第44話 兄妹の決着

露出した肌がチクチクとした痛みに包まれ、

なにか凄まじいモノの前触れを感じる……


「ハアアアア!!! 」

ビシャン!ゴロゴロ……

「ぐうううう……!? 」


一瞬、閃光が見えたと思ったら俺の直ぐ隣に雷が落ちた。

もちろん避けようとしたが……


「……! 身体にショックが……! 」


もちろん本物の雷よりは弱いのだろうが、落雷の衝撃が地面を通して俺の肉体を走り、全身を殴られたような衝撃を受けた。


「ふぅぅぅぅ……」


衝撃を受けながらもセイラの方をみると、

大きく息を吐いて目を閉じ、全神経を呪文の維持に集中させているようだ。

今なら戦いを決する一撃を与えられそうだが……


ビシャン!!

「うおおおおぉ!? 」


この落雷の中では真っ直ぐに進むことすら難しい。

雷が直撃すればもちろん俺の敗北は決まるだろうし、

避け続けても落雷の衝撃や回避を続けた事で消耗していき、押し負けるだろう。

どうする……?


ビシャン! ビシャシャン!!

「二連続!? 」


二連続の落雷も、一撃目はとりあえず左に動いて避け、

二撃目は姿勢を下げながら跳んで避けた。


「キツイなこれ……!! でも雷なら……! 」

ビシャン!


トドメと言わんばかりの三撃目の雷は、身体を丸めて横に転がるようにして躱す。


「チッ……当てが外れた……! 」


わざわざ大きく転がった意味は、

落雷は高い所を優先して落ちるという話を思い出したからだ……


セイラが立ったまま呪文を詠唱していたから俺が彼女の身長より低くなれば、

もしかしたら彼女に落雷してくれるんじゃないかと考えた。

まぁ……ほとんど意味の無い考えだったけれど。


(一応気づきはあったな……)


だが、まったく意味の無い思い付きでは無かった。


閃光に目が眩みそうになりながら、俺は必死に頭を回して周囲を観察している。

だからこの落雷の法則性に気づいたんだ。


「……」

ビシャン!!

「どうしたんだノーティスの奴……? 急に一歩も動かなくなりやがった」


そう、この落雷は俺を狙っている。だが問題は精度。


ジグザグを描きながら落ちる雷は制御しきれないのか、

ある程度俺から離れた所に落ちている。


だから動かなくてもどうと言うことは無い、当たらないのだから。


「グッ……」


落雷の衝撃は変わらず身体に響くが……


(でも種さえ分かれば単純だったな)


そして俺は極めて冷静に、落ち着いた足取りでセイラに近づいていく。


「そろそろ決着にしよう」

「……」


……? セイラが目を開けた?

近づかれるのが分かったなら魔法を解除して反撃できるようにするは

ビシャン!!


「!!?!?」

「……今の避けるんだ」


何が起こったのか一瞬分からなかった。

今の落雷を避けれたのは俺の本能が咄嗟に身体を動かしただけで、

本来なら確実に直撃していただろう。


だって今の落雷はつい数秒前に俺が立っていた場所に、

少しの誤差も無く落ちたのだから。


「まさか……お前……自分に近い場所の雷なら自由に操れるのか? 」

「……」


何も答えない。でも、俺の推測が当たっているという事は分かる。

……だとしたら

ビシャン!


「危な……! 」


早くこいつから離れなければ……!

今セイラとの距離を詰めようとするのは危険だ。


彼女が近接戦闘に優れているのはさっき嫌という程味わった……

たぶん時間を稼がれて、俺が彼女に致命的な一撃を与える前に

俺に雷が落ちて試合終了になる。


それに、もし運良くどうにかできたとしても、

彼女は自爆する覚悟で自分ごと落雷で貫くかもしれない。

そうなれば引き分け……俺の負けだ。

俺は彼女に勝たなければいけないのだから。


「ちぇ……また離れちゃったか……でもどうするの?

離れてても私に一方的に責められるだけなのに」

「どうしようかな……?」


状況は振り出し……いや、俺の方が不利かな?


「せっかく近づいて貰えるよう目も閉じてたのにバレちゃったし……

私も悩み所なんだよね……」


今の言葉がブラフじゃ無いなら、今の彼女に策は無いと言うこと……


(落ち着け、自分。そうだ、今までは派手な魔法を使った

セイラに集中してたけど……それ以外に何か無いか? )


必死に何も見逃さないように目を見開いて、辺りを見回す。

……盛り上がる観客席……変わらずヤバい黒雲……

黒焦げが増えてきた地面……次に……!!

