幕門 「有能な『ひねくれた』妹」
生まれてからいい事なんて一つも無かった。
だから私は勉強して、周り全部利用して幸せになってやるんだって思ってた。
それなのに。
プアアア!!!
「危ない!」
『え?』
ガシャン、と音がして次に私の身体は宙を舞った。
上と下がどちらなのかすら分からない。
そう思っていたら背中に痛みが走る。
私は無様にも電柱に叩きつけられ、そのまま地面に落ちる。
そして目の前の光景を見て何が起きたか理解した。
焦る人々、破損したトラック……最後に、四肢が関節と逆に曲がって頭から血を流しピクリとも動かない兄の姿。
ああ、そうか、私は庇われたんだな。
でも、全ては無駄でこれから私は死ぬ。
『そんなの……嫌だ……』
そう思いながらも意識が持たず、結局視界はブラックアウトする。
……そしてどれくらいの時間が過ぎたか、たった一秒かもしれないし、
百年はあったかもしれない。
とにかく、気づくと私はゲームの登場人物セイラとして生まれ変わっていた。
『ああ、良かった、私の努力は無駄にならなかったんだ』
しかし、心のどこかではあのまま死んでいたかった気がする。
人生なんて辛いんだから。
そして、直ぐに事態は理解出来たから、まず「自分の愚かさにうんざりした」
と各地に言って回り「馬鹿令嬢」のイメージ払拭に務めた。
そして、学校の重要人物を口説いて回った。
便利で従順な駒として使いたかったから、幸いにもゲームの知識を覚えていた
お陰で口説くのはとても楽だった。答えが隣にあるテストのような物だ。
手に入れた力で主人公が来るのを阻止した、仮にも「私」を倒す予定だった存在なのだ、警戒するのは当然。この調子で誰も自分に勝てない程の力を身につけようと思っていた。そんな時に。
「お前……奈緒か?」
あの兄もこの世界に来ていた。
頼り無いと分かっているのに、会えた事が嬉しかった。
染み付いてきたお嬢様言葉を抑えて昔の自分を思い出しながら喋った。
「なあ、奈緒。別にそんな人を利用するような事をしなくてもいいだろ?
普通に慎ましく暮らしていればお前が主人公に退治される事なんて無いはずだし、前みたいに一緒に暮らそうよ」
その言葉は私に強い怒りを呼んだ。前みたいに暮らすのなんて特にお断りだ。
気づくと自分の決意を語っていた、こっちに来てから誰にも言っていなかった事なのに。誰かに本当の自分を理解して欲しかったのかもしれない。
「不幸だったってのは他人を傷つける免罪符じゃない!」
どうしてこうもこの兄は私を苛立たせるのだろう、無能なのはまだいい。
でも、なんでお前はそんな正論が言えるんだ。
私と同じ環境で私と同じ遺伝子を持って生まれたのに、何故あなたは
歪んでいないんだ。その事実は私が弱かったと言ってるような物だ。
『うるさい!』
もう、これ以上聞きたく無くて、ハッキリと
自分が何をしているのか意識して電流の魔法を放った。
叫びながら彼は倒れ伏す。何を言うべきか迷って、前の私は死んだと
言った。そんな事無いのに、私は生野奈緒なのに。
……いや、それでいいのかもしれない。
兄に手を上げ、周囲の人間を利用して成り上がる私は『悪役令嬢セイラ』
がお似合いだ。
そう、思っていたのに。数日して連絡が入る、シャドウ・ノーティス……兄が
赤組のリーダーに立候補したというのだ。
理由は明白だ、黄色組リーダーの私に対抗できる力を
手に入れようとしたのだろう。
あいつは、唯一の家族である私に否定されてなお、立ち上がった。
そして今は、決闘の舞台で私達の相手として立っている。
戦うのは私の側近エリトだが、彼はずっと私を見ていた。
似合わないオールバックに変えていた彼は前とは別人のようだ。
何故彼が強く有れるのか分からない。私が分からない事なんて無かったのに。
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