第42話 決戦 VS黄組頭目 セイラ・リドゥー

ガチャッ。


「ザワザワ……」


少し重過ぎる扉を押し開けて、俺は訓練場に入った。

訓練場には既に見学の生徒が多く入っており、騒がしい。


そんな中で俺は無言のまま前に進む。

相手である彼女はまだ来ていないようだ。


「……ん?」


観戦席の方から視線を感じて、目線を移すとマロンとカイ、

それとライトやラグロも含めた何人かの顔見知りが俺を見ている。


「お前なら勝てるさ。頑張れ!」

「接戦の方が記事として盛り上がるんで頑張ってください! 」

「この俺達に勝ってるんだから負けんじゃねぇぞ!」

「頑張れー!痛たた……傷が……」


俺は手を振り返して返事をする。

そのまま騒ぎ声に包まれながら待っていると、

ようやく黄組の制服に身を包んだ彼女がやって来た。


「……」


彼女……セイラ……いや、奈緒と呼ぶべきか?

奈緒はかつてない程真剣な眼差しでこちらを見つめている。


……なんとなくだが、

今の彼女にはこの世界に転生してからの冷たさが感じられない。


例えるなら……悪役令嬢セイラとしての仮面を外していると言うか……

素の彼女のように見える。


「両者!前に!」


と、そんな事を思っていたら審判の掛け声が響いた。

掛け声に従って、訓練場の中央に歩みを進める。

彼女もまた、中央に向かって歩き出した。


「よう、久しぶり。こうやって対等に話すのはいつぶりだ?」


長いようで短かった三週間。

俺は彼女と対等に話す為に僅かな時間でのし上がった。


「……そんな挨拶はどうでも良いよ」


いつもの演技がかった口調も無く、彼女は素の状態でそう答えた。


「正直、自分が間違ってるかもしれないって思い始めたし、

あなたの気持ちも前より分かるようになった」

「それは良かった」

「でもね、まだ踏ん切りがつかないの。

最悪な人生を送って、『何をしようと幸せになる』って決めた気持ちは

そこまで軽く無いから」

「……そうか」


……その気持ち自体は俺には否定出来ない。

俺が変えたいのは奈緒の考え方と生き方だ。


「だから、今の『非道な悪役令嬢セイラ』の私を倒して、

私が間違ってるってことを証明して欲しい。

そうしてくれれば、私は私の誤りを認める事ができるから」


なるほどな……「非道な悪役令嬢セイラ」として積み上げてきたものを

俺にぶつけて、負ければ自分のやり方が間違ってたと

認めざるを得ない。そうしないと納得できないと結論づけたなら。


「お互い、本気で行こうか」


真正面から打ち崩してやるだけだ。

俺の妹は、家族は、悪役令嬢セイラじゃない。

生野奈緒だから。その歪んだ仮面をぶっ壊してやる。


「……ええ」


審判に目線を送り、挨拶が終わった事を知らせる。


「ごほん、それでは……勝負開始ィ!」


そう言われた瞬間。

彼女の鉄扇が俺の側頭部目掛けて振りかざされ、俺は剣で防ぐ。


ガキィン!


と言う音と共に火花が散る。


前世では出来なかった、絶対に負けられない兄妹喧嘩が始まった。


(くっ……)

「はっ!」

「……」


俺が攻撃を防いだと思った次の瞬間には、鉄扇の二撃目が眼前に迫る。

俺は二歩程下がってその攻撃を避けた。


「いきなり全力って感じだな……今度はこっちの番だ」

「まだまだ肩慣らしだけどね……」

「セェイ!」

パンッ!

(……鉄扇の面部分で受け止められた!)

「ハアッ!」

「うおっと!」


ガードから、セイラは鉄扇で剣ごと振り払ってきた。

俺は構えを崩されたまま隙を晒してしまう。


「その程度なの!」

シュン!


そして隙を晒した俺に、

セイラは容赦なく首元を狙った横振りの追撃をしてくる。


「いいやまだだ!」

グッ。


だが、俺は鉄扇では無く、彼女の手首を右手で掴んで攻撃を止めた。


「くっ……」

「……」


俺はセイラの右手首を捻って武装解除を狙う。


カラン。


「狙い通り!」


彼女は痛みで握力を弱め、鉄扇を手から落とす。


「離してっての!」

「何っ!?」


だが、彼女は自ら体勢を崩して、俺に掴まれたまま左手で鉄扇を回収する。


「はいっ!」

「うおお!?」


回収した勢いのまま、まるで社交ダンスのようにその場で身体を一回転させ、

勢いを利用した足払いが飛んでくる。俺は飛んで避ける……が。


「せっ!」

「ぐっ……!」


次に飛んできた鉄扇によるみぞおちへの突きを避けられずに、くらってしまう。

俺はみぞおちを抑えながら一歩後退してしまい、彼女から手を離してしまった。


「……流石に、やるね」

「お前の兄貴だからな……」


今の所俺の方が押され気味だが、それでもセイラにとっては珍しい事態らしい。


「……そろそろ身体も温まってきたよ」

「……俺もだよ」


……おれも身体が温まってきたというのは強がりだ。

さっきから本気なのに隙が見えない……


「セイ!」

キンッ!

「ハッ!」

ガッ!

「はいっ!」

ゴンッ!


セイラの方は強がりでは無かったようで、

鉄扇による乱打を俺は必死に防ぎ続ける。


「もらったよ! 」

バシンッ!コロコロ……

「しまっ……」


……ガードの癖を読まれたのか、彼女の的確な一撃で俺の剣が宙を舞った。


「やられっぱなしはごめんだ!」

バキン!

「なっ……」


だが、俺も彼女の油断を突く。

俺はまだ試合で一度も見せていないハイキックで彼女の鉄扇を弾き飛ばした。


「腕さえ警戒しとけば良いと思ってただろ?」

「くっ……」

バンッ!


セイラは咄嗟に俺を突き飛ばし、距離を取った。

……俺の剣はだいたい三メートル左、彼女の鉄扇は五メートル右に落ちている。

どっちが先に武器を回収するかの勝負なら俺の方が有利だが……


「……燃やせ! 」

「! 」


咄嗟に上半身を逸らして避ける。

俺の背後の壁からプスプスと黒煙が上がるのが見えた。


「……炎魔法か」


セイラの右手から炎が立ち上り、それが球となって幾つもこちらに飛んでくる。

戦いは次のフェーズに移ったようだ……



プロローグと少し会話が違うのはご愛嬌。

プロローグの方にはネタバレ防止とかもあるので……

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