第13話 買われるシスター
アズは予想よりも多く、6体の羊を狩って俺を待っていた。
だが些かトラブルがあったようだ。
確かにこの街の役人はなんというかやる気がない。領主が病に伏せてからはあまりいい話を聞かない。
しかし獲物の横取りか。アズが一人なのが狙われた原因と見ていいだろう。
こういったことは体験しなければ分からないものだと実感する。
羊を肉屋に持ち込み、肉と毛皮に解体する。毛皮は加工品に。
肉は幾つか取り分け、他はそのまま肉屋に卸す。
この毛皮は良い寝具になる。
6匹分丸々で金貨1枚といったところか。
アズの実力はもはやビギナーとはいえない。
少し等級を上げた依頼をアズにこなさせてみる。
討伐系はほぼ問題ない。怪我も最小限で済んでいる。ポーションはケチらなくても良いと言ってあるし。
頭を使ったり、応用力が試される系の依頼は今一だ。話している感じ頭が悪い訳ではない。教養不足だろうな。
俺はアズを長めの依頼に派遣する。
少し離れた砂地で少し魔物の比率が偏っているので、その是正の為に特定の魔物を狩る依頼だ。黒蛇の時ほど極端ではないし、それほど危険はないだろうと判断した。
危険ならさっさと逃げるとも厳命した。同じような危機があれば今度は間違いなくアズは死ぬからな。
そしてアズが居ない間に、俺は再び奴隷商人の元を訪れていた。
使いが先日訪れたので、現物を見に来たのだ。
奴隷商人は以前と変わらず、作った笑顔を顔に貼り付けている。
商人に連れられて入った部屋には、女が一人椅子に括り付けられていた。
紐で強く縛られており、胸の部分が強調されている。
だがそんな扇情的な姿よりも気になったのは……
「修道服……? シスターの奴隷ですか?」
「そう。珍しいでしょう?」
「珍しいってアンタ、聖職者の奴隷は禁じられているんじゃ」
俺がそう言うと、奴隷商人が少しだけ吹き出すように笑う。
今日初めて本当に笑ったなこの奴隷商人。
「それは太陽神教の話ですなぁ。太陽神及びそれに連なる神に仕える者の奴隷を禁ずる。太陽神教の提言で大陸法の一つになり、聖職者は奴隷になることはまずない。もしあり得るとしても、太陽神教からの追放や破門してからとなる」
奴隷を買うと決めた際に調べた時に知った内容だ。
確かに神に仕える聖職者を合法であっても、奴隷として売買するのはまずいだろうなと思う。
「しかしこのシスターは聖職者として奴隷になっております。癒しの奇跡は勿論、祝福に加速の加護も使えます」
この奴隷商人は国からの許可を得た合法な店だ。
つまりここにいるシスターは合法的な奴隷となる。
「創生王教はご存じですか?」
「いや、知らないな」
俺がそう言うと、初めて縛られていたシスターは俺を見る。アズとは違う紫色の目。
その目は強い意志を感じさせる目だ。
「古い教えだそうで。私も詳しくはないのですが……要は太陽神教以前にはやっていた宗教ですな。今は僅かな信徒のみだそうで。それに太陽神教とは非常に不仲だそうで……」
だから太陽神教の聖職者が保護される一方で、創生王教の聖職者は奴隷として売買しても問題はない、とのことだった。いやいや滅茶苦茶だな太陽神教。体のいい弾圧だろう。
なるほど、宗教間の揉め事の結果らしい。
とはいえ創生王教自体がもはや廃れたと言っても良いほど衰退しているため、その聖職者自体がいないのでほぼ意味が無い話だったが、偶々ここに流れ着いた、という事か。
「だが、なぜ俺に話を持って来たんだ? 言っては何だが買い手はいくらでも良そうだが」
「ええ、耳の早い貴族様などからすでに接触があります。ですが、既に売れたとお伝えしております。貴方にお売りしたい」
「なぜ?」
「女の奴隷など、殆どが性的消費なのはご存じでしょう。私も奇麗事は申しません。正しい手順とはいえ、たくさん売ってきました。別に間違ったこととは思っておりません」
少しばかり奴隷商人は顎を手でこする。
「私は太陽神教の信徒で寄付もしております。困った時の神頼みではないですが、福を落としたくはないですからね」
商売人は多くが運を大事にする。俺もそういった考えは理解している。
「正直シスターを、そういった目的で売るのはどうにもね。勿論貴方が買わないなら次の候補に売ります。どのような扱われ方をしても。ですがあなたが買うのが一番マシでしょう」
確かに俺は女を抱くために奴隷を買いには来ていない。
買った奴隷を抱いても娼館の分だけ金の節約にはなるが儲かる訳じゃない。
俺はシスターを見つめる。
長く、手入れの行き届いた金髪。整った容姿。意志の強い紫色の目。
身体のラインが美しい。縄で縛られてそれが余計に強調されている。
首には太陽神教とは別物の十字架のロザリオがかけられている。
「それは分かりましたが、彼女はなぜ縛られているんですか」
奴隷商人は二度目の本当の笑顔をする。
「そういうの、お好きでしょう?」
俺はその言葉に答えず、大金を払ってシスターの奴隷を購入した。
金貨140枚。高い買い物だ。費用対効果がきちんとあると良いのだが。
彼女の名前はエルザというらしい。
俺はエルザの身の回りの物を買い足して自宅兼店に戻った。
とりあえず店は従業員に任せる。
従業員はまた変な事をしているなこの人、という視線を向けてきたが無視した。
とりあえず俺の部屋に入れた。
俺は椅子に、エルザはカーペットを敷いた床に座らせる。
文句の一つも言わずに従った。
聖職者だからなのか、アズよりも随分と姿勢が綺麗だ。
修道服の女性が居るというのは何とも不思議な感覚がする。
さて、少しばかり人となりを知るとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます