白金も少量手に入るらしい。
この迷宮のボスは鉱石を食べるトカゲで、魔法に弱いという情報も手に入れている。
この面子なら攻略可能だろう。
物資も三人いれば十分な量が持っていける。
次の日の朝、俺は三人の奴隷を見送った。
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