第13話 意地の決闘

「平民のカスが……ふざけやがって……!」


先程までの優雅な立ち居振る舞いはどこへやら、

構えも何も無い状態で俺を睨みつける。


「……」


チラッと奈緒の方を見た。


手にした扇で隠されているせいで表情は読めないが、

少なくとも焦った様子は見えない。


「どこ、見てやがる!」

「!」


ブオンッ!と空を切る音が響くフルパワーの振り回しが俺に襲いかかる。


「そんな大振りで当たるかよ……!」


そう思って、ガードする。だが。


(……やばい!押される!)


つばぜり合いの形になり、ブチ切れているせいか

馬鹿力で押してくるエリトに押し返す事ができず、

ピンチに陥る。


「ぬおおお!らぁ!」

「くっ……!」


結局そのまま押し切られ、構えが崩れた状態で後ずさりしてしまう。


その隙をエリトは見逃さなかった。


「くらえええええ!」

「ぐあああああ!」

バシィ!


斬るというよりは殴りに近い横一文字が肩の辺りにクリーンヒットし、

俺は吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。


(クソッ……剣も吹っ飛ばされてどっかいったし相当まずいぞ……)


地面に倒れながらそんな事を思うと、エリトが目の前まで歩いて来る。


嫌な予感しかしないが全身の痛みで起き上がれない。


「手こずらせやがって……死ねぇ!」


ドゴッ!


「カヒュッ……」


肺に容赦の無い踏みつけが入り、口から酸素が漏れる。


「先生、これは……」


「うむ……もうそろそろ決着か?」


「!」


ああ、駄目だ。このまま倒れてたら決着が着いてしまう。

早く、早く起き上がならきゃ。でも、全身に力が入らない。

負け……



ああ、決まったな。

セイラこと、生野奈緒はそう思った。


渾身の横一文字だけでも致命的なのに

踏みつけの追い討ちまで食らったのだ、立てるはずが無い。


人間というのは案外弱いのだとトラックに轢かれた時学んだ。


(そんなんだから馬鹿見るんだよ、ルール守らない相手に

ルール厳守で挑んで、必要以上に傷ついて。バカみたい)


そう、思った時。彼がこちらを見ているのに気づいた。



「……」

(奈緒……)


諦めかけたその時、奈緒と目が合った。

思い出せよ、俺はなんの為に戦ってるんだよ。


妹にあんな冷たい目をして欲しく無かったからだろうが!

起きろ、生野不諦!


僅かに、腕が動いた。次には足が動く、ゆっくりだが立ち上がった。


「先生、立ちましたよ」

「……両方根性有るな」


「まだ、立つのかよ。さっきので死んどけよ」


「ハッ、人間はこの程度じゃ死なねぇよ……」


再び奈緒の方を見ると、扇で隠すのも忘れて驚いた顔を見せている。

初めて見たな、そんな顔。


「俺は負けられない。前には何も出来なかった。いや、しなかった

責任を取らなきゃいけないんだよ……!」


そう真剣に言うノーティスの目元の傷から滴る血は涙を思わせ、

観客達すら圧倒する気迫があった。


「?……訳わかんねぇ事言いやがって」


今の言葉が奈緒に届けばいいな。


「今度こそ死ねよ!」


そう叫んで再びエリトは襲いくる。

どうすればいいか考えようとした時。


「ノーティス!受け取れ!」

「!」


吹っ飛ばされた剣はマロンが回収してくれていた。

剣はこちらに投げられて、俺はそれを右手でキャッチした。


「マロン!ありがとう!」


「ああ!」


「よそ見すんなって言ってんだろ!?」


エリトの一撃をガードし、つばぜり合いの形になる。

先程のピンチとまったく同じ状況が出来上がった。


「このままさっき見たいに押し切ってやるよ……!」


エリトはそう呟いてニヤつく。だが彼は勘違いしている。

俺は同じミスを続けてする人間じゃ無い!


「それはどうかな?」


右手で奴の胸ぐらを掴み、俺はそのまま背中から地面に倒れるように動く。


「?……ぬぁ!?」


フワッと、エリトの身体が空中に浮き、

俺は押し上げるように浮いた身体を蹴る。


空中のエリトと目があったが、彼は自分がどうなったか分からないようだった。


ビタンッ!


「ごはっ……?」


そして、次の瞬間には地面に勢いよく叩きつけられる。

相手の押してくる力を利用した巴投げが決まった。


「終わりだよ」


叩きつけられたショックでエリトが手放した剣を回収して無力化し、

自分の剣を今だに混乱している彼の首に突きつける。


「……」


審判である教師を見ると、しばしの黙考の末に高らかに宣言した。


「勝者!ノーティス!」


その瞬間、場は歓声に包まれる。

思わず全身の力が抜けて座り込む。


そうした瞬間、マロンとカイが近くまでやって来て顔を拭う布と

水をくれた。


「よく頑張ったな。赤組リーダーの強さ、見させて貰った」


「いやー、良い記事になりますよこの決闘は!インスピレーションがドンドン

降りて来てますもん!」


「ハァ……ハァ……皆、ありがとう」


そう言われて自分がこの決闘を制したのだと言う

実感がようやく湧いてくる。


(そうだ……奈緒は……アイツは?)


疲労でぼんやりと靄がかかったような視界の中必死に探す。

だが、どこにも見つからない。もう帰ってしまったのか?


結局久しぶりに会えたというのに何も伝えられなかった。


試合には勝って勝負に負けるとはこういう感覚なのだろうか。


消えかけの意識で、俺はそんな事を思っていた。



第二章完。


心の強さでエリトを上回ったノーティス君でしたが、

結局目的は果たせていません。


三章ではもう少し解決に近づくと思うので、

良かったら★とかフォローとか♡応援とかよろしくお願いします。

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