第12話 名誉の決闘 VS黄組参謀 エリト

決闘当日。

中央運動スペースには大量の見物客が押し寄せていた。

全てはカイ・シュザイが焚き付けに書いた

『セイラの懐刀エリトVS謎の因縁を持った刺客ノーティス』

と言う見出しの派手な記事のせいだ。


「ハイハイー!ジュース有るよー!」


……その上騒ぎに乗じた小遣い稼ぎをする者まで現れ、

場はカオスに包まれている。

この騒ぎの中心人物というのはあまりいい気分じゃ無い。


「顔色悪いぞ、これでも飲むか?」

「ん、ありがとう……」


マロンは割高のジュースを僕の分まで買ってくれたらしく、感謝を伝えながら

冷えた液体を胃に流し込む。緊張のせいか妙に苦い味を感じた。


「……頼みましたよ、まぁあなたが負けるなんて有り得ないとは思いますが」

「ふふ……期待に添えるように頑張るよ」


俺が緊張している一方で、彼らはこういう場に慣れきってるのか

落ち着いた振る舞いを見せている。……駄目だ駄目だ、俺も落ち着こう、

これでは始まる前から負けてるような物じゃないか。


ゴクゴク!

「すぅー……はぁー……」


慌ただしくジュースの残りを一気に飲み下し、深呼吸をする。

だが、武者震いのような感覚が取れない。


「周りを見て見ろ、お前は場違いじゃ無いさ」


そう言われて周りを見渡す、人並みの最前線に手帳を持ったカイが居る、

その視線は俺に注がれている。


ザコスは……ジュース売りのバイトをしながらも

チラチラとこちらを気にかけてくれている。


それに、名前すらもよく分からない

赤組のクラスメイト達ですら俺を応援してくれているようだ。


最後に、マロンがいた。

そのぼんやりした印象の目は俺の勝利を信じてくれている。


「ありがとう、マロン。思ったよりアウェーじゃ無いのが分かったよ」


気づくと、気分は落ち着いていた。


「試合開始五分前!両者前に!」


試合を取り仕切る教師がそう宣言し、俺とエリトは互いに前に出た。


「……よろしく」

「……ああ」


エリトはにこやかな顔で握手の手を差し出す、断る理由は無いので応じる。


温かさはあるが、人の手では無く無機物を握ったような感覚がした。

彼の性根の冷たさ故だろうか。


「僕は魔法が不得手だから魔法だけ無しのルールにして貰ったよ、

いやーごめんね?」


奴はいけしゃあしゃあとそう言う。

ここまで平気で嘘が吐けるというのはある意味尊敬も出来る。


「安心しな、そんなルールで俺は弱くならないから」

「ふっ、皆最初はそう言ってたよ」


舌戦は両者引かずに終わり、手を離す。

そして、互いに一定の距離離れてから木剣を構えた。


ルールは魔法無し、剣一本での勝負。

元の世界のようなスポーツでは無いので結構なんでも有りの戦いだ。


剣を持てなくなったり気絶したり等、戦闘が続けられなくなるか、

先に降参した方の負け。


「両者構え……勝負開始ィ!」


「ワアアアアア!」


「行くよ……」

「どっからでも来いよ」


勝負は始まった。

エリトはフェンシングのような構えで距離を取った戦い方、

対して俺は剣を中段に構える剣道に近いスタイル。


「ふっ!」


と、早速エリトが突き攻撃を打つ。

俺はそれを難なく避ける、だが。


ピリッ。

「ッ!痛いな……!」


剣は避けた、だが不可視の魔法の風の刃が俺の右頬を出血させた。


「おっと、出ましたねぇ!エリトの神速の剣技!

例え避けても既に当たっている!これがエリトを剣の申し子たらしめる技!」


(何が神速の剣技だよ……)


突きは確かに速い、だが「神速」とは言い過ぎだ。


剣技に注目させ、大衆も対戦相手も騙すその姿は剣士というより

奇術師に見える。


「ほらっ!ほらほらぁ!」


続いて勢いに乗った三連突きが飛んでくる。


彼の右手の剣は見切っているが、避けた先に風魔法が飛んでくる為に

小さいダメージが蓄積していく。


「流石だね……」

「これが実力差って奴だよ」


まだ俺は何もしていないのに勝ち誇っているのは自信とも油断とも取れる。

……俺には油断に見えるな。


「そろそろ、俺も本気で行くぞ!」

「ふん、来なよ!」


そう叫んで、俺は奴目がけて剣を大上段に構え突撃する!


「君みたいな馬鹿がやる事は決まってるから分かりやすくて助かるよ」


そう言うと、奴はフェンシングのような構えから

攻撃を受ける為の防御の構えに切り替える。


そう、コイツの勝利パターンは決まっていた。


剣技(魔法)の手品で翻弄された相手はリーチ差をなんとかしようと

近距離戦に持ち込もうとする。


奴はそうして相手が攻めて来た所を、

剣で受け流してからのカウンターで致命傷を与えるのだ。


だが、俺はその戦法を理解している。

当然対策済みだ!


「オラアア!……と、見せかけて!」


パシッ、グイッ!


「!?」


俺は剣を振り下ろすフェイントを見せたお陰で

完全に打撃を受けるつもりだった奴の剣を左手で掴み、

強引に俺の眼前まで引き寄せる!


「策士策に溺れるって言うのは良く言った物だよ……オラッ!」


そして、剣を掴まれ防御出来なくなったエリトの

顔面目がけて剣の柄で殴る!殴る!殴る!


ガッ!ゴッ!ドゴッ!

「ガハァ!」

「終われ!」

ドスッ!


額と頬を数発殴られ、前後不覚になったエリトのみぞおちにヤクザキック

を入れる、彼は数歩後ずさって膝をつく。


「最後くらいは剣技で決める。くらえっ!」


俺は止めの一撃を入れようと、奴の頭頂部を狙った一撃を放つ!勝った!


ガッ。


鈍い音が響く、俺の剣は奴の頭では無く腕に命中していた。


「この俺を、舐めるなよぉ!?」

「!」

ブオン!


奴がそう叫ぶと同時に俺の剣を押しのけて立ち上がり、

さらに顎を狙った振り上げ攻撃をして来た。


……もし、食らっていたら一撃で意識が無くなっていたのが分かる。


「……お前にそんな根性が有るとは思わなかったよ」


俺は奴から距離を取りながらそう言う。


「平民の……カスが……俺に勝てる訳がねぇんだよ……!」


立ち上がったエリトは普段の紳士ぶった仮面が外れ、

醜い本性と、闘志をさらけ出している。


先程までと同じだと思ってはやられる。

俺はそう確信した。

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