これなら……やれるかもしれない。


「離れてても攻撃出来る方法を忘れたか?」


懐に収めていた水の魔導書の破かなかったページを開いて詠唱し、

俺は魔法の水のボールを飛ばす。


シュン!

「ん……それで?」


だが、彼女は上体を反らして避ける。


ビシャン!

「くっ……そらそらそら!」


雷の反撃をくらうが、構わず俺は水ボール三個を時間差をつけて飛ばす。


「おっと。次は右。最後は真ん中……」


セイラは最初は半身になりつつ全て避けたようだがそれで良い。

……目的の物は回収した。


「全部避けたな……じゃあこれでトドメだ!!! 」

ブクブクブク……


俺は両手を広げて、

身体を捻った程度じゃ避けれない程巨大な水ボールを生み出し、ぶん投げる!


(無理矢理呪文を妨害する気なら……! )


そう言ってセイラは次の雷を落とそうと詠唱を早め……


「お前って昔からさぁ! 本っ当に負けず嫌いだよな! 」

ビシャン!


雷が落ちた。だが、巨大水ボールにでは無い。

俺が投げたひとつの物体にだ。


(!?あれは……?)


宙を舞う物体の正体……それは。


「お前の鉄扇だよ! 俺がさっき拾っておいた! 」

「そんな……!雷が鉄扇に吸い寄せられた!? うぶっ……!」


驚きもつかの間に、セイラに巨大水ボールがぶつかり彼女の呪文は途切れて、

ついでに彼女の身体はずぶ濡れになる。


「終わりだ!!! 」

ガツン!


そして俺は飛び上がりながら帯電した鉄扇を剣でバトミントンのように打って、

地面に向かわせる。


ベチッ!バチバチバチ!

「……!!! 」


そうして地面に斜めの角度で向かっていった

鉄扇は濡れたセイラの胴体に当たり、彼女の全身に電流が走った。

彼女は一言も発さずに顔を歪め、やがて地面に膝を着いた。


「……勝者! 赤組! 」

わぁぁああああ!!!

「俺達の勝ちだー! 」

「私の見たてに狂いは無かったな……」

「うへへ……どこから記事にしましょうかねぇ」

「アイツマジで勝ちやがった……」

「すごいなぁ……流石僕達に勝ったチームのリーダー……」


場が歓声に包まれ、今ならよほど大声じゃ無い限り会話も聞こえないだろう。


「俺の勝ちだ……これで全部文句無いよな?」

「はは……負けか……」


俺はズタボロになった奈緒に歩み寄ろうと足を動かす。

これでこの壮大な兄妹喧嘩は終わりだ……


「……お兄ちゃん。今更だけどさ、ずっと言いたかった事が有るんだ……ごめ

ドゴォン!!!!!


………………???今、何が起きた?

何か……どこかから凄まじい爆発音の関係みたいなのが響いて……


「うわあああ!?なんだぁ!」


歓声が一転として悲鳴に変わって、混乱が場を満たす。


(俺は今……どうなってる?)


ようやく俺は自分が今地面に突っ伏す形で倒れている事に気づいた。


「……全身が痛い……」


それでも必死に顔だけ起こして、辺りを見た。

……燃えている……訓練上が……火に包まれてる。

じゃあさっきのは本当に爆発だったのか?


「……あ。奈緒……」


さっきよりも遠くに奈緒の姿が見えた。火には包まれていないが、倒れている。


「助けなきゃ……」


でも身体がついていかない……

その時だった。


「誰だ……?アイツ……?」


この状況で一人だけ不自然に落ち着いた様子の人物が奈緒に近づく。

そして……彼女を両手に抱えて持ち上げる。


「まだ死ぬのは早いよ」

「……おい! ちょっと待て! お前誰だ! 」


文字通り煙に包まれていて、姿の確認が出来なかった。

だから力の限り叫んで問う。


「キミもだよノーティス。

生きていてね……君がいないと僕の復讐は完成しないんだよ?」

「ま……て……よ……」


叫んだ時に体力を使ってしまったのか、意識が朦朧としてきた……

まだ……終われないのに……



今回は今までで最長の3200文字でしたが、

もうほんの少しだけ続く!

次回から最終章!

フォローとか星とかで応援してね!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る