第6話

「すごいですね、人工勇者の一部となる資格を得ましたね」


全身白色男は俺のところにやってそう言い放ち、全身白色男の周りには三人の部下がおり、俺のことを拘束している鎖が切られる。


そして連行されていく。


「あなたは資格を得た、ならば準備段階に入らないといけない、よって別の部屋にいることになります」


…まだ猶予はあるみたいだ。人工勇者の一部になるには少し時間がかかると見てよさそうだな。


そして俺は先ほどいた牢屋よりも大きめの牢屋に入れられた。しかしそこには住人がいた。


全身白色男とその部下が去ったあと、部屋に隅っこで体育座りをしている住人に話しかける。


「俺の名前は清水、少しの間よろしくお願いします」


住人の容姿はツルーンペターンではあるがエルフ耳で、顔立ちは女性的でありながらも幼くも見えず逆に老いているようにも見えなかった。


「わしの名前はヴィッツ・ユーバーへーブリヒ、長いのでヴィヒと呼んでくれ。さっそくじゃがお主、吸血鬼にマーキングされてるじゃろ」


!!

これは驚いた。エキドナの言う通りなら魔王級のエルフになる。少し警戒しないとな。


「そんなに気を張らなくてよい、わしの他にわかるのは現魔王ぐらいじゃ、わしはただ長生きをし、その結果ここにいるだけ」


「どれぐらいここにいる?」


「ざっと14年前ぐらいかのう」


…人工勇者が作られ始めたのは16年前と推定している、つまり初期に捕まったのに人工勇者の一部にされていない。おかしい。


「なぜ人工勇者の一部にされない?」


「簡単じゃ、人工勇者が耐えられないのじゃ」


「耐えられない?」


「そうじゃ、スキルが強すぎる者、スキルの数が多い者に対して人工勇者は今は耐えられないのじゃ、もし耐えられなくなると破壊教団がせっかく立てていた計画がおじゃんになる」


つまり破壊教団からして捕まえられたのはいいが人工勇者が耐えられないのでヴィヒを監禁しているのだろう。人工勇者が耐えられる時まで。


「清水、お主はどうやってさらわれた?」


ダスダーマ公園に散歩しに行くと破壊教団に襲われたと。


「なるほど、全身白服に纏われた男と会ったか?」


「ああ」


「あいつはアクリル・イエアといい、破壊教団の教祖だ」


…まじかよ、教祖か。不思議な雰囲気を持っていることに納得した。


「あいつはスキルを四つ持っておる」


「四つも?!」


勇者と俺と同じ数を持っているのか。


「そうじゃ、戦闘系のスキルは一つもないが厄介なのは『不死』というスキルじゃ」


『不死』か、確かに厄介だ。

殺そうとしてもそれができないのか。


「だから、わしもここから脱走しようとしたことがあったが、『不死』による捨て身の戦法によって毎回捕まったのじゃ」


「そうなのか」


脱走よりも戦闘をして勝って逃げるしか無さそうだ。


「他に気になることはあるか?」


「『』のように空白のスキルがあるんだがどうすればいい?」


そう言った瞬間、ヴィヒの顔が驚嘆に変わった。心当たりはあるようだが見たことがないように思えた。


「本当か?!」


「そうだが…」


「初めて見ることだが言い伝えでは『』のように空白になっているスキルは別名空きスキルと呼ばれ、他人のスキルを得ることができると言われておる」


「なるほどな…ありがとう」


アクリルの『不死』を得ることができたら…最強になれるかもしれないな。


「『不死』を得たとしてもどうなるか、わからないのじゃがな」


「どういうことだ?」


ヴィヒには考えたことがお見通しのようだ。話の流れ的にもわかりはするだろうが。


「アクリルは『スキル強化』というスキルを持っておる、『不死』も『スキル強化』によって強化されておるはずじゃ、その『不死』を得ても、強化された状態のままである可能性は低い」


「あー」


『不死』を得てもアクリルが持っていた効果のままであることはないということか。


「アクリルは他にどんなスキルがあるんだ?」


「『スキル合体』と『鑑定』そして先ほど出た二つのスキルじゃ」


…勝機はあるな。アクリルは俺のスキルは『不眠』だけだと思っているはずだ、そこをいかに使うか。そして『刹那』のタイミングさえ間違わなければ…


「勝機を得たといったところか、楽しみにしてるぞ」



「楽しい楽しいお話は終わりましたか?」


アクリルが単独でやって来る。どうやら聞かれていたようだ。


「明日、君は人工勇者の一部になることが決まった、素晴らしい!!君はこの世に名を残せますね!」


そう言うとアクリルは戻っていった。機嫌がいいのか興奮気味な声を出している。

明日か、そもそも戦闘できるチャンスはあるか?これ。アクリルとの一対一なら勝機はあるが、人工勇者の一部になる時、流石に部下たちがいるだろう。俺は一対一を想定した近接戦闘スタイルだ。全体攻撃の技はない。つまり人数不利を背負うと負ける。


「もう少ししたら飯が来る、その後言いたいことがある」


明らかに寂しがっているヴィヒはそう言った。

俺は静かに頷いた。







「清水がいるのは…え?ここって」


マーキングは相手の位置を把握できる。なのでエキドナはすぐに清水の居場所がわかった。

場所が問題だったのだ。



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