第29話 静かな支え合い

マロンが激闘を繰り広げている一方、

ノーティスとカイは学園に帰ろうと馬車を借りに来ていた。


「はぁ〜……せめて観光くらいしてから帰ろうと思ったんだけどな〜……」

「驚く程何も無い田舎でしたね……」


マロンも家の用事があるようだし、目的のライト君が既に学園に行ってしまったのなら観光くらいしかやる事が無いのだが、このトーシャ村に観光名所と言える場所は無かった。


「牧場の人に聞いたらあの馬小屋から馬車に繋ぐの選んで来いってさ」

「なるべく元気で速そうなのにしましょう!一刻も早く帰りたいので!」


村への興味を完全に失ったカイが騒ぐ。

まあ、俺も行きの時に馬車の辛さは理解したので早く帰りたいのは同じだが。


「ん?なんか馬小屋の前に誰か立ってるな」

「牧場の人じゃないですか?」


いや、それにしては殺気だってるような……

首を左右に振って周りを確認してる様子はまるで門番だ。


「お、おい!お前ら何しに来た!」


小屋に入ろうと近づくと、男が声を掛けてきた。


「何って……馬を選びに「こ、この小屋は立ち入り禁止だ!帰れ!」

「うわわ!急に棒を振り回しだしましたよ!」

「……お前牧場の人間じゃないな?」


ただならぬ気配を感じ、俺は戦闘態勢に入る。


「ガ、ガキが剣持っても何も変わらねえんだよ……」


俺が剣を構えた様子に男は恐れているように見える。

……少しは様になってきたのかな。


「う、うおおおおお!」

「おっと危ない」


突進して来た男を横に躱す。

そのついでに足を掛ける。


「うわあああ!?」

ゴチン!


男は見事なまでに体勢を崩し、地面に頭を打ち付けた。


「……」

「あれ?もう終わり?」

「……ノーティスさん、白目剥いてます。打ち所が悪かったみたいですね」

「なんだよ、剣構えるまでも無かったな」


剣を収め、用の有った小屋の中を覗く。


「!?」


小屋の中ではマロンがナイフを突きつけられていた。

まて、どういう状況だ?


(ノーティスさん?……って!マロンさんがピンチですよ!?)

(いや、それは俺もわかってるけど……)

(助けましょうよ!)


カイが状況を確認して焦り始める。


(小屋の中に倒れてる奴が何人かいる……マロンがやったんだな)


見る限りナイフの男が最後の一人のようだ。

そして、マロンは剣を強く握り締めていて諦めを感じさせない様子だった。


(……ノーティスさん?行かないんですか?)

(俺が出しゃばる必要は無いよ、でも助ける)


俺は足元に落ちていたボール程の大きさの石を拾う。


(彼女は大切な物を守れる強い剣士に憧れていた)


心の中でそう呟き、石をナイフ男の背中を狙って投げた!


ビシッ!

「痛っ!誰だ!?」


男がこちらに振り返る。

だが、俺は素早く引っ込んだので男の視界には誰も写らない。



「……?」


もう駄目かと思ったその時、男が背中を見せた。

……チャンスだ。


「うおおおおお!」

「なっ!?しまった!?」

ベキッ!


私の大剣の峰打ちが男の頭頂部にクリーンヒットする。


「安心しろ、峰打ちだ」

「ははっ……クソッ……邪魔が入ったな……」


男はその場に倒れ、気を失った。


「マロン……!」


足から血を流した父親が私を呼ぶ。


「父さん。大丈夫か?」

「お前に比べたら大した怪我じゃない」

「お嬢様、ご主人様!大丈夫ですか!今すぐ村の衛兵を……!」


足を刺された割に落ち着いた様子の父親とは対照的に、執事は取り乱した様子で馬小屋の外に走っていった。


「父さん。見ていてくれたか?」

「……ああ、立派な物だな。大の男四人に勝ってしまうとは」


「私は今日みたいに、大事な存在を守るために剣を磨いてきたんだ。

認めてくれるか?」


「……行動で示されてはもう私はとやかく言えんよ」

「……!では!」


「認めるさ。お前の好きな道を歩んでくれ。ただし、いざとなったら自分を大事にしてくれよ?今日だって、頭の固い父親である私を見捨てて逃げてくれても

良かったんだぞ」


「はは、そんな事言わないでくれ。同じ様な事があったらまた守って見せるさ」

「ははっ。ありがとうな、マロン」


小一時間前に喧嘩したとは思えない程柔らかな親子の雰囲気が、

場を満たしていた。



それから次の日。学園に登下校する道すがら、ノーティスとマロンは偶然

顔を合わせていた。


「……ノーティス。おはよう」

「おはよう、マロン。君の方から挨拶してくれるなんて珍しいね。

でも今日は一限が近接戦闘実技だから着替えないといけなくて……

雑談してる暇は無いんだ。ごめん」


ノーティスはそう言って、一人急いで学園に向かう。


「あっ、ちょっと待ってくれ」

「……何?」


だが、マロンはノーティスを引き止めた。


「その、なんだ。昨日は助けてくれてありがとう」

「……ふふっ。何のこと?」


ノーティスはすっとぼけた様子を見せる。


「昨日、あのまま私一人ではやられていた」

「分からないって。俺が知ってるのは、マロンが一人で盗賊団を倒した事だよ」

「……やはり、お前か」

「君は一人でもどうにかしてたよ、じゃあね」


今度こそ、ノーティスは学園に向かって走っていった。


(村に行って良かったな。大事な仲間が夢に近づく手助けができたんだ)


ノーティスが心の中でそう呟くと同時に、マロンも心の中で呟く。


(……ありがとう。お前が仲間で良かった)


二人の絆は確かなものに強まっていた。

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