第43話 やり場の無い怒り
「うおおおおぉ! 」
ボン! ボン! ボン!
右に左に下に上に動いて炎球を避け続ける。
一発……三発……五発……十発……二十発……。
セイラは絶え間なく炎魔法を唱え続けて俺はそれを避けるのを繰り返す。
(クソ……思うように動けない……)
さっきからセイラの良いように動かされている気がする。
そう思って改めて彼女の方を見るとある事に気がついた。
(……さりげなく鉄扇の方に近づいてるな)
鉄扇と彼女の距離が二メートル程近づいている。
このままだと先に武器を回収されてかなり不利になるな……
(受け身じゃ勝てない……)
そう思って俺はふところから水魔法の魔導書を取り出し、構える。
本でガードは出来ないが、撃ち合いの形に出来れば今よりマシだ。
「水よ……刃となりて敵を切り裂け!」
「……っ! 」
セイラの進行方向に置くように水魔法を放つと、彼女の動きが止まった。
「……燃えろ! 」
「水よ! 」
ボジュン!
だが、止まったのは一瞬で、直ぐに負けじと撃ち返してきた。
魔法が相打ちになったり、互いに避けたりしているが……
(やっぱり俺の方が不利だな……)
俺は魔導書の呪文を一言一句読み上げているのに対して、
セイラは詠唱を省略したり、時には無言で炎魔法を乱発してくるので
俺の方が撃ち負けている。
だが、それでもお互いに武器との距離を詰めていて、
後一メートルも歩けば剣に手が届くという所まで来た。
(ここが勝負所だな! )
「とうっ! 」
「えっ!? 」
俺は何としても先に回収する為に、魔法を食らうのを覚悟で横に飛んだ。
セイラは予想出来てなかったようで驚いている。
「取った! 」
無事に剣を回収し、俺は……
ビリビリビリビリ!
「? ……なんのつもり? 」
魔導書のページをビリビリに破く。
そして……
「オラァ! 」
空に向かって破けた分だけ放り投げる。
ばらまかれた紙吹雪はセイラの視界を防ぐ。
(紛れて攻撃してくるつもり?なら! )
セイラは一層集中し、魔法の詠唱を始める。
「燃え盛る炎よ……全てを焼き尽くせ! 」
彼女の両手から火炎放射器のように炎が飛び出し、
宙を舞う魔導書のページを焼き尽くしていく。
ゴオオオオオ……
そして、炎が止まった時には黒焦げが残っていた。
(……終わった? でも……お兄ちゃんの姿が……)
「当然終わって無いよ! 」
「!? 」
バキィ!
俺の振った剣がセイラの側頭部を捉える。
ようやく手応えのある一撃が入った。
「なんで……? 」
セイラは側頭部を押さえながら二、三歩よろける。
「負けず嫌いのお前なら絶対に正面から潰しに来ると思ったからな……
あえて回り込んでお前に近づいたんだよ。紙吹雪はブラフ」
「してやられたって訳ね……でも……まだ終わらないから! 」
セイラが叫んだ瞬間、彼女の指先から閃光がほとばしり、
俺は咄嗟にガードする。
「がああ!?」
だが、次にはガードしたとは思えない程の
衝撃が身体全体に走り、剣を落としかける。
この……感覚は……
「雷魔法か……? 」
この全身が痺れながら衝撃が走る感覚は、
初めてセイラと会った時にくらった雷魔法と全く同じものだ。
「その通りだよ……もう本気中の本気だからね……覚悟して! 」
「ちょっと待て……クソ……身体から痺れが……」
彼女はそう言いながら、訓練場の中央に歩みを進め……止まった。
かと思うと、彼女は両手の拳を突き合わせる独特な構えになり、
さらに魔法を唱え出す……
「雷よ……私の怒りよ……」
「ん?なんか暗くなったか? 」
見学の声に反応して上を見上げる。
「マジかよ……」
見上げた先には、セイラの真上を中心にした黒雲が広がっていた。
しかも、その雲は帯電しているように見える。
「これが今の私が出来る最強の魔法……
雲から私の怒りを代弁するみたいに激しい雷が落ちる」
「……やってやるさ」
きっと……ここからが本番だ。
